大腸癌

大腸癌は、かつて日本人には少ない癌でしたが、1950年代から男女ともに年々上昇を続け、 日本で1年間に新たに大腸癌と診断された人数は、2016年では男性は約9万人、女性は約7万人です。 大腸癌は、大きく分けて、結腸癌と直腸癌に分かれます。特に結腸癌が急増し、女性では、発生数・死亡数ともにトップを占めます。 また、臓器別にみると、大腸癌は男性では3番目に、女性では2番目に多い癌となっており、今後ますます増えるだろうと予想されています。 大腸癌の増加の背景には、食生活の欧米化が深く関係していると考えられています。 さらに、早期にはほとんど自覚症状がないため、癌が進行した状態で見つかる人が多いことも、死亡率が増えている要因の1つといえます。

ただし、大腸癌は、早期のうちに発見できれば、体への負担が少ない「内視鏡」による治療で治すことも可能で、早期であればほぼ100%完治するといわれています。 大腸癌の5年生存率は、早期であれば90%以上まで向上しています。早期に発見して治療すれば、比較的治りやすい癌になったといえます。 この背景としては、手術や薬物療法の進歩が目覚ましいことが挙げられます。 さらに、新しい薬も登場してきており、今後、大腸癌でなくなるケースはより少なくなることが期待されています。 しかし、早期には自覚症状がほとんどないため、50歳を過ぎたら定期的に検査を受けるようにしましょう。


■大腸癌

死亡率が年々上昇している。早期には自覚症状がない。

大腸は長さ約1.5~2m、直径約5cmの筒状の臓器で、主に結腸と直腸などに分かれています。 大腸の壁は5つの層から構成され、大腸癌は、その一番内側にある粘膜から発生して、徐々に大きくなり、深くに潜っていきます。 大腸癌の症状としては、血便、便が細くなる、残便感、腹痛、下痢と便秘の繰り返しなどがありますが、初期には無症状のことがほとんどです。 しかし進行すると、肺や肝臓、腹膜などに転移しやすく、したがって無症状の時期に発見することが重要になります。 大腸癌が増えている要因として、まず大腸癌を発症する人が増えたことが挙げられます。 大腸癌の増加の背景にはさまざまな要因がありますが、特に食生活などの生活習慣が深く関係していると考えられています。 原因には、高脂肪食、食物繊維の不足、 運動不足などが挙げられます。 大腸癌の発生の危険因子を知り、バランスのよい食事と適度な運動を心掛けましょう。 家族に大腸癌の人がいて、毎日の便通が快適でない人は、定期的に検査を受けて早期発見に努める必要があります。 何の症状もないのに病院に行く方は少ないと思いますが、 近年急増している大腸癌、 大腸ポリープ大腸憩室症などの大腸の病気は、初期の段階では一般的に自覚症状はありません。 大腸ポリープは、大腸の粘膜にできる隆起物(いぼ)です。その中には癌になりやすいものもあり早期発見が望まれます。


■大腸の構造と癌の発生率

大腸は、小腸から続く臓器で、小腸に近い部分から、「盲腸」「上行結腸」「横行結腸」「下行結腸」 「S状結腸」「直腸」に分けられます。 長さは成人で1.5~2mほどあり、食道、胃、小腸で消化・吸収された食べ物から、さらに水分を吸収して、便をためることが主な役割です。 大腸癌は、癌が大腸のどの部位に発生するかによって分類され、その部位によって癌の発生率が異なります。 大腸癌研究会の全国登録によると、癌の発生率は、盲腸が約5%、上行結腸が約18%、横行結腸が約12%、下行結腸が約5%、S状結腸が約30%、直腸が約30%となっています。 つまり、大腸癌の約6割が、S状結腸と直腸に発生していることになります。S状結腸と直腸は、肛門に近く、便が長時間蓄積されるところです。 便の中に発癌物質が含まれていた場合、S状結腸と直腸の粘膜は発癌物質に長時間さらされてしまいます。 このことが、S状結腸と直腸に癌が多い原因とされています。

