過敏性腸症候群の治療②薬物療法
生活習慣の改善や食事療法で症状が改善されない場合や日常生活に支障が出るほどの症状がある場合には、 症状をコントロールするために薬物治療が並行して行われることがあります。 過敏性腸症候群では、症状にあった、さまざまな薬を使いながら、必要に応じて薬を調整します。
■最初に処方される薬
最初は次のような薬から選択されるのが一般的です。
- ▼高分子重合体/ポリカルポフィルカルシウム製剤
- 紙おむつなどに使われている「重合体(高級水性ポリマー)」という物質でできている薬です。 重合体(高級水性ポリマー)は、人工的な食物繊維のようなもので、水分を吸収する作用があります。 重合体(高級水性ポリマー)という化合物が、腸内で水分を吸収して膨張します。 便秘の場合でも、下痢の場合でも、便の状態をバランスよく整える効果があります。 症状が下痢の場合は過剰な水分を吸収し、症状が便秘の場合は便を軟らかくして、排便しやすくする効果があります。 体内にはほとんど吸収されず、便と一緒に排泄されるため、一般に副作用の心配はあまりありません。
- ▼セロトニン3受容体拮抗薬
- セロトニンは、神経と神経の間で情報を伝達する「神経伝達物質」の一つで、腸の動きに関係しています。 この薬には、腸の運動の異常にもつながるセロトニンの働きを抑える作用があります。 女性に対する効果はまだ確認されていないため、現在(2014年6月)のところ男性だけに処方されます。
- ▼消化管運動調節薬
- 腸の動きをコントロールする薬です。腸の動きが激しい場合は抑制し、動きが鈍い場合は促進するため、高分子重合体と同様に、 下痢と便秘、どちらの症状にも効果があります。
■その他の薬
最初に処方される薬で効果がなかったときは、それぞれの症状に応じて、他の薬に替えたり、併用します。 下痢の場合は、「乳酸菌製剤」や「止痢薬」などが用いられます。 便秘には、「下剤」や「消化管運動促進薬」が使用されます。 また、腹痛が強い場合は、副交感神経の働きを抑制する「抗コリン薬」や「抗うつ薬」が用いられます。 この場合の抗うつ薬は、腸への作用を期待するものですが、ストレスが強い場合は、脳への作用を期待して、抗うつ薬や「抗不安薬」が使用されます。
- ▼下剤・下痢止め
- ポリカルポフィルカルシウム製剤だけでは症状がコントロールできない場合には、便秘なら下剤、下痢なら下痢止めを併用し、腸の動きをコントロールします。 これらの薬を用いれば、多くの場合は、1~2週間ほどで、症状が安定してきます。 しかし、それでも症状がコントロールできない場合は、薬の量を調節したり、「精神安定剤」などを用いたりすることもあります。
- ▼抗不安薬・抗うつ薬
- ストレスが大きく影響している場合には、抗不安薬や抗うつ薬を用いることがあります。 それでも症状が改善されなければ、心療内科などで「心理療法(カウンセリング)」を受けることもあります。
■ポイントと注意点
過敏性腸症候群の薬には、多くの種類があります。最初に選択した薬に効果がなければ、他の薬を用いたり、複数の薬を併用したり、
使用量を調整したりしながら、患者さんに最も適した組み合わせを探っていきます。
すぐに効果が現れないと、他の医療機関へ行ってしまう患者さんもいますが、基本的に、薬の効果が表れるまで数週間はかかります。
焦らず、ゆっくりと治療を進めていくことが大切です。
副作用の強い薬は少ないのですが、薬物療法を始めて体調に変化があった時は、すぐ担当医に伝えてください。
市販薬を使用している人も多いと思いますが、一時しのぎのものと考えてください。
症状が続くときは、一度受診したほうがよいでしょう。