大腸癌の再発・転移の治療

大腸癌再発では、早い段階で見つけることができれば、治癒を目指した治療を行うことができます。 そのため、治療後5年間は、定期的に受診し、検査を受けることが大切です。 大腸癌は再発した場合でも、可能であれば手術を行います。 最近では、「分子標的治療薬」も使われるようになっています。


■大腸癌の再発・転移

再発の約8割は、術後3年以内に起こっている

大腸癌の再発や転移は、他の癌と比較すると、多くはないものの、大腸癌全体の約17%で再発が起こり、その約8割は手術後3年以内に起こっています。 大腸癌の再発は、「遠隔転移」「腹膜播種」「局所再発」の3つに分かれます。

▼遠隔転移
大腸から離れた他の臓器への転移です。癌の遠隔転移の多くは、血流に癌細胞が混じり、他の臓器へ到達することで起こります。 大腸を流れる血液はまず肝臓へ流れ込むので、大腸癌では、肝臓への転移が最も多く、次に多いのが肺への転移です。 進行すると、脳へ転移することもあります。

▼腹膜播種
腹膜に癌が散らばり、それらがそれぞれ大きくなった状態です。

▼局所再発
最初に癌があった場所の近くに再発します。手術で腸管をつなぎ合わせた周辺や、骨盤内に再発することが多く、主に直腸癌で見られます。
【大腸癌の転移の経路】

転移には、リンパ管を介する「リンパ節転移」、血液を介する「血行性転移」、癌が漿膜を突き破って起こる「腹膜播種」の3つの経路があります。


●再発を見つける検査

大腸癌の場合、再発や転移が起こっても癌が手術で切除できれば、治癒を目指すことができます。 そのため、早いうちに再発や転移を見つけることが重要で、最初の治療の終了後5年間は、次のような検査を定期的に 受ける必要があります。

▼問診・診察・血液検査
2~3ヶ月に1回行います。血液検査で特に重要なのは、大腸癌の腫瘍マーカー「CEA」です。 一般に、再発や転移が起きると、7割程度の人でCEAの値が上がると考えられています。 患者さん自身もCEAの値を見守り、気になることがあれば担当医に伝えてください。

▼CT検査・腹部超音波検査・胸部エックス線検査
半年~1年に1回、肝臓や肺などへの転移の有無を調べます。

▼大腸内視鏡検査
局所再発や大腸のほかの部位に新しい癌が発生していないかどうかを調べます。 手術1年後に1回行い、そこで異常がなければ、次は手術の3~5年後に行います。

▼直腸診・骨盤CT
直腸癌の手術を受けた人に行われます。直腸診は、肛門から医師が指を入れ、 直腸の中を直接触って診察する方法です。

■治療の進め方

切除できるかどうかで治療方針を決める

大腸癌の再発が見つかった場合、再発した癌の場所や個数をCTやPETなどで確認します。 再発が1つの臓器に限られているか2つ以上の臓器にあるのか、癌の切除が可能かどうかで、治療方針が異なります。 具体的には、肝臓への転移や肺への転移がある場合で手術の対象になるのは、 「癌が全て切除可能で、切除後の肝臓或いは肺の働きが十分に保たれ、全身状態などから見て患者さんが手術に耐えられる」場合です。 直腸癌の局所再発は、癌の切除が可能であれば手術が行われます。 再発した癌が、手術で切除できない場合は、 「抗癌剤」を中心とした薬による治療や「放射線治療」が行われます。 なお、大腸癌が「ステージⅣ」の状態で初めて見つかった場合も、再発時の治療方針に従って治療法を決めます。


●遠隔転移の治療

「手術」や「局所療法」「全身化学療法」を行う

癌の転移の多くは、血流に癌細胞が交じって、他の臓器へ到達することで起こります。 大腸を流れる血液は、次に肝臓へ流れ、その次に肺に流れるため、大腸癌では肝臓への転移が最も多く、 次いで多いのが肺への転移です。治療では、まず手術が可能かどうかが判定されます。 CT検査やMRI検査などを行い、次のような、手術が可能な4つの条件に当てはまるかどうかを判断します。

