慢性膵炎

慢性膵炎は、 急性膵炎を繰り返すうちに移行することが多い病気です。 長期間にわたって膵臓に小さな炎症が繰り返し起こり、徐々に膵臓の組織が破壊されていきます。 炎症が起こったり、治まったりということを繰り返すうちに「線維化」が進み、膵臓が硬くなって萎縮していき、しだいに膵臓の機能が失われていきます。 慢性膵炎の初期症状は、みぞおちから左上腹部、背中にかけて、鈍い痛みが繰り返し起こります。 特に食後や飲酒後に痛みが起こりやすいのが特徴です。 慢性膵炎は、ほぼ治ることはなく、 膵臓癌の危険因子となるため、 できるだけ早い段階で発見し、治療を行い、進行を遅らせることが大切です。


■慢性膵炎とは?

慢性膵炎は、膵液膵臓自体を溶かす自己消化が、長年かけて起こる病気です。 自己消化によって、膵臓の組織が壊れたり、硬くなる線維化が起こります。その結果、膵臓全体が委縮してしまいます。 また、膵管が拡張したり、その中に膵石と呼ばれる石ができたりします。 進行すると、膵液自体が分泌されなくなり、食べ物を消化・吸収する働きが失われていきます。 急性膵炎は再発しやすく、再発を繰り返すうちに、慢性膵炎に移行します。 慢性膵炎と診断される人は、毎年約1万8000人おり、増加傾向にあります。男性が女性の4.6倍多く発症しています。

【関連項目】:『膵臓』


■慢性膵炎の原因と炎症の起こる仕組み

激しい炎症が急激に起こる急性膵炎に対して、慢性膵炎は、小さな炎症が膵臓内のあちこちで起こり、発症すると長い時間をかけて進行します。 急性膵炎の多くは完治しますが、慢性膵炎は多くの場合、完治が難しくなります。 膵臓で作られる「膵液」という消化液は、膵臓内に張り巡らされた細い「膵管」から太い膵管に集められて、十二指腸に送られます。 ところが、アルコールなどの影響で膵液が活性化すると、 膵臓自身を溶かしてしまい、あちこちで炎症が生じます。これが慢性膵炎です。 慢性膵炎が続くと、膵管が拡張したり、変性した膵液が固まって「膵石」が生じたりします。 また、正常な細胞が破壊されて、膵液が硬くなります。これを線維化といい、線維化が進むと、膵臓全体が委縮していきます。 こうなると、膵液や、血糖をコントロールするホルモン「インスリン」などを分泌する膵臓の働きは、徐々に低下していきます。 急性膵炎では激しい腹痛(上腹部痛)が現れますが、慢性膵炎の症状は、経過とともに変化するのが特徴です。

慢性膵炎の大きな原因は、男性では「アルコール」が最も多く、摂取量が多いほど発症リスクが高くなります。 男性の慢性膵炎の約76%はアルコールが原因です。 一方女性は原因不明の「特発性」が約51%と最も多く、アルコールによるものは約30%となっています。 お酒を飲むと、アルコールの代謝に伴って、消化酵素を作る膵臓の細胞が障害されたり、 分泌される膵液が酸性に傾くなどの変化が年単位で積み重なり、自己消化が徐々に起こると考えられています。 また、多量のアルコールは膵臓を刺激して、「膵液」を過剰に作らせます。 すると、膵臓の中にある「膵管」を多量の膵液が流れるので、膵管の内圧が上がり、膵液に含まれる消化酵素によって、膵臓の組織に小さな炎症が引き起こされます。 このような炎症を繰り返すことで、膵臓が線維化し、破壊されていくと考えられています。

日常的にお酒を飲む場合、少量でも発症する危険性が高まり、量が増えるにしたがって発症しやすくなるとされています。 アルコールを1日に20~40g(ビール500ml缶1~2本、または日本酒1~2合)飲むと、慢性膵炎を発症する危険性は約2.6倍になるという報告もあります。 また、女性は、男性よりアルコールの影響を受けやすく、発症の危険性が高いことがわかっています。 ある調査によると、1日に日本酒換算で5合以上のお酒を飲む「大量飲酒者」は年々増加しており、その10~15年後に慢性膵炎の患者数も同じように増加しています。 このことからも、アルコールと慢性膵炎は、密接な関係にあることがわかります。