●大腸癌の種類

大腸は、蛇膜状の形をしていて、小腸を取り囲むように位置しています。 長さは成人で約1.5~2mあり、食道、胃、小腸で消化・吸収された食べ物から、さらに水分を吸収して、便を形作る働きをしています。 大腸の中でも、癌ができやすいのは、肛門から約30cm以内の範囲にある「直腸」「S字結腸」で、大腸癌の約70%がここに集中しています。 大腸癌は、癌ができた場所によって2つに大別され、直腸にできた癌を「直腸癌」、それ以外にできた癌を「結腸癌」と呼んでいます。 また、大腸癌は、発生の仕方により、次の2つのタイプに分類されます。

▼「ポリープ」が癌化する場合
大腸の粘膜が発癌物質によって刺激を受けてできるいぼのような膨らみです。 ポリープのほとんどは最初は良性ですが、大きくなるにつれ、一部が癌化します。 大腸癌の多くはこのタイプと考えられています。

▼デノポ癌
大腸の粘膜に直接できる癌で、平坦だったりへこんでいたりします。 最初から悪性であるため、ポリープよりも早く進行すると考えられています。

■大腸癌の症状

大腸癌は、早期に発見すれば治しやすい癌だといわれています。 しかし、初期には自覚症状がほとんどないため、見逃してしまうことも少なくありません。 また、大腸は、全体の長さが1.5~2mほどあります。そのため、癌が発生した部位によって、現れる症状が異なります。 大腸癌の自覚症状には、癌ができた場所によっても異なりますが、「便の表面に血が付く」「以前に比べて、便秘や下痢が多くなった」 「腹痛がある」などのほか、腸が詰まってしまう「腸閉塞」を起こすこともあります ただし、これらの症状は、癌がある程度大きくならないと現れません。早期の大腸癌では、症状がないことが多いのです。

●自覚症状「便通異常」

便秘と下痢を繰り返す

S状結腸や直腸といった、肛門に近い部位に癌ができると、便の通り道である腸管の中が狭くなり、便が通りにくくなります。 そのため、便が細くなったり、「便秘」になったりします。 一方で、癌が狭くなった腸管から何とか便を押し出そうとして、大腸の働きが活発になり、「下痢」になることもあります。 このような理由により、S状結腸や直腸に癌ができると、便秘と下痢を繰り返す「便通異常」が起こります。 また、便秘のためにお腹が張り、「膨満感」を覚えることもあります。 さらに、便秘がひどくなってくると、「腸閉塞」を招くこともあります。


●その他の症状

便通異常のほかに、次のような症状も現れます。

▼血便・下血
下行結腸やS状結腸、直腸に癌ができると、便が通過する際に癌の表面がこすれて、出血します。 そのため、便に血液が混じる「血便」や、排出後に出血する「下血」が起こります。 特に直腸癌では、血便や下血が見られることがあります。 これらは、痔の症状と似ており、放置されることがあるので要注意です。 一方、盲腸や上行結腸などの肛門から離れた部位に癌が発生した場合、出血しても肉眼ではわかりづらく、自分ではほとんど気付きません。

▼貧血
癌から出血し、便の中に血液が流出すると、「貧血」の症状が現れます。

ただし、これらの症状は、癌がある程度大きくならないと現れません。 早期の大腸癌には、自覚症状はほとんどないと考えたほうがよいでしょう。 また、進行した癌でも、貧血や便秘などに気付かないこともあります。 大腸癌は、早期癌の段階で治療をすれば、ほぼ完治します。 自覚症状がないうちから、検査を受けることが大切です。 大腸癌は、早期に発見して治療をすれば、治る可能性が高い癌です。自覚症状がなくても、定期的に検査を受けることが大切です。


