過敏性腸症候群の薬とはどんな薬?
■医師が処方する過敏性腸症候群の薬とは?
受診して過敏性腸症候群と診断されたら、まずは腸に対する治療として、腸内環境を調整する薬、 そして異常になっている腸の機能を調整する薬を使います。 これらで症状が十分に改善しない場合には、脳に作用する薬を使うことがあります。
●腸内環境を調整する薬とは?
腸内の内腔の物理的な性状を調整する代表的な薬がポリカルボフィルカルシウムで、過敏性腸症候群の基本的な治療薬です。 便秘には同様の働きを持つ緩下剤、下痢を中心に乳酸菌作用剤も用いられます。
- ▼ポリカルボフィルカルシウム
- 高分子重合体といわれる物質で、強力な吸水作用があり、腸内で水分を吸収して膨らみます。 便秘の場合は便を柔らかくし、下痢の場合は過剰な水分を減らして、便の性状を整えます。 腸内で膨らむだけなので、副作用もほとんどありません。
- ▼酸化マグネシウム
- 塩類下剤の代表的なもので、腸にこういう物質が入っていくと、腸壁から水分が分泌されます。 この薬はほとんど吸収されることなく内腔に水分を引き付け、それによって、水分を多く含む柔らかい便になります。 便秘治療の基本的な薬として広く使われています。
- ▼カルメロ-スナトリウム
- 膨張性下剤に分類される薬で、水分を吸収して膨らみ、便を柔らかくします。 最近は、似た作用のポリカルボフィルカルシウムを使うのが一般的ですが、作用が穏やかで安全性が高く、 この薬が合うという人もいます。
- ▼ルビプロストン
- 腸壁からの粘液分泌を高めて、便が通過しやすくなる効果があります。慢性便秘がある場合に使われます。 欧米の臨床試験では、便秘型の過敏性腸症候群の患者さんで腹痛が改善したというデータもあり、 付加的な利点も期待されています。
- ▼乳酸菌製剤
- 最近では、腸内環境を整える意味で、ビフィズス菌など、善玉の腸内細菌を増やすことの有効性が注目され、 積極的に用いられるようになっています。
■腸の機能を調整する薬とは?
- ▼トリメブチン
- 最も広く使われている消化管機能調整薬で、便秘の時も使えます。亢進している消化管運動を少し抑えて、 働き過ぎないようにする薬ですが、運動が低下しているときには働きを助けます。副作用としては稀に肝機能障害が起こる可能性があります。
- ▼ラモセトロン
- セロトニン3受容体拮抗薬で、男性の下痢型過敏性腸症候群に用いられます。 セロトニンは脳で働く神経伝達物質として知られますが、腸管にあるセロトニンは腸の運動の亢進や知覚過敏に関わっているため、 それを抑える薬です。
- ▼抗コリン薬
- 腸壁の平滑筋の収縮に関わる副交感神経の働きを抑えて、腸の運動を抑える薬です。 主に腹痛を和らげることを目的に、通常、頓服で使います。過敏性腸症候群の治療ではチキジウムが中心になりますが、 腹痛に広く使われるプリルスコポラミンなどを用いることもあります。
- ▼ロペラミド
- 腸の運動を抑制する薬で、下痢に対して用いられます。下痢を止める効果は高いのですが、 連用すると頑固な便秘になることがあるので、下痢がひどいときだけ、頓服薬として使います。
- ▼ピコスルファートナリウム
- 腸を刺激して排便を促す刺激性下剤の一種で、腸内細菌が作る物質によって大腸を刺激します。 刺激性下剤の中では作用が穏やかで習慣性がない薬とされています。 薬の量を調節することで作用の強さを加減しやすく、便秘の改善に広く使われています。 液剤もあるため、微妙な量の調節ができ、排便がついたら徐々に減らしていくような使い方ができるのもメリットです。
■脳に作用する薬とは?
腸そのものに対する治療で効果が不十分な場合に、抗鬱薬や抗不安薬を併用することがあります。 便通は改善しても腹痛や腹部不快感が残るような人に有用です。
- ▼抗鬱薬
- 精神科の薬というイメージがあるかもしれませんが、鬱状態はさまざまな病気で見られる症状です。 また、抗鬱薬の薬効は鬱状態の改善ばかりではありません。 臓器の知覚過敏を和らげて腹痛を軽減するなど、さまざまな副作用で効果を発揮します。 抗鬱薬が効いたから鬱病だったというものではないのです。ただ、抗鬱薬も種類によって作用が多少異なり、 それぞれ副作用が出ることがあるので、それらもきちんと理解したうえで使うことが大切です。
- ▼抗不安薬
- 患者さんの中には、強い不安が引き金となって症状が起こり、それが更なる不安を招くという悪循環に陥っている人がいます。 その場合は、一時抗不安薬を使って不安を鎮めることが有効です。 ただ、従来使われてきたベンゾジアゼピン系の抗不安薬は、早く効き、不安を鎮める効果が高い反面、 それがないと不安を鎮めにくいと感じるようになる人が少なくありません。 そうなると抜け出すのが大変なので、最近は必要性の高いときに限って使うようになっています。 抗不安薬を使う場合も、タンドスピロンなど、ベンゾジアゼピン系以外の薬の方が使いやすいでしょう。
■便秘薬は癖になるというが、過敏性腸症候群の薬は大丈夫?
便秘は早めに改善することが大切ですが、その際、連用すると癖になる薬を自己流で使い続けて、自然な排便の仕組みが 働かなくなっている人が少なくありません。特に若い女性には、便を出したい、体重を減らしたいと、本来頓服で使うべき センノシドなどの下剤を大量に使い続ける人が後を絶ちません。これはぜひやめていただきたいと思います。 一過性で改善しない便通のコントロールについては、医療機関で相談してください。 過敏性腸症候群の治療でも、できるだけ生理的に、本来の働きを取り戻す助けとして薬を使うと考えましょう。