大腸癌の検査
『大腸癌』は、早期に発見すれば治しやすい癌だといわれています。 しかし、初期には自覚症状がほとんどないため、見逃してしまうことも少なくありません。 早期発見のためには、40歳を過ぎたら1年に1回は「便潜血検査」を受け、 50歳を過ぎたら便潜血検査のほかに、「大腸内視鏡検査」なども受けておくとよいでしょう。 アメリカでは国を挙げて大腸癌撲滅に取り組み、健診の受診率は60%以上まで上昇しました。 その結果、大腸癌による死亡者数は徐々に減少しています。 一方、日本の大腸癌検診の受診率は40%前後で、大腸癌による死亡者数は、30年ほど前に比べて約2倍に増えています。
■大腸癌の検査の種類
便潜血検査・大腸内視鏡検査・注腸造影検査
大腸癌を早期発見するための検査には、症状がない人を対象にした「検診」と、 癌などが疑われる人や症状がある人を対象にした「精密検査」があります。 大腸癌検診には、40歳以上を対象に、地方自治体が実施する「住民検診」、職場で行われる「職場検診」があります。 また、任意で「人間ドック」を受けることもできます。 検診では「便潜血検査」が行われます。これは便の一部を採取し、便の中の血液の有無を調べるものです。 大腸癌がある人のうち3/4程度は、便潜血検査で癌が発見できるといわれています。 残り1/4程度の人は、癌が見逃されてしまう場合もありますが、便潜血検査を毎年受けることによって、 大腸癌で死亡する確率が下がることが報告されています。 便潜血検査の結果が陽性だったり、自覚症状がある場合には、「大腸内視鏡検査」あるいは 「注腸造影検査」といった精密検査を受ける必要があります。
●便潜血検査
「便潜血検査」は、便の一部を採取し、便中に血液の成分が含まれていないかどうかを調べる検査で、 大きなポリープや癌が発生していると、そこから出血して便に血が混じるからです。 目に見えないごくわずかな血液や変色してしまった血液も、感知することができます。 大腸癌患者の約6割は、便潜血検査で癌が発見できるといわれており、早期発見にも有効な検査です。
便潜血検査は、通常は2日分の便を調べます。食事などの制限もなく、簡単に受けることができます。 検査結果は、便中に血液が混じっていれば「陽性」、血液が混じっていなければ「陰性」と表示されます。 陽性であれば、精密検査を受ける必要があります。 しかし、便潜血検査で陽性であった人のうち、実際に精密検査を受ける人の割合は6割に満たないのが現状です。 もし癌であれば命に関わることもあるので、陽性の場合は必ず精密検査を受けてください。 便潜血検査で陽性と判定された場合、大腸内視鏡検査がを受けます。 便潜血検査が陽性と判定される人は、受診者全体の約6~8%で、さらに癌が見つかるのはそのうちの約3~4%です。 便潜血検査の結果が陽性の場合でも、大腸内視鏡検査を受けない人が少なくありませんが、検査を受けてきちんと診断を付けることが非常に大切です。
この検査で、進行癌のほとんどは発見が可能です。しかし、早期癌はすべて見つけられるわけではなく、見逃される場合もあります。 また、この検査は、「胃潰瘍」や「十二指腸潰瘍」、「痔」など、癌以外の出血にも反応することがあります。 便潜血検査は、自治体や企業の検診などで広く行われています。 40歳を過ぎたら、1年に1回は受けることをお勧めします。
◆死亡率を下げる便潜血検査の効果
アメリカで行われた研究では、毎年便潜血検査を受けると、大腸癌で死亡する確率が約33%低下するという結果が得られました。 また、別の研究では、便潜血検査で陽性だった人が精密検査を受けなかった場合、 死亡する危険性が、受けた場合の5倍近くになることもわかっています。 便潜血検査では、早期の大腸癌を100%見つけられるわけではありません。 しかし、たとえ一度の検査で早期癌が見逃されたとしても、翌年の検査で早期の状態のまま発見される可能性もあります。 毎年継続して検査を受けることに加え、陽性という結果が出たら、必ず精密検査を受けることが大切です。
●大腸癌のステージ
大腸の壁は5層からなります。大腸癌は、最も内側にある粘膜に発芽し、壁の外側へと深く広がりながら進行していきます。 その癌の深さによって、5段階に分類されます。癌が粘膜下層にまで及ぶと、リンパ節や他の臓器へ転移する危険性が出てきます。
●注腸造影検査
注腸造影検査は、肛門から造影剤(バリウム)を注入後、空気を送って大腸を膨らませ、エックス線撮影を行います。 大腸全体の形状を見て、ポリープや癌を見つけたり、病変の位置や大きさ、大腸の狭窄の程度などを確認します。 現在の精度では、3mm程度の小さなポリープや癌を発見することも可能です。 ただし、S状結腸が長い人は、その部分が重なって見えるため、部位によっては見逃されることもあります。 また、小腸と重なるように写る盲腸でも、癌が見落とされることがあります。 この検査を受けるときは、数日前から食事制限をして、さらに下剤を使い、便をすべて出し切っておく必要があります。
●大腸内視鏡検査
