急性膵炎

急性膵炎は、膵臓に炎症が急激に起こる病気です。 お酒を飲み過ぎたり、脂っこいものを食べたりした数時間後に、「激しい腹痛」に襲われるのが特徴です。 みぞおちから左の腹部、肋骨の下辺りから背中にかけて、突き抜けるような激しい痛みが起こります。 急性膵炎は、医療の進歩で治ることが多くなっていますが、重症化すると死に至ることもあります。 突然の激しい腹痛など急性膵炎を疑う症状が現れたら、早急に医療機関を受診してください。


■「急性膵炎」とは?

膵液による自己消化で、膵臓が突然、炎症を起こす

膵臓は、みぞおちの少し下の胃の裏側にある細長い臓器で、長さが15~20cm、幅は3~4cm、厚さは1~2cmです。 膵臓の主な役割は、消化液である膵液を分泌すること、血糖値を下げるホルモンであるインスリンを分泌することです。 膵液は、炭水化物を分解するアミラーゼ、たんぱく質を分解するトリプシン、脂質を分解するリパーゼなどの消化酵素を含んだ消化液で、1日に1~2㍑分泌されます。 食べたものは、胃で粥状になった後、十二指腸へ送られます。すると、膵臓の膵管から膵液が分泌されて食べたものが消化され、小腸から吸収されます。 膵臓自体も、たんぱく質でできていますが、通常トリプシンは膵臓内では非活性化状態(消化能力を持たない状態)なので、膵臓が分解されることはありません。 十二指腸に送られてから初めて活性化します。 ところが、何らかの原因によって、膵臓内で消化酵素のトリプシンが活性化してしまい、膵臓自体を溶かして始めてしまうことがあります。 この「自己消化」が突然が起こる病気が「急性膵炎」です。 急性膵炎が起こるとみぞおちから臍にかけての激しい腹痛(上腹部腹痛)や、背中や腰の痛みが現れます。 痛みは短時間で治まらず、持続するのが特徴です。また、発熱や吐き気・嘔吐を伴うこともありますが、嘔吐しても腹痛は治まりません。

急性膵炎の治療を受けている人は、1年間に約6万3000人いると推定されており、30年前に比べて約4.3倍に増えています。 その原因として、食生活の欧米化による、脂肪やアルコールの摂取量の増加が考えられています。 男性は、女性の約2倍多く発症します。30歳代から増え始め、男性は60歳代、女性は70~80歳代に最も多く見られます。


■急性膵炎の原因

アルコールの飲み過ぎと胆石が原因になることが多い

膵臓内でトリプシンの活性化を引き起こす主な原因は「アルコール」「胆石」です。 男性で最も多い原因は、アルコール(46.2%)で、他に胆石、原因を特定できない突発性などがあります。 女性で最も多い原因は、胆石(40.3%)で、他に突発性、アルコールなどです。 総合的には、アルコールが約34%、胆石が約27%を占めています。

▼アルコールが原因の場合
膵炎を発症する仕組みは、はっきりとわかっていませんが、次のような可能性が考えられています。
摂取したアルコールは肝臓で分解され、アセトアルデヒドという物質ができます。 大量のアルコール摂取によってアセトアルデヒドがたくさんできると、アルコールやその代謝産物であるアセトアルデヒドが、 膵臓を直接刺激して膵臓の細胞を傷めつけることでトリプシンを活性化させてしまうと考えられています。 また、大量のアルコールを摂取すると、胃で分泌される胃酸の増加に伴って、膵液の分泌量も多くなります。 さらに、多量の膵液が膵管を通るようになるため、膵液の過剰分泌で膵液の流れが堰き止められて膵管の出口がむくみ、膵液の流れが滞ります。 その結果、膵管内の圧力が高まって十二指腸液が膵管に逆流し、トリプシンが活性化して、膵臓自身が消化される自己消化が起こることがあります。
アルコールをほぼ毎日飲んでいる場合、1日にアルコール40g(ビール500ml缶2本、または日本酒2合)以上で、発症する危険性が3.1倍に高まり、 量が増えるほど発症しやすくなります。また、女性は、男性よりアルコールによって、急性膵炎を起こしやすいことがわかっています。
飲酒量と急性膵炎の発症リスク
発症を予防するためのお酒との付き合い方

▼胆石が原因の場合
胆石とは、胆汁という消化液の成分が固まったものです。 脂質の摂り過ぎなどが原因で生じるもので、胆石が原因の急性膵炎は、女性に多く見られます。 通常、肝臓で作られた消化液の1つである胆汁は、胆嚢という袋状の臓器に一旦貯蔵されます。 胆汁は、食事をすると胆管を通って十二指腸に出て、膵液と共に食べ物を消化します。 この胆汁の成分が、胆嚢や胆管などで固まってできるのが胆石です。 食べた物が十二指腸へ送られると、胆嚢内の胆汁は胆管を通って、膵液と同じ出口から十二指腸へと送られます。 ところが、胆嚢や胆管内でできた胆石が、十二指腸への通路や出口に詰まり、傷つけて炎症を起こすことがあります。 すると胆汁と膵管は出口が同じため、膵液の分泌が堰き止められ、膵管内の圧力が増したり、胆汁が膵管内に逆流したりします。 それによって、胆管の出口から膵管に炎症が広がり、膵液の流れが滞ってトリプシンの活性化を引き起こし、急性膵炎を発症してしまうのです。 また、暴飲暴食などで胆石が落下し、乳頭部に詰まると、膵液の流れが妨げられて逆流が起きます。 胆汁が膵管に逆流することもあります。すると、膵管の内圧が上がり、膵液が活性化して膵液の自己消化が起こります。


