逆流性食道炎

逆流性食道炎は、加齢とともに起こりやすくなる病気の1つです。 もともと欧米に多い病気ですが、「高齢化」や「食生活の欧米化」などを背景に、日本でも患者が増える傾向にあります。


■逆流性食道炎

胸焼けの他、胸や喉の違和感などさまざま

「逆流性食道炎」は、胃から食道へ胃液が逆流し、食道の粘膜に炎症が起きる病気で、その代表的な症状が「胸焼け」とされます。 胸焼けは、説明がしにくい症状です。胸焼けをはっきり自覚している患者がいる一方、 違和感などの症状を感じていても、それを胸焼けとは思っていなかったり、治療の対象となる症状とは思っていない患者も少なくありません。 また、胸の痛みとして感じられることもあり、 狭心症と間違われて救急車で運ばれた人もいます。


●逆流性食道炎の主な症状

▼胸焼け
胃液に含まれる胃酸が食道の粘膜を刺激することで起こります。 一般に、みぞおちの辺りに起こる”焼けるような””熱いような”不快感をいいます。 ”何となくスッキリしない”と感じる程度のこともあります。

▼呑酸
口の中に酸っぱいような、苦いような胃液がこみ上げてきます。

▼喉の違和感やつかえる感じ、胸の痛み
胃酸が刺激するのは食道の下部ですが、喉や胸に症状を感じることがあります。 まれに、耳の痛みとして感じる人もいます。

▼胃もたれ
胃にいつまでも食べ物が残り、胃もたれを訴える人もいます。

胸焼けなどの症状が最もよく起こるのは、食後です。 他に、夜中寝ているときや、前かがみの姿勢になるなど、腹圧がかかったときに起こることもあります。 症状の感じ方や感じるタイミングによっては、逆流性食道炎とは気付きにくいこともあるようです。

◆睡眠などQOLが低下する

胸焼けなどが頻繁に起こると、「QOL(生活の質)」の低下を招くこともあります。 患者は、例えば次のようなことで悩んでいます。

  • 食べ過ぎると胸焼けがひどくなるので、食べたいものを控えざるをえない。
  • 夜中に呑酸が起こると、咳き込んで目が覚めるので、よく眠れない。
  • 前かがみの姿勢をとる動作や作業を行なうと、呑酸が起こるので、そのような動作や作業ができない。
  • 不快な症状が頻繁に起こるため、仕事などに集中できない。何となく憂鬱だ。

誕生日にケーキが食べられない・・・・・。
同僚とお酒を飲みにいっても、自分だけ揚げ物が食べられない・・・・・。
たかがケーキ、たかが揚げ物と思われるかもしれませんが、患者にとってはつらいことです。 このような状態はQOLの低下と捉えられるので、積極的に治療します。

胸焼けが1週間以上続いたり、胸焼け以外の症状があるようなら、逆流性食道炎が疑われるので、 消化器内科など消化器を専門とする科の受診をおすすめします。 1ヶ月間は続いていなくても、何度も胸焼けなどが起きて気になって仕方がないという場合も、受診して相談するとよいでしょう。


■食道の粘膜の状態

放置すると「食道狭窄」が起こる危険性がある

●ただれがない場合もある

逆流性食道炎は、胃液によって食道の粘膜にただれなどができる病気です。 しかし日本では、症状を訴える人に内視鏡検査を行っても、実際ににただれが見つかるのは約半数です。 全体の約1/4は、「ただれはなく、色調変化が認められる微細変化型」で、 残りの約1/4は「粘膜にまったく変化が認められない正常型」とされます。 これら2つのタイプは、ただれはなくても、粘膜が敏感になっているために症状を感じると考えられていて、治療の対象となります。

