クローン病

クローン病は、腸だけではなく、 口から食道、胃、小腸、大腸、肛門に至るまでのすべての消化器官の壁に潰瘍ができる病気です。 クローン病では、長く続く腹痛や下痢などの症状が現れたり治まったりします。 症状を繰り返すことで病態が次第に悪化するため、治療では早期から症状を抑えることが重要になります。


■「クローン病」とは?

年々患者数が増加している
10~20歳代で発症することが多い

「クローン病」は、口から始まり、食道や胃、小腸、大腸、肛門へと繋がる長い消化管のどこかに、 慢性的な「炎症」「潰瘍」が起こる病気です。 一番多く発生するのは小腸と大腸で、回腸末端(小腸の終わりの部分)には必ず潰瘍ができます。 完治が難しく、2008年3月「特定疾患(いわゆる難病)」に指定されています。 クローン病はかつて日本では珍しい病気でしたが、年々増加しており、 厚生労働省の調査によると、2016年度のクローン病の患者さんは42,789人と報告されており、患者数は年々増加しています。 クローン病は10~20歳代の若い年代で発症することが多いのが特徴です。 クローン病の原因はまだよくわかっていませんが、起こる仕組みは少しずつ明らかになってきています。 体内に侵入したウィルスや細菌から体を守る「免疫」の働きのバランスが何らかの理由で崩れ、 細菌・ウィルスはもちろん、腸内に入ってきた食べ物などに対してまで過剰な免疫反応を起こすためではないかと考えられています。


●クローン病の症状

長く続く腹痛や下痢などを繰り返す

「腹痛・下痢・下血・痔」など、お腹や肛門に関する自覚症状が現れます。 クローン病は、特に小腸の終わりの部分と大腸に炎症や潰瘍が起こりやすく、下血の症状では、主に赤い色の血が出ます。 進行すると「発熱・体重減少・貧血」などの全身症状が起こることもあります。 炎症によって微熱が生じたり、38℃以上の発熱が起こります。 軽度だと、”お腹のかぜ”と思われて見過ごされることもよくあります。 さらに、炎症や栄養障害のため体重が減少します。

これらの症状は他の病気でも起こりますが、クローン病では、腹痛や下痢が何ヶ月か続く「活動期」と、 症状が治まっている「寛解期」を交互に繰り返します。 また、始めは炎症や潰瘍だけですが、活動期と寛解期を繰り返すうちに、次第に腸管の一部が狭くなります(狭窄)。 狭窄によって便を先に送れなくなると、別の部位へ通り道を作ろうとして「瘻孔(ろうこう)」ができます。 中でも、腸管からお尻の表面まで便の通り道ができる「痔瘻(じろう)」がよく起こります。 痔瘻とは、肛門や直腸の潰瘍が深くなって膿が溜まり、やがて肛門の周囲の皮膚を突き破り、膿の出るトンネルができてしまうものです。 これらの症状が繰り返し現れるようであれば、軽く考えずに、きちんと専門医を受診するようにして下さい。


●クローン病の検査

検査ではまず問診が行われ、症状の確認をします。その後、「便培養検査」などで他の腸の病気ではないかどうかを調べた後、 「大腸内視鏡検査」や「エックス線検査」で大腸の炎症や潰瘍の有無、その程度を調べます。 同じく小腸の炎症や潰瘍の有無、その程度を調べます。 発熱などがある場合は、「CT(コンピュータ断層撮影)検査」や「MRI(磁気共鳴画像)検査」を行い、腸管の狭窄の状態などを調べます。


●クローン病の治療

活動期から寛解期に導いたり、寛解期を維持したりする

治療では、活動期からできるだけ早く寛解期に導き、その状態を維持することが目的となります。 日本では、「薬物療法」と「栄養療法」を併用するのが基本です。 薬物療法は、活動期にも寛解期にも行いますが、栄養療法は活動期が中心です。 腸管に狭窄や瘻孔などが起きている場合には、手術が行われることもあります。


◆薬物療法

炎症を抑えたり、防いだりするために、主に次のような薬を使用します。

▼5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤
クローン病の治療においてよく使われる薬です。炎症を引き起こす物質に働きかけて炎症を抑えます。 この薬は、寛解導入・寛解維持どちらにも使われます。 クローン病の薬物治療において問題となりやすい副作用である免疫機能の低下がないので安心して使えます。 内服薬のほか、病変部に直接薬を届かせることで効果を高める坐薬と注腸もあります。

