過敏性腸症候群

過敏性腸症候群』は、原因の心当たりがなく、検査をしても異常が見つからないのに、下痢や便秘、腹痛を繰り返す病気です。 命に関わる病気ではありませんが、仕事や勉強など、社会生活に支障が出て、人知れず悩んでいる人が多くいます。

傷んだものを食べて下痢をしたり、旅先で環境が変わって便秘になるといったことは誰にでも起こります。 しかし、『過敏性腸症候群』では、消化器やその他の臓器に特にこれといった病巣がないにもかかわらず、 下痢や便秘が、慢性的に繰り返して起きます。 その際、腹痛や腹部の不快感を伴います。 また、ストレスや不安・緊張など、精神的に負担がかかる状況で症状が悪化するのも、大きな特徴の一つです。 過敏性腸症候群では、これらの症状によって、社会生活に問題を生じてしまうことがあります。 例えば、通勤電車の中で下痢になることがよくあるため、いつでもトイレに行けるように各駅停車にしか乗れなくなったり、 たびたび遅刻をする人もいます。
症状が便秘の場合には、腹部に常に不快感があるため、仕事中にたびたびトイレに立ち、仕事に集中できないといったことも起きます。 特に下痢の場合は、外出先のトイレの場所をあらかじめ確認しておいたり、もしもの場合に備えて下着を常備するなど、精神的な負担も大きくなります。 お腹の調子を気にしすぎずに、気持ちを楽に持つことが大切です。


■過敏性腸症候群とは?

検査では異常がないのに、下痢や便秘を繰り返す
病気だと気付かない人も多い

便通は一般に、1日1回が理想的といわれていますが、個人差があるので、数日に1回であっても 排便後に「すっきり感」があれば、特に問題はありません。しかし、排便時に腹痛があったり、 排便後にすっきり感がない場合は、「便通異常」と考えられます。 また、便の水分が多かったり(下痢)、4~5日以上排便がない状態(便秘)が続いたり、 下痢や便秘を繰り返したりする場合も「便通異常」といえます。 このような便通異常を引き起こす病気は、いろいろあります。 しかし、検査をしても腸内に炎症や潰瘍などの病変が見当たらないのに、便通異常が続いたり、繰り返したりする場合は、 『過敏性腸症候群』と考えられます。

「過敏性腸症候群」は、血液検査や検便、エックス線検査、内視鏡では異常が見つからないのに、 腹痛や腹部の不快感を伴う下痢や便秘を繰り返す病気です。原因はよくわかっていませんが、 多くはストレスが関係しているとされます。 正確なデータはありませんが、一般的に、日常生活に支障がなく、医療機関を受診していない人まで含めると、 日本の人口の10~20%前後過敏性腸症候群の診断基準に当てはまるといわれています。 特に20~30歳代の人に多く見られます。 しかし、下痢や便秘は健康な人でも良く起こる症状だけに、自分の病気に気付かない人も少なくありません。 多くの人が”体質だろう”と諦めたり、市販薬で対処していると思われます。


●過敏性腸症候群のタイプ

「過敏性腸症候群」は、腹痛や腹部の不快感に伴って起こる症状によって、 主に、下痢型、便秘型、混合型、に分けられます。 また、便秘と下痢を繰り返し、それが長く続いて、やがて慢性的な便秘になることもあるようです。 下痢型は若い男性によくみられ、便秘型は女性に多く、特に年配の女性によくみられます。 タイプに男女差があるのは、腸の働きに性ホルモンが関係しているためではないかと、考えられています。 ただ、同じタイプがずっと続くとは限らず、下痢型が混合型に変わったり、混合型から下痢型に移行するなど、タイプが変わることもあります。