●食道内腔が狭くなることがある

逆流性食道炎を放置すると、「食道狭窄」が起こることがあります。 食道狭窄とは、食道の内腔が狭くなる病態で、逆流性食道炎では粘膜のただれたところが瘢痕となって狭窄が起こります。 その結果、食べ物が通りにくくなり、栄養を十分に摂取できなくなります。 食道狭窄の治療には「バルーン」と呼ばれる器具を入れて、内腔を押し広げる治療法や手術療法などがありますが、治療の難しい病気です。 QOLを改善するためにも、食道狭窄を起こさないためにも、逆流性食道炎の治療をきちんと行なうことが大切です。 なお、日本人の場合、逆流性食道炎が食道癌になることはまれで、心配する必要はほとんどないといわれています。


■逆流性食道炎の逆流が起こる仕組み

加齢のため筋肉などが緩むと、弁が開きやすくなり逆流する

食道と胃の境界部分は、胃の内容物や胃液が逆流しないように”弁”として働く機能があります。 境界部分は「噴門」といい、筋肉や靭帯に囲まれ、普段はそれらに締め付けられて、弁が開かないようになっています。 物を食べたり飲んだりしたときには、弁が開き食べ物を通します。 また、この弁は、食べ過ぎで胃の内部の圧力が高まったときなどにも、ゲップを出して内圧を下げるために開きます。

●主な原因

逆流性食道炎が起こりやすい原因は、以下のようなものです。

▼筋肉などが緩む
弁の部分を締め付ける筋肉(下部食道括約筋)や靭帯が、加齢とともに緩むと、弁が開きやすくなります。

▼胃が圧迫される
「腹部に脂肪がたまる」「妊娠して子宮が大きくなる」などの場合は、胃が圧迫されて、内部の圧力が高まり、弁が開きやすくなります。

▼食道の動きが悪い
逆流した胃液を胃に押し戻すことができず、胸焼けなどの症状や粘膜のただれを起こしやすくなります。

▼胃液が多い
胃液の分泌量が多いと、逆流する量が増え、胸焼けなどの症状や粘膜のただれを起こしやすくなります。

●逆流性食道炎が起こりやすい人

逆流性食道炎は、加齢とともに起こりやすくなります。 特に「骨粗鬆症」の女性は注意が必要です。 骨粗鬆症は骨を弱くする他、弁の靭帯も弱くさせ、胃液が逆流しやすくなります。 また、腰が曲がると、胃が圧迫されたり、食道の位置が、腰が伸びているときより下にくるので、さらに逆流しやすくなります。 胃が横隔膜の上にはみ出す「食道裂孔ヘルニア」を起こすこともあります。 食事の量の多い、肥満した男性も逆流性食道炎になりやすいタイプです。 食べ過ぎると、食後に頻繁に胸焼けを起こします。 また、摂取エネルギー過剰で肥満してしまい、その結果、胃が圧迫されて、ますます逆流しやすくなります。 逆流性食道炎の患者には 「メタボリックシンドローム」が少なくありません。

「ピロリ菌」を除菌すると、 胃酸の分泌が増えて逆流性食道炎になりやすいといわれていますが、 胸焼けが起こるのは、除菌治療を受けた人の約2割です。 それも一時的なもので、ほとんどは1年以内に治まります。 除菌すると胃の調子がよくなり食欲が増します。 その結果、食べ過ぎたり、肥満して逆流が起こりやすくなると考えられます。 しかし、食べ過ぎないように注意し、肥満を解消すれば、胸焼けは治まります。 治まらない人もわずかにいますが、薬の服用を続ければ、生活に大きな支障はありません。 逆流性食道炎を心配して、除菌治療を受けるのをためらう必要はありません。


■逆流性食道炎の治療

薬で胃酸の分泌を抑える。逆流を防ぐ工夫も大切。

逆流性食道炎を疑って受診した場合は、症状についての詳しい問診を中心に、食道や胃の内視鏡検査などが行なわれます。 また、必要に応じてエックス線検査などで、他の病気の有無を調べることもあります。 治療の中心は、「薬物療法」と「日常生活の注意」です。