大腸内視鏡検査は、肛門から小型カメラが付いた内視鏡を大腸内に挿入して大腸の中の状態を観察する、非常に精度の高い検査です。 大腸の粘膜の様子が、細かいところまでモニター画面に映し出され、大腸全体を詳しく観察できるので、 通常、直径が5mm程度のポリープやデノボ癌も発見でき、ポリープが良性か悪性かを鑑別することも可能です。 また、検査と同時に、癌へ進行するのを防ぐために、その場でポリープや小さな癌を切除することもできます。
検査を受ける際の注意点として、前日の夕食は海藻、こんにゃくなどの食物繊維の多いものは避け、 おかゆ、うどん、豆腐など消化のよいものを食べてください。 便を出し切って大腸を空の状態にするため、検査の前に1.5~2㍑程度の下剤を飲みます。 かつては「下剤を飲むのが大変」といわれていましたが、最近は飲みやすい味になり、量も少なく済むように工夫されています。
検査時間は10~30分程度ですが、前処置を含めると4~5時間かかります。 また、ポリープなどを切除する場合には、もう少し時間がかかり、大腸の長さなどによっても検査時間は異なります。 また、検査中に大腸が引っ張られるため、痛みを伴うこともあります。 通常は日帰りで行いますが、高齢者などは、1~2日間入院して検査することもあります。 癌やポリープが見つかった場合は、必要に応じて組織を採取したり、切除するなどの治療が行われます。 また、色素や特殊な光などを使ったり、高倍率で拡大するなどして、病変の表面の様子を詳細に観察することができます。 便潜血検査の結果が陽性で、詳しく調べるために注腸造影検査や大腸内視鏡検査を受ける場合には、 健康保険が適用されます。この2つの検査は、消化器の専門医がいる医療機関で受けることをお勧めします。
■大腸癌が疑われたら
大腸内視鏡などで詳しく調べる
大腸癌と診断されたら、大腸癌が転移しやすい肝臓と肺への転移の有無を調べるため、腹部の「CT(コンピュータ断層撮影)」 と「超音波検査」、胸部のCTとエックス検査を行います。 最近は、癌に集中して取り込まれる特殊な薬品を静脈から注射し、薬品の分布で癌の位置などを見る「PET(陽電子放射線断層撮影)」を行うこともあります。 直腸癌の場合は、直腸の周囲の臓器に癌が広がっているかどうかを調べるため、骨盤のCTと「MRI(磁気共鳴画像)」も行われます。 検査結果から、大腸癌の「ステージ(進行の程度)」を推測し、治療方針を決定します。
●診断後の検査
精密検査をして大腸癌の疑いがある場合は、確定診断をするため、内視鏡で病変の一部またはすべてを切除して組織を調べる「病理検査」が行われます。 それによって大腸癌と診断され、手術することが決まったら、癌の進行度を詳しく調べるために、さらに次のような検査が行われます。
- ▼胸部エックス線検査
- 肺などへの転移の有無を確認します。
- ▼胸部超音波検査
- 肝臓やリンパ節などへの転移があるかどうかを調べます。
- ▼CT検査(コンピュータ断層撮影)
- 大腸癌の検査では、一般に胸から腹、骨盤までを、造影剤を用いて撮影します。 肝臓や肺、大きなリンパ節などへの転移の有無をチェックします。
- ▼MRI検査
- 必ず行われる検査ではありませんが、直腸癌などの場合、膀胱、子宮などの周囲の臓器への浸潤の有無や程度を調べるときに行われます。
- ▼PET-CT検査(陽電子放射線断層撮影)
- 癌細胞はブドウ糖を取り込む性質があります。そのためブドウ糖に性質が似た薬剤を注射し、 体内の薬剤の分布をみて、癌があるかどうかを調べる検査です。 特に、転移の有無を調べるために行われます。
●大腸癌のステージと早期の大腸癌の治療
大腸の壁は5層からなります。大腸癌は、最も内側にある粘膜に発芽し、壁の外側へと深く広がりながら進行していきます。 その癌の深さによって、5段階に分類されます。癌が粘膜下層にまで及ぶと、リンパ節や他の臓器へ転移する危険性が出てきます。
【関連項目】:『大腸癌のステージと早期の大腸癌の治療』
●新しい検査法
大腸内視鏡検査と同等の精度を持つ、新しい検査法も登場しています。
- ▼CTコロノグラフィー検査
- 大腸のCT画像を撮影し、それを画像処理によって三次元画像にして、立体的に観察することができる検査です。 腸全体を外側から観察して病変の位置を正確に把握することも、腸管の内側から内視鏡とほぼ同じように観察することもできます。 内視鏡を入れる必要がなく、検査時間も10分間程度と短くて済みます。 ただし、CT撮影を行うので放射線による被曝を伴います。 また、癌が疑われる病変が見つかっても、その場で切除したり病変を採取したりすることはできないので、 改めて大腸内視鏡による再検査が必要になります。
- ▼カプセル内視鏡検査
- 口から飲みこんだカプセル内視鏡が、大腸の中を撮影しながら通過します。 カプセルの両側にカメラがあるため、見えにくい部位にある病変も観察することが可能です。 内視鏡検査に伴う、痛みや恥ずかしさなど精神的な苦痛がないというメリットがあります。 一方で、癌が疑われる病変が見つかった場合には、改めて大腸内視鏡で切除したり、組織を採取する必要があります。
CTコロノグラフィー検査は、他の検査の結果(便潜血検査陽性、画像検査、腫瘍マーカー上昇など