▼下痢型(下痢を起こすタイプ)
慢性的な下痢が中心に起こり、腹痛をともなうこともあります。 腸が動き出す午前中におこることが多く、男性に多い傾向があります。

▼便秘型(便秘を繰り返すタイプ)
便秘が中心に起こります。コロコロした便や、ゆるい便が少し出るだけのことが多く、 女性に多く見られます。

▼混合型(下痢と便秘を繰り返すタイプ)
何日か下痢が続いたと思ったら、今度は便秘が続くというように、 下痢と便秘が交互に起こります。

どのタイプでも腹痛や腹部の不快感を伴いますが、排便後は症状が治まり、すっきりするのが特徴です。 下痢型と便秘型では、正反対の症状だと思われるかもしれませんが、腸の働きがうまくいかないために生じる点では 同じ病気なのです。過敏性腸症候群では、腸の蠕動運動(内容物を先送りする運動)が速すぎたり、 S字結腸(大腸の末端で直腸につながる部分)に痙攣が起こったりして、さまざまな症状が現れます。 タイプによって、食事や生活上の注意が変わるので、自分がどのタイプか見極めることも、 症状を改善する上で重要になります。


■過敏性腸症候群の原因

腸が過敏になることで、腸の運動に異常が生じやすくなる

"水分の多い下痢”と、”水分の少ない便秘”という現象としては正反対の症状ですが、どちらも大腸の運動異常で起こります。 下痢では、大腸が速く動くため、腸の内容物の水分があまり吸収されないまま素早く排出されます。 一方、大腸の働きが緩やかな場合は、なかなか排便されず、大腸にとどまる時間が長いために、水分の吸収が進んで硬い便になります。 こうした運動異常は、腸が過敏になっていると起こりやすくなります。 過敏になっていると、ちょっとした刺激でも大腸の動きに異常が起こるのです。 動きが遅くなれば下痢、遅くなれば便秘になります。腸が過敏になる原因としては、主に次の2つがあげられます。

▼感染性腸炎
サルモネラ菌やカンピロバクター、赤痢菌などに感染すると、腸が炎症を起こす「感染性腸炎」を発症します。 薬を飲んで治ったように見えても、実はそのあとも腸に軽い炎症が続いていることがあり、これによって腸が過敏になります。

▼腸内細菌のバランスの崩れ
腸内には、多くの細菌が生息しています。そのうち、良い作用を及ぼす細菌を「善玉菌」、悪い作用を及ぼす細菌を「悪玉菌」と呼びます。 これらのバランスが良ければ腸は健康を保てます。 しかし、服用中の薬の影響や体調の変化など、何らかの要因で細菌のバランスが崩れ、善玉菌が減り、悪玉菌が増えることがあります。 すると、悪玉菌が作る毒素などにより、腸が軽度の炎症を起こし、過敏になると考えられます。


●ストレスが症状を悪化させる

「過敏性腸症候群」の原因ははっきりしていませんが、多くの場合、「ストレス」が関係していると考えられています。 ストレスは脳で感じますが、脳と腸には密接な関係があります。 脳と腸は自律神経でつながっており、脳は自律神経を介して腸の働きをコントロールしています。 腸には、脳に直結した「腸管神経叢」という神経組織があり、 脳がストレスや不安・緊張を感じると、その情報が自律神経や、ある種のホルモンを介して腸に伝わり 腸管神経叢にも影響が及んで、腸の働きも乱れるのです。 そして、過敏になっている腸の働きに異常が生じ、腹痛や便通異常が起きます。 さらに、下痢などの症状があると、「外出できない」「仕事がはかどらない」ことなどがストレスになります。 それがまた脳から腸に伝わって悪影響を与える、という悪循環に陥ってしまいます。 さらに、腸の働きに異常が発生すると、今度はその情報が脳に伝わり、新たなストレスを生むといった悪循環に陥ります。 特に過敏性腸症候群の人は腸管神経叢が敏感で、わずかなストレスでも腸が過敏に反応して、便通の異常や腹痛を引き起こします。

ただし、過敏性腸症候群は、人間関係のトラブル・不安・緊張・欝などの精神的要因や 過労・睡眠不足・風邪・冷えなどの身体要因のほか、アルコールや冷たいものの過剰摂取・食物繊維の不足 などによる腸内環境の悪化、不規則な生活などでも起こります。 また、大腸癌や潰瘍性大腸炎でも、過敏性腸症候群と同じような症状が現れます。 過敏性腸症候群の症状がある人は、必ず病院で診察を受けて原因を調べるようにしましょう。