■大腸癌の原因・危険因子

大腸癌は、さまざまな要因で発生しますが、なかでも肉類などに含まれる動物性脂肪の摂り過ぎは、大腸癌の発生と密接な関わりがあるとされています。 日本で大腸癌が増加している背景にも、食生活の欧米化により、動物性脂肪の摂取量が増加したことが、深く関わっているといわれています。 その理由として、次のようなことが推測されています。 肉類などに含まれる動物性脂肪が小腸などで消化・吸収される際には、肝臓で作られた「胆汁酸」が働きます。 胆汁酸は、大腸に入ると「悪玉菌」などの腸内細菌によって分解され、「2次胆汁酸」になります。 この2次胆汁酸の中に発癌物質が含まれており、それが大腸の粘膜に接触することで、癌が発生する可能性が高まると考えられています。 胆汁酸は、摂取した動物性脂肪に見合った量が作られます。動物性脂肪の摂取が多くなると、 大腸の粘膜が発癌物質にさらされる頻度が高まり、発癌の危険性が高まってしまうのです。


●その他の要因

大腸癌の発生には、アルコール飲料の摂り過ぎも関係していることがわかっています。 アルコールそのものではなく、アルコールが分解されてできた物質が血液中に増えることが、 大腸癌の発生の原因になると考えられています。 また、精神的・肉体的なストレスも、大腸癌を招く要因の1つに挙げられています。 過度のストレスを受けると、異物から体を守る免疫の働きが低下します。 それが、癌の発生を招くと考えられているのです。 さらに、肥満を促進するような生活習慣も、癌の危険因子です。 特に運動不足は、結腸癌に大きくかかわることがわかっています。 加齢は、大腸癌に限らず、癌全体の危険因子の1つです。年をとるごとに、大腸癌の発生率は高くなります。


■大腸癌の検査

大腸癌は、早期に発見すれば治しやすい癌だといわれています。 しかし、初期には自覚症状がほとんどないため、見逃してしまうことも少なくありません。 早期発見のためには、40歳を過ぎたら1年に1回は「便潜血検査」を受け、 50歳を過ぎたら便潜血検査のほかに、 「大腸内視鏡検査」なども受けておくとよいでしょう。 アメリカでは国を挙げて大腸癌撲滅に取り組み、健診の受診率は60%以上まで上昇しました。 その結果、大腸癌による死亡者数は徐々に減少しています。 一方、日本の大腸癌検診の受診率は40%前後で、大腸癌による死亡者数は、30年ほど前に比べて約2倍に増えています。

【関連項目】:『大腸癌の検査』


■大腸癌の治療

大腸癌は早期発見・早期治療ができれば治る可能性が高い癌です。 早期であれば、体への負担の少ない「内視鏡治療」も可能です。

大腸癌の内視鏡治療
内視鏡は、大腸癌を見付けるだけでなく、早期の癌を取り除く「治療」にも積極的に用いられるようになっています。 開腹せずに癌を切除できるので体への負担が少ない治療法です。入院が必要なこともありますが、多くは外来で行われます。 「ポリペクトミー」「内視鏡的粘膜切除術(EMR)」「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)」の3つの手術法があります。

大腸癌の手術
大腸癌が粘膜下層の深いところまで進行した場合や転移がある場合は、手術が行われます。 大腸癌の手術は、癌の進行の程度と癌が発生した場所によって大きく分けられます。 最近では、医療技術の進歩によって、特殊な手術器具を使った、体への負担が少ない大腸癌の手術が一般的になり、 治療法の選択の幅も広がって、肛門が残せる手術法も選択できるようになってきました。 大腸癌と診断された場合は、医師とよく話し合って、手術後の生活の質が保てるように、適切な治療法を選択しましょう。

大腸癌の薬物療法
手術で目に見える癌をすべて切除しても、見えない小さい癌が残っている可能性があります。 そのため多くの場合、癌細胞の増殖を防ぐために、抗癌剤や分子標的薬などによる薬物療法が行われます。 抗癌剤は、癌細胞の分裂・増殖を妨げることで、癌の進行を抑えます。 分子標的薬は、癌細胞の増殖や転移に関わる分子に目標を定めて、その働きを抑えます。 従来の抗癌剤に比べ、副作用が少ないのが特徴です。