  • 1つの臓器にしか転移が起きていない
  • 癌が全て切除できる
  • 生活に支障が出ない程度に臓器を温存できる
  • 全身状態などから見て手術に耐えられる

◆手術が可能な場合

基本的に、再発、転移の手術では、癌がある部分だけを切除します。手術後5年の生存率は、肝臓への転移で手術を受けた患者さんでは2~4割、 肺への転移で手術を受けた患者さんでは3~6割です。 なお、2つ以上の臓器に転移があっても、癌が取り切れると判断されれば、手術が行われることがあります。

◆手術が不可能な場合

▼局所療法
転移が肝臓だけに限られていて、手術では癌が切除できない場合は、動脈に挿入した「カテーテル」から 肝臓に直接抗癌剤を入れる「肝動注療法」や、肝臓の癌に直接針を刺して熱で癌を焼ききる 「ラジオ波組織熱凝固療法」を行って、治癒を目指す場合があります。

▼全身化学療法
2つ以上の臓器に転移がある場合や手術で癌が切除できない場合は、通常3剤併用の抗癌治療を行います。 3剤に「ベバシズマブ」を加えた治療をすることもあります。

●局所再発の治療

治療の中心は、「化学療法」と「放射線療法」の併用

局所再発は、ほとんどが直腸癌の場合に起こり、多くは手術で腸管をつなぎ合わせた周辺や大腸壁の外側の骨盤内などに 再発します。局所再発が起こった場合、癌の切除が可能であれば、手術を行います。 しかし、局所再発の多くは手術が不可能な場合が多く、その場合は、化学療法と放射線療法を併用する「化学放射線療法」が、 標準的な治療になります。


●薬による治療

抗癌剤や分子標的治療薬で癌の成長を抑えたりする

薬による治療は、癌が大きくなるスピードを遅くし、患者さんが快適に生活できる期間をできるだけ長く保つために 行われます。大腸癌の場合、癌を直接攻撃する抗癌剤として「フルオロウラシル」と、 その働きを強める「レボホリナートカルシウム」を組み合わせて使うのが基本です。 加えて、「オキサリプラチン」という抗癌剤を併用するのが一般的です。 また最近は、手術できない大腸癌や再発した大腸癌に「分子標的治療薬」と呼ばれる 新しいタイプの薬も使えるようになりました。 1つは「ベバシズマブ」で、癌の成長に欠かせない酸素や栄養を運ぶ血管が新しく作られるのを阻止することで、 癌の成長を抑える薬です。もう1つは「セツキシマブ」で、癌の増殖に必要な指令を遮断して、癌の成長を抑える薬です。

【関連項目】:『大腸癌の抗癌剤治療』


●放射線治療

切除できない癌を小さくしたり、痛みや出血を抑えるために使う

放射線治療は、切除できない癌を小さくしたり、癌の痛みや出血などを抑えるために行われます。 骨盤内や、骨や脳への転移に対して行われることが多く、抗癌剤治療と併用することもあります。


●緩和治療

薬による治療や放射線療法で痛みを和らげる

癌が再発したり転移した場合、癌による痛みが現れてきます。 そこで、できるだけ快適な生活を維持しながら癌を克服していくために、痛みを和らげる「緩和治療」を行うこともあります。 緩和治療では、「モルヒネ」を中心とした薬による治療を行ったり、骨への転移や局所再発がある場合には、 放射線療法で癌を縮小させて、肉体的な痛みを取り除いていきます。 放射線療法を行った場合、7割程度の患者さんに痛みの改善が見られます。 さらに、再発や転移による精神的な負担を軽減させるため、精神科医によるケアが行われることもあります。 大腸癌の再発や転移が起こったら、病状をきちんと把握し、担当医によく相談して、自分に最も適した治療法を選ぶことがとても大切です。