■過敏性腸症候群の受診と検査

問診が重要。検査も行って異常の有無を調べる

過敏性腸症候群では、医師が患者さんに話を聞く「問診」が重要です。 問診では、「いつ頃から症状があるのか」や、「おなかの症状」「便通の状態」「便の形や硬さ」など、症状について詳しく聞きます。 症状以外にも「ストレスの有無」「これまでにかかった病気」「服用している薬」なども聞きます。 問診は、診断のための重要なデータになるので、医師の質問にはできるだけ正確に答えましょう。 受診の前に、症状などについてあらかじめメモをしておくと、スムーズに答えられます。


●過敏性腸症候群の診断

診断基準に加えて「便潜血反応検査」などを行う

基本的な診断は、「RomeⅢ診断基準」に基づいて行われます。 ただし、下痢や便秘は、朝食を抜くなどの生活習慣や、そのほかの重大な病気から現れることが多い症状です。 そのため医療機関では、診断基準に加え、問診で
「発熱や全身に倦怠感があるかどうか」
「この約半年間に体重の著しい減少があったかどうか」
などを確認します。さらに、便に血液が混じっているかを調べる「便潜血反応検査」や、 貧血や炎症が起きていないかどうかを調べる血液検査が行われます。 これらの問診や検査で異常が見つかった場合は「大腸がん」「潰瘍性大腸炎」「甲状腺や膵臓の病気」「クローン病」 などが疑われるので、さらに詳しい検査が必要になります。 RomeⅢの診断基準に当てはまり、問診や検査で特に異常が見つからなければ、「過敏性腸症候群」と診断されます。

▼Rome(ローマ)Ⅲ基準
(1)お腹の痛みや不快感が最近3ヶ月のうち1ヶ月で3日以上ある。
(2)排便によって症状が軽快する。
(3)排便頻度の変化がある(排便回数の増減)
(4)便の性状の変化がある(下痢や便秘)

(1)を必須条件として(2)~(4)までのうち、2項目以上当てはまれば、「過敏性腸症候群」と診断されます。

診断がついたら治療を始めますが、この病気は治療ですぐに完治するというものではありません。 担当医は患者さんとコミュニケーションを取りながら、必要に応じて薬の量や種類を替えて、病状を見ながら治療を進めていきます。


■過敏性腸症候群の治療の流れ

生活習慣の改善、薬物療法、心理療法の3つが柱になる

過敏性腸症候群の治療は、胃腸に負担をかけないよう注意する生活習慣の改善、胃腸の働きを調える薬物療法、 心理面からアプローチする心理療法の3つが柱になっています。 診断後、まず生活習慣の改善を行い、それでも症状が良くならないときは、薬を用います。 薬の効果がなかなか現れない場合には、心理療法を行います。 以上が、一般的な治療の流れですが、下痢や便秘、腹痛などの症状を早く抑えたい場合は、生活習慣の改善と薬物療法を同時に始める場合もあります。


●心理療法

ストレスをやわらげたり、避ける方法を学ぶ

心理療法の目的は、ストレスを解消したり、避ける方法を身につけていくことです。
例えば、「筋弛緩法」では、筋肉に力を入れたり抜いたりする動作を行うことで、心身をリラックスさせます。 「認知行動療法」では、医師と対話しながら、偏ったものの考え方や見方を修正し、ストレスを軽くする方向に少しずつ行動を改めていきます。 心理療法が必要と思われる場合は、消化器内科の担当医が、心療内科などを紹介してくれます。

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■最後に

過敏性腸症候群は、医師による診断と治療を受け、生活習慣を改めれば、克服できる病気です。 過敏性腸症候群に悩んでいる人は、まずストレス解消を心がけ、規則正しい生活を送りましょう。 そして排便のリズムを整える習慣を継続しましょう。