早期大腸癌

大腸癌』は、早期に発見することが可能です。 治療の選択肢も増え、患者さんの体に負担の少ない方法が選べることも増えています。

■診療の変化

癌の深さや、できた部位により、治療法の選択が異なる

大腸は大きく2つに分けられ、胃や小腸から続く部位を「結腸」、肛門に続く15cmほどの真っ直ぐな部分を「直腸」 といいます。癌のできる部位により、「大腸癌」は「結腸癌」「直腸癌」に大別されます。 早期の大腸癌の治療では、最近(2013年)、次の2点が変わってきています。「早期発見や正確な診断ができるようになった」 「大腸癌の中でも、結腸癌と直腸癌では、治療方針が異なる」ことです。


●大腸の働きと構造

大腸は水分吸収と排泄を行う臓器で、腹部を囲むように位置し、成人ではおよそ1.5mの長さになります。 管状になっており、胃や小腸などで栄養分を吸収された食べ物の残りは、大腸で便として形作られ、肛門から排泄されます。 大腸壁は5つの層が重なって構成されており、最も内側から「粘膜」「粘膜下層」「固有筋層」「漿膜下層」「漿膜」 と呼ばれます。癌は大腸の粘膜に発生し、隆起したり、徐々に外側へと広がっていきます。 粘膜や粘膜下層に癌がとどまっているものを『早期癌』と呼びます。 粘膜下層より深いところに浸潤した癌を『進行癌』といいます。 粘膜下層より深い部分には、血管やリンパ管が多くなるため、それらの臓器を通じて他の臓器への転移の可能性が高くなります。


●検査・診断

大腸癌の検査では、「便潜血検査」「内視鏡検査」が行われます。便潜血検査では、便の中の血液に対する反応の 有無により、出血があるかどうかを調べます。簡便な検査ですが、最近ではごく微量の血液も検出できるようになりました。 この検査で出血が確認された場合、大腸癌以外に、肛門周囲の静脈が排便時に切れて出血する「痔核」や、「良性の腫瘍」など、 他の病気である可能性もあるので、内視鏡検査を行います。大腸の表面を観察するほか、特殊な染色液で染色し、拡大してみることで、 表面の模様(ピットパターン)が鮮明に見えるようになり、良性か悪性かや、癌の深さ(進行具合)が、ある程度わかるように なってきました。ピットパターンは、正確な診断のために役立ちます。


●治療の基本

早期癌の治療では、病変を切除するのが基本です。結腸癌では、治療のポイントは「癌の深さ」です。 癌の深さによって「内視鏡治療」「腹腔鏡手術」「手術」など、患者さんに適した治療法が選択されます。 一方、直腸癌の治療では、癌の深さに加えて、「癌の位置(肛門からの距離)」がポイントになります。 最近は新しい術式により、肛門を温存できるケースが増えています。


■早期の結腸癌の治療

広がる、負担の少ない内視鏡治療

早期の結腸癌の場合、近年、内視鏡治療をはじめとする選択肢が増え、患者さんの体に負担の少ない方法や生活の質を落とさない 方法が選択できるようになってきています。こうした治療で、癌を取りきることができれば、 早期癌の中で癌が粘膜にとどまっている場合は、ほぼ完治します。

●内視鏡治療

先端にレンズの付いた内視鏡を肛門から挿入し、映像をモニターで見ながら、内視鏡の先端につけた手術器具で、癌を切除します。 内視鏡治療には、「ポリペクトミー」「EMR(内視鏡的粘膜切除術)」「ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)」などがあります。

▼ポリペクトミー
癌が隆起した形状の場合、内視鏡の先端から「スネア(輪状のワイヤー)」を出して、癌の根元にかけ、 締め付けてから電気で焼き切る「電気焼灼」を行います。

▼EMR(内視鏡的粘膜切除術)
癌が平坦な形状の場合、粘膜下層に生理食塩水を注入し、癌を隆起させてから、ポリペクトミーと同様にスネアを掛けて 取り去ります。

▼ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)
近年考案された治療法で、EMRでは取り切れない4~5cmほどの大きさの癌でも、平坦で、粘膜にとどまっていれば切除できるように なりました。まず、粘膜下層に生理食塩水やヒアルロン酸ナトリウムを注入し、癌とその周囲を持ち上げます。 次に特殊な電気メスで癌の周囲の粘膜を切開し、粘膜下層ごと剥ぎ取ります。

●腹腔鏡手術

腹部に何ヵ所か孔を開け、炭酸ガスを注入して腹腔を膨らませ、カメラの付いた腹腔鏡や手術器具の鉗子を挿入し、 モニターに映し出された映像を見ながら、手術を行います。腹腔鏡手術の場合、開腹して行う外科手術に比べ、 「傷口が小さい」「痛みが少ない」「入院期間が短い(1週間~10日程度)」などの長所があります。 一方、「細かい作業がしにくい」「カメラでは見えない部位の癌を見落とすリスクがある」などの短所があります。 体に負担の少ない腹腔鏡手術は、現在、全国的に普及していますが、大きな病変を切除する場合は、 開腹手術の方が安全に確実に切除できるという場合もあります。 どちらを選択するか、病状によって、担当医とよく相談して下さい。


■早期の直腸癌の治療

肛門温存ができるケースが増えてきた

直腸癌の場合、20年ほど前は、早期であっても癌と一緒に肛門を切除し、人工肛門にする手術が一般的でした。 しかし、現在では、肛門に近い部位にある癌でも、肛門を温存できるケースが増えてきています。 治療法は、癌の深さに加えて、癌の位置がどれぐらい肛門から離れているかによって選択します。 例えば、癌が肛門から離れている場合、癌を含む直腸部分を切り取り、口側の結腸と残った直腸の部分をつなぐことで 肛門の温存ができます。
癌が肛門に近い場合には、病変の状況にもよりますが、肛門を締めたり緩めたりする働きを担う2つの筋肉のうち、 「内肛門括約筋」だけを切除し、「外肛門括約筋」は残して、口側の結腸と肛門に近い直腸をつなぎ、 肛門を温存する「括約筋間直腸切除術」が普及しています。これらの筋肉を超えて進行している場合には、 肛門を含めた切除が必要になります。
また、高齢者で、肛門括約筋の力がそもそも低下している場合は、肛門括約筋だけでは、ちょっとした動作でも便が漏れてしまう ことがあり、人工肛門の方が排便の管理をしやすいというケースもあります。癌の状態や年齢、体力などを総合的に考えて、 手術方法を決めることが大切です。