■急性膵炎の症状

急性膵炎は、お酒を飲みすぎたり、脂っこいものを食べたりした数時間から半日後に、「激しい腹痛」に襲われるのが特徴です。 急性膵炎で最初によく起こる症状は、へその上からみぞおち辺りまで(上腹部)の激しい痛みです。 みぞおちから左の腹部、肋骨の下辺りから背中にかけて、突き抜けるような激しい痛みが起こります。 また、膵臓は背中の近くにあるため、背中や腰が痛むことがあります。 痛み方は重苦しく、だんだん強まっていきます。ひどい場合には、膝を抱えないとこらえられないほど、非常に激しく痛みます。 痛みは間断なく続き、強まったり弱まったりすることはありません。さらに、「吐き気」や「嘔吐」「発熱」を伴うこともあります。 その場合、体を丸めると痛みが和らぐことがあります。 そのほか、腸の働きが低下して、腹部の膨満感が現れることがあります。

急性膵炎の約20%が重症化して、炎症が膵臓の外にまで及び、血液循環や呼吸、腎機能などが低下する臓器不全が起こります。 また、冷や汗が出たり、血圧が低下してショック症状になったり、呼吸困難腎不全意識障害などが起こり、 危険な状態になります。 消化酵素に壊された膵臓の組織から有害物質が血液中に流れ出し、腎臓、肺、肝臓、心臓などが障害される「多臓器不全」が起こる場合もあります。 死に至ることもある非常に危険な状態です。 さらに、膵臓などの組織が感染症を起こして、壊死することもあります。 重症化すると約10%が死亡し、特に、70歳以上の高齢者では、命に関わることが多くあります。 ただし、急性膵炎の病態の解明や治療の進歩で、死亡率は下がってきています。 急性膵炎は急に重症化することもあるので、腹痛などの症状が出たら、早めに医療機関を受診することが大切です。 激しい腹痛が持続する場合は、救急車を呼ぶなどしてすぐ受診してください。


■急性膵炎の診断と治療


●診断

急性膵炎の可能性があれば、直ちに医療機関を受診する

普段からお酒をよく飲む人や胆石がある人で、激しい上腹部痛などが起こったら、急性膵炎が疑われます。 上腹部の「差し込むような痛み」や「のたうち回るような痛み」などがあれば、直ちに医療機関を受診してください。 大量にお酒を飲んだ後、数時間から半日後に発症するケースが多いのも特徴です。 医療機関では、まず問診で飲酒量や食べた物を確認した後、血液検査や尿検査が行われます。 次いで、腹部造影CTや腹部超音波、MRIなどの画像検査で膵臓の状態を確認し、診断されます。

◆重症化すると命に関わることも

急性膵炎の約80%は軽症で、1~2週間程度で治まります。しかし、約20%は重症化して、膵臓が溶けてしまいます。 さらに、炎症が腎臓や心臓、肺などにも広がると、生命を維持することが難しくなります。重症化した人のうち約10%が死に至ります。 発症時には軽症でも、数日後に重症化することもあるため、油断は禁物です。 発症の1~2週間後に、膵臓が溶けて壊死したところに細菌感染が起こり、重症化することもあります。


●治療

診断されたらすぐに入院。全身を管理して治療する

急性膵炎と診断されたら、すぐに入院しての全身管理が必要になります。 治療の目的は、腹痛などの症状を和らげ、膵臓の安静を保って、重症化を防ぐことです。 基本となるのは、「絶食、十分な輸液(点滴)、鎮痛薬の使用」の3つです。 その他状況に応じて治療を組み合わせます。

▼重症化した場合
抗菌薬を投与したり、腸管に栄養剤を直接補給したりします。 また、膵臓内の壊死した組織の残骸や液体が溜まっている部分に感染が起こり、膿が溜まっている場合は、 超音波内視鏡を用いてそれらを胃の中に流し込むドレナージとういう治療が行われることもあります。

▼胆石が原因の場合
十二指腸への通路に胆石が詰まっていれば、内視鏡などで取り除きます。

●再発を防ぐには

急性膵炎は、いったん治ってからも再発するケースが少なくありません。 再発を繰り返していると、慢性膵炎に移行しやすくなるため、再発予防は重要です。 アルコールが原因の場合は、禁酒が原則です。暴飲暴食や脂質の多い食事も避けるようにしましょう。 肉の脂身などはもちろん、カレーライスなども脂質が多いので、控えるようにします。 また、喫煙者は禁煙してください。

<<急性膵炎はどれくらい再発するのか?>>

アルコールが原因の場合は46%が再発し、そのうち80%は、4年以内に再発するという報告があります。 胆石が原因の場合、初回治療で胆石に対する処置を行わなければ、32~61%に再発がみられます。 重症の急性膵炎は、約20%が再発するという調査があります。 重症の急性膵炎を繰り返すと、慢性膵炎に移行しやすいので、特に注意が必要です。