また、「胆石」が原因になることもあります。 胆石が「総胆管」に落下して、膵管と合流する「乳頭部」に一時的に詰まると、膵管が塞がれ、膵液の流れが滞ります。 それが繰り返されることによって、慢性膵炎が起こります。 胆石による慢性膵炎は、女性に多いのですが、女性の場合は、原因を特定できない「特発性」の慢性膵炎も多く見られます。 女性では、特発性が51.0%と約半数を占めます。


◆膵臓癌の発症リスクは約12倍

慢性膵炎の診断から2年以上経過した人は、そうでない人に比べて、膵臓癌の発症リスクが約12倍と、 非常に高くなることがわかっています。慢性膵炎のある人は、膵臓癌の検査を定期的に受けた方がよいでしょう。 膵臓癌の発症リスクを減らすためには、禁酒を含めた慢性膵炎の治療を徹底し、その進行を遅らせることが大切です。


■慢性膵炎の症状と経過

慢性膵炎は、進行の程度で「腹痛期」「移行期」「膵機能不全期」の3つの病期に分けられ、病期によって症状が異なります。

▼腹痛期
飲酒や暴食、脂質の多い食事などがきっかけで、へその上からみぞおちのあたり(上腹部)に痛みが繰り返し起こります。 腹部の膨満感や重圧感などの不快な症状が続いたり、背中の痛み、吐き気、嘔吐が起こることもあります。 特に、食後や飲酒後に、痛みが起こりやすいのが特徴です。

▼移行期
移行期に入ると、腹痛は軽くなってきます。しかし、慢性膵炎が治まったわけではなく、 病気が進行して膵臓の機能が低下し、膵液の分泌が減るために痛みが起き難くなるのです。 この頃から、直径5mm~1cm程度の膵石ができやすくなります。膵石が詰まって膵管内の圧力が上昇すると、症状が悪化しやすくなります。

▼膵機能不全期
腹痛期から膵機能不全期に5~10年かけて進行すると考えられ、膵臓の機能はかなり失われてきます。 消化酵素をつくる働きが低下すると、食べたものをうまく消化吸収することができなくなります。 膵液が分泌されなくなることで、消化・吸収が不十分になるため、 また、摂取した脂肪が消化されずに排泄されて、ふわふわして軟らかい脂肪便が見られるようになり、下痢、体重減少が起こります。 さらに、血糖値を下げるインスリンの分泌も低下し、糖尿病を併発しやすくなります。

慢性膵炎の多くは、腹痛がきっかけで発見されます。まれに腹痛が起こらないこともあり、進行して脂肪便が現れるなどによって気付くこともあります。 慢性膵炎は、発症から10年ほどで膵機能不全期へと進行し、破壊された組織は元へと戻りません。 膵臓の機能が失われる前の腹痛期に病気を発見して、適切な治療を受けることが大切です。

慢性膵炎はゆっくり進行する


■慢性膵炎のセルフチェック

セルフチェックや検査でいち早く慢性膵炎を見付ける

慢性膵炎が起こりやすいかどうか、おおよその傾向を自分でチェックすることができます(下リスト参照)。 「お酒を毎日飲む」「脂っこいものが好き」「タバコを吸っている」など、 下記の項目に6つ以上当てはまる人は、膵炎や胆石が起こりやすいと考えられます(あくまで目安です)。

お酒が大好き。ほとんど毎日飲んでいる。
揚げ物やラーメンなど、脂っこいものが好き。
魚より肉が好き。
野菜はほとんど食べない。
運動はほとんどしない。
生活が不規則で、睡眠不足のことが多い。
ストレスが溜まっている。
LDLコレステロールの値が高いと言われたことがある。
タバコを吸っている。
糖尿病がある。