●薬の服用を継続する

薬物療法では、胃酸の分泌を抑える「プロトンポンプ阻害薬」「H2ブロッカー」などが使われます。 特に、プロトンポンプ阻害薬は胃酸の分泌を抑える効果が高く、逆流性食道炎の第一選択薬といえます。 薬で胃酸の分泌を抑えることで、胃酸が逆流しにくくなり、食道炎の症状や粘膜の炎症が起こりにくくなります。 食道裂孔ヘルニアがあっても、多くの場合、薬物療法で症状を抑えることができます。 ただし、弁の緩みなどは薬によって改善されるわけではありません。 肥満の解消などによって、 服薬の必要がなくなることもありますが、長期間服用を継続するのが基本です。 なお、プロトンポンプ阻害薬のほかに、粘膜の傷口を胃酸から守る「粘膜保護薬」、 胃酸を中和させる「制酸薬」、食道の動きをよくする「消化管運動機能改善薬」などが併用されることもあります。


■日常生活の注意

大切なのは、弁を開きにくくすることで、主に食べ方や食事内容など食生活の注意と、姿勢に関する注意があります。 食生活では食べ過ぎないこと、特に脂肪を摂り過ぎないことが大切です。 また、急がずにゆっくり、すすらないで食べるようにしましょう。 夜間に症状がある場合は、寝るときの姿勢にも注意してください。 上半身を少し高くして寝ると胃酸の逆流が防げます。 また、横向きに寝るときは、体の左側を下にしたほうが、逆流しにくくなります。 自分の症状の現れ方や、生活パターンなどに合わせて工夫し、症状を抑えるようにしましょう。 加齢は防ぐことはできませんが、食生活などは自分で改善することが可能です。 症状がある場合は我慢せずに受診し、薬物療法を受けるとともに、日常生活を工夫しましょう。


●食生活 ~食べ方や食べ物に注意~

▼弁が開きやすい食べ方をしない
・食べ過ぎない
多くの食べ物が胃に入ると、内部の圧力が高まり、弁が開きやすくなる。
・急いで食べない
ゆっくり食べると徐々に胃が膨らみ、弁が開きにくく逆流しにくい。 しかし、急いで食べると空気を飲み込みやすく、その空気で胃の内部の圧力が高まると、弁が開きやすい。
・すすらない
「ズーズー、ズルズル」と音がする場合は空気も一緒に飲み込んでいる。 すすらないようにして食べる方がよい。

▼脂肪を摂り過ぎない
脂肪を摂取した時に出るホルモンの影響で、弁が開きやすくなる。 また、脂肪の多い食事を摂り続けていると、肥満を招く。 肥満すると、お腹の脂肪が胃を圧迫して逆流が起こりやすくなる。 脂身の多い肉類や、油を使って調理する料理に注意をする。 特に、外食や市販の弁当を利用するときは、できるだけ揚げ物やフライなどを避けるとよい。 生クリームなどを使ったケーキやデザート類、チョコレートなど脂肪の多い菓子類も控えるようにする。

▼逆流を起こしやすい食べ物を控える
経験的に、逆流を起こしやすいことがわかっている食べ物や、飲み物がある。 例えば、かぼちゃ、さつまいも、タマネギ、トマト、柑橘類、豆類、和菓子、刺激の強い香辛料、甘みの強い飲み物などが挙げられる。 炭酸ガスを含む清涼飲料水やアルコール飲料を飲むと、胃が膨らみやすく、弁が開きやすい。

●姿勢 ~逆流しにくい姿勢をとる~

▼食後は上半身を起こしておく
胃液の逆流は食後に起こりやすい。 食後に横になると、ますます逆流しやすいので、しばらくの間上半身を起こした姿勢をとる。 また、就寝直前には食事を摂らない。

▼前かがみの姿勢を長く続けない
背中を丸めるなど姿勢が悪いと、胃が圧迫されやすい。読書やパソコンなどをするときにも、背筋の伸びたよい姿勢を心掛ける。 また、前かがみで行なう作業などを、長く続けないようにする。

▼上半身を高くして寝る
食道を胃より高い位置に保つと、逆流が起こりにくい。 夜寝るときは、座布団を背中に当てたり、枕を高くするなど工夫する。

▼左側を下にして寝る
横向きに寝るときは、左側を下にしたほうが逆流が起こりにくい。