▼大腸癌の放射線療法
最近では、手術前に放射線治療を行い、癌を小さくしてから切除する治療も行われるようになりました。 ただし、治療後に、排尿・排便障害や腸閉塞、骨盤骨折、二次癌(放射線誘発癌)などが起こる可能性が指摘されています。 そのため、日本では、あくまで手術が標準治療になります。

■大腸癌の再発・転移の治療

大腸癌の再発では、早い段階で見つけることができれば、治癒を目指した治療を行うことができます。 そのため、治療後5年間は、定期的に受診し、検査を受けることが大切です。 大腸癌は再発した場合でも、可能であれば手術を行います。 最近では、「分子標的治療薬」も使われるようになっています。

【関連項目】:『大腸癌の再発・転移の治療』


大腸癌の進行度に応じた治療


■大腸癌を予防するには

大腸癌の予防は「適度に運動する」「動物性脂肪やアルコール飲料を摂り過ぎない」「食物繊維、乳製品、緑黄色野菜を積極的に摂る」ことが基本になります。

●運動で腸の働きを活発にする

適度な運動は、結腸癌が発生する危険性を下げることがわかっています。 運動すると、腸の働きが活発になって便の排出が促され、大腸の粘膜が発癌物質にさらされる時間が短くなります。 また、ストレスの解消にも効果があり、免疫力が高まるともいわれています。 「ウォーキング」など自分にあった運動を習慣づけることが大切です。


●食生活の改善

動物性脂肪やアルコール飲料は控えめにして、多くの種類の食品をバランスよく食べましょう。 食物繊維の摂取量が極端に少ないと、大腸癌が発生する危険性が高まることがわかっています。 ただし、たくさんとっても大腸癌の発生を完全に予防できるわけではありません。 腸内細菌のバランスを整え腸の働きをよくするには、ヨーグルトなど乳酸菌を含む食品を多く摂りましょう。 緑黄色野菜は、癌の発生を抑えるといわれる抗酸化物質を多く含んでおり、予防効果が期待できます。

【関連項目】
『食物繊維』
『乳酸菌』
『大腸癌の予防に「乳酸菌」』

■遺伝性の大腸癌

大腸癌の一部には、遺伝的な要因によって発生するものもあります。 その1つが「家族性大腸線種症(家族性大腸ポリポーシス)」です。 これは、大腸全体に無数のポリープができる病気です。 放置しておくと、ほとんどのケースで、これらのポリープが癌化していきます。 また、遺伝性の大腸癌で、ポリープができない「遺伝性非ポリーポシス大腸癌」というものもあります。 この癌は、遺伝しても発症しないケースもあります。こうした遺伝性の癌は、大腸癌全体の数%です。


■大腸癌を早期発見するには?

大腸癌の早期発見のためには、便潜血反応が陽性といわれたら、 注腸造影検査か大腸内視鏡検査を受けることが大切です。


●精密検査の選び方

最近の大腸癌検診の傾向としては、精密検査は内視鏡検査が中心となっています。 注腸造影検査でポリープなどが見つかっても、結局、内視鏡検査を受けることになるため、 初めから内視鏡検査を行った方がよいという意見が多くなったからです。 ただ、検査法には一長一短があります。注腸造影検査は大腸を一度に撮影できるので、 全体が見え、しかも記録に残るため、複数の医師が検討したり、後から見直すこともできます。 内視鏡はどうしてもカメラの近くを見ることになり、検査中に病変を見つけて撮影をしないと、 記録にも残りません。検査を行う人による差は、内視鏡検査の方が大きいといえるでしょう。 また、内視鏡を使えば、ポリープなどが見つかったときに切除まで行えるのがメリットですが、 施設によっては行っていないところもあります。施設を選ぶ際には、そうした点も確認したほうがよいでしょう。

●内視鏡検査を受けた後

精密検査で大腸内視鏡検査を受けた場合、それで異常がなければ、毎年、内視鏡検査を受ける必要があるわけではありません。 普通、5年くらいは便潜血反応検査だけを毎年受ければよいでしょう。 ポリープが見つかり、切除して調べたら癌があったという人は、 通常、1年後にまた内視鏡検査を行い、チェックすることが勧められます。