また、お酒を大量に飲む人で、「上腹部や背中に痛みや不快感がよく起こる」「急性膵炎を発症したことがある」 「原因不明の慢性の腹痛がある」などの症状がある人は、慢性膵炎が疑われます。 健康診断の血液検査や尿検査で「アミラーゼ」という消化酵素の値が高い人も要注意です。 医療機関で検査を受けることをお勧めします。医療機関では、問診で 飲酒喫煙習慣や腹痛の症状を確認し、血液検査や腹部造影内視鏡検査も慢性膵炎の早期診断に有効です。


■慢性膵炎の検査と診断

早期発見には超音波を使った内視鏡検査が有効

慢性肝炎の診断では、問診検査を行います。問診では、腹痛などの症状や飲酒の習慣などを確認します。 検査は血液検査や尿検査、腹部超音波検査、腹部エックス線検査、CT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像)検査、 内視鏡検査などで膵臓や膵管の状態を調べます。 血液検査は、血液中に含まれる、膵臓がつくる「アミラーゼ」という消化酵素を調べます。 膵臓に炎症があると、血液中のアミラーゼの値が高くなります。 画像検査には以下のようなものがあります。

▼腹部超音波検査・腹部CT検査
慢性膵炎になると、膵臓や膵管が変形します。また、膵液の成分の一部が固まって膵臓に「膵石」というカルシウムを含む結石ができることがあります。、 この膵石が膵管の中に詰まって膵管が狭くなることもあります。 腹部超音波検査や腹部CT検査では、膵石の有無や膵管の形などを調べます。

▼MRCP(磁気共鳴胆管膵管撮影)
MRIを利用して膵管と総胆管を撮影する検査で、膵管の状態を調べることができます。 体への負担が軽いので、外来で受けられる検査です。

▼ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)
MRCPでは、診断がつかない場合などに行う検査です。 十二指腸に内視鏡を送り込んだ後に、膵管や総胆管に「カテーテル」という細い管を挿入し、造影剤を注入してエックス線撮影を行います。 膵管の鮮明な画像が得られる反面、体の負担が大きいため、入院が必要です。
▼超音波内視鏡(EUS)検査
超音波を発生させる装置を付けた内視鏡を口から挿入し、胃や十二指腸の壁越しに、膵臓に超音波を当てて調べます。 小さな変化も観察できるので、慢性膵炎の早期発見に役立ちます。 ただし、この検査を行っている医療機関は限られるため、担当医との相談が必要です。

最近、慢性膵炎には、早期の段階(早期慢性膵炎)があることがわかり、その段階で適切に対処すれば、進行を遅らせる可能性が期待できます。 早期慢性膵炎を発見するには超音波内視鏡検査が有効です。 この検査を受けるには、まず消化器内科の専門医のいる医療機関を受診してください。 超音波内視鏡検査などで異常が確認され、「上腹部の痛みを繰り返す」「血液検査や尿検査で消化酵素の濃度に異常が見られる」 「尿検査で、膵臓からの消化液の分泌低下が認められる」「1日にアルコール80g以上の飲酒を続けている」のうちの2つ以上が当てはまると 早期慢性膵炎と診断されます。過去に急性膵炎を起こしたことがある人や、飲酒や過食後に上腹部の痛みや不快感がよく起こる人などは、 早期慢性膵炎を発見するために検査を受けることをお勧めします。


■膵臓癌の危険性

慢性膵炎になると、膵臓がんを発症する危険性があるため、定期的に膵臓がんの検査を受けることをお勧めします。 慢性膵炎による膵臓がんの発症を防ぐためには、慢性膵炎を適切に治療して進行を遅らせることが重要です。

【関連項目】:『膵臓癌』


■その他

●自己免疫性膵炎

慢性膵炎と似た症状が起こる病気に、飲酒とは関係なく、免疫の異常によって起こる自己免疫性膵炎があります。 腹痛は軽く、黄疸が起こりやすく、高齢の男性に多いなどの特徴があります。 ステロイド薬でいったん治ることが多いのですが、再発しやすく、注意が必要です。 また、膵臓がんに似ているため、見極めが重要です。