▼ステロイド剤
ステロイド剤は、炎症を早く抑えられるという特徴を持っています。 5-ASA製剤での効果が得られないときや、5-ASAの使用で副作用が出てしまった場合、そして寛解導入で使われます。 炎症が強いときには、最初からステロイド剤を使うこともあります。長期的な効果は期待できません。 また免疫機能が低下しやすい副作用があるので短期での使用に限ります。ステロイド剤は内服のほかに、注腸があります。 日本では2016年11月にブデソニドがクローン病治療薬として発売が始まりました。 この薬はもともと気管支喘息の治療薬ですが、副作用が出にくいステロイド剤ということで注目されています。

▼チオプリン製剤
チオプリン製剤は、免疫の異常をコントロールする薬です。 炎症に関係する白血球やタンパク質の合成ができないようにします。基本的には寛解維持療法で使われます。 チオプリン製剤の6-MP散剤は保険適応がありません。 免疫機能に作用するため、効果が期待できる一方で感染しやすい傾向になることがあります。

▼タクロリムスとシクロスポリン
タクロリムスとシクロスポリンは、免疫を抑制する効果があります。 タクロリムスは素早く高い効果が得られるため、重症度の高い患者さんの寛解導入で使われます。 この薬は、服用するうえでの注意点が多く、ほかの薬や食事に影響を受けやすいという特徴があります。 また血中濃度が高くなりすぎると副作用の出現率が上がってしまうため、血中濃度が高い時には使用量を減らしたり、中止したりします。 シクロスポリンも重症度が高い患者さんへの使用となりますが、この薬は保険適応がありません。 タクロリムスもシクロスポリンも、感染への抵抗が弱くなる副作用が出やすいため、短期での使用となっています。

▼抗TNF-α抗体製剤
この薬は、体の中で炎症が起こるときに作られるサイトカインという物質の1つで、クローン病の患者さんはこのTNF-αが大量に作られています。 よって、抗TNF-α製剤を使うことでTNF-αを作りにくくし、それと同時にTNF-αの働きを抑える効果があります。 寛解導入にも寛解維持にも使えますが、その使用は今までの治療で効果があまり得られなかった場合に限られています。 薬にはインフリキリマブ(点滴)とアダリムマブ(皮下注射)の2つがあります。

▼その他
これらのほか、大腸の病変が中心の患者さんや肛門に病変がある患者さんには抗菌薬を使うこともあります。

薬の種類に関わらず副作用が起こることはあるため、定期的に受診し、体調に変化があった場合は必ず担当医に相談してください。


◆栄養療法

クローン病では、腸への負担が少ない、低脂肪で適度なエネルギー量の食事を摂ることが基本です。活動期は「成分栄養剤」だけを摂取します。 成分栄養剤とは、炎症を起こす原因となりやすいたんぱく質が少なく、 「アミノ酸」を豊富に含んだ低脂肪の栄養剤で、粉状のものを水に溶かして使います。 活動期には口から飲むと下痢をすることがあるので、鼻から細いチューブを入れて、胃や腸へゆっくり注入します。 初めに入院して指導を受け、その後は自宅で行います。 症状が徐々に治まり、寛解期へ移行してきたら、成分栄養剤を減らし、通常の食事を増やします。 成分栄養剤は口から摂取できるようになります。寛解期は通常の食事ができるようになることが多いです。 食事内容は、良質のたんぱく質を適量摂り、脂肪分や刺激物は極力控えるなど、できるだけ腸への負担が少ないものにしましょう。


●生活するうえでの注意

食事だけでなく、生活全般において体に負担をかけないことが大切です。 タバコは下痢を誘発しやすいので、禁煙しましょう。 ストレスは腸を過敏にするので、趣味などを楽しんでストレスを解消しましょう。 痔の予防や悪化を防ぐために、肛門は清潔にします。 寛解期で最も大事なことは、薬を正しく用いながら病気を気にしすぎず、普段どおりの生活を心がけるということです。 クローン病の治療は進歩しています。担当医と相談して積極的に治療を進めましょう。