過敏性腸症候群の薬の使い方



■過敏性腸症候群のタイプによる薬物療法の進め方は?

▼便秘型の場合は?
消化管の内腔の調整として、ポリカルボフィルカルシウムや乳酸菌製剤、最近ではルビプロストンがよく用いられます。 便秘が強い場合は、便を柔らかくする酸化マグネシウムを加えることもよく行われます。 便通がなくてつらいときには、刺激性下剤のピコスルファートナトリウムを一時期併用する場合もあります。

▼下痢型の場合は?
ポリカルボフィルカルシウムや乳酸菌製剤が広く使われますが、男性の場合、最近では、下痢や腹痛を抑える効果がより確実な ラモセトロンを最初から使うことも増えています。下痢が強ければロペラミドを、痛みが強ければチキジウムを、 頓服で加えることもあります。女性の場合は、トリメブチンを中心に、必要ならロペラミドなどを頓服で併用することが 多いでしょう。乳酸菌製剤でかなり症状が落ち着くようなら、それだけで済ませるのが一番です。

▼混合型の場合は?
ポリカルボフィルカルシウム、乳酸菌製剤、トリメブチンなど、便秘型にも下痢型にも共通して使われる薬を 継続して飲んでいくのが一般的です。それでも時々起って困る症状に対して、それを抑える薬を頓服で使うことで、 大抵の人はコントロールできるようになっています。


■薬の効果は、どのくらいの期間使えばわかる?

過敏性腸症候群は慢性の病気なので、基本的に短期間では正しい評価ができません。 もちろん困っていた下痢がが薬を飲み始めて1週間のうちに止まることはありますが、治療効果を全体的に判断するには、 一定期間、薬効を評価する過程が必要です。少なくとも2~4週間は総体的な治療効果を見て、次の手段を決めることが多いでしょう。 消化管の動きはゆっくりで、食べたものが消化管を通過するのに何日もかかります。 治療の効果として信頼できる変化を確認するには、ある程度の日数が必要なのです。


■薬の使い方で注意することは?

ポリカルボフィルカルシウムやカルメロースナトリウム、酸化マグネシウムなどは、水分量が不十分だと効果を発揮できないので、 多めの量の水で服用してください。

▼薬の飲み合せは?
ポリカルボフィルカルシウムは、胃の中で胃酸と一緒になることでカルシウムが外れて、作用を発揮し始めます。 従って、プロトンポンプ阻害薬やH2ブロッカー(ヒスタミンH2受容体拮抗薬)などの胃酸分泌を抑える薬を併用する場合は、 服薬のタイミングをずらすなど工夫が必要になります。ポリカルボフィルカルシウムと酸化マグネシウムを併用する場合も、 少し時間をずらして飲むことが多いでしょう。他の病気で使っている薬も、必ずすべて医師に伝え、 飲むタイミングの指示を守って服用してください。

▼副作用への対処は?
トリメブチンで稀に肝機能障害が起こることがあります。 また、時にポリカルボフィルカルシウムで血中のカルシウム濃度が上ったり、酸化マグネシウムで血中のマグネシウム濃度が 上ったりする人がいます。こうした薬を長期にわたって使う場合は、血液検査でチェックが必要です。
また、便秘の薬を飲んで下痢になったり、下痢の薬で便秘になったりした場合は、基本的に薬の量を調節して構いません。 薬を処方してもらうときは、効き過ぎた場合の対応も、あらかじめ医師に聞いておくとよいでしょう。 ただし、反対に効果が不十分な場合は、自己判断で量を増やしたりせず、必ず医師に相談してください。

▼薬の服用を止めるときは?
薬の止め方は、一般には、腸の機能を調整する薬から止めていくことが多いでしょう。 腸内環境を調整する薬の方が使い続けても安全性が高いからです。生活改善で代替できればこれらも必要なくなります。 患者さんの中には、必要なくなった薬から止めることができる人もいます。 個々の患者さんの状態や薬の効果に応じて検討するものなので、患者さんも服薬状況や感じている効果を率直に医師に伝えて、 よく相談してください。


■薬を飲んでいるときに、日常生活で注意することは?

過敏性腸症候群の治療では、生活習慣そのものの改善が大変重要です。不規則な生活や睡眠不足は、腸の働きを乱します。 食生活でも、夜遅くに食事を摂ったり、朝食を抜いたりするのはよくありません。 食事の内容では、食物繊維を含むものは特に便秘に、乳酸菌を含むものは便秘にも下痢にもよいとされています。 反対に、アルコールやカフェイン、トウガラシに含まれるカプサイシンなどの刺激物、高脂肪食、加工食品の摂り過ぎは 便秘にも下痢にもよくありません。一般に、自然の素材に近い形で摂った方が腸の働きがよくなる人が多いので、 伝統的な和食が勧められています。生活習慣の改善には、どうして症状が続くのか、どう治療していくのかなど、 医師とよく話し合うことが大切でしょう。そのようにして信頼関係を築いておくことが、治療全体の効果にも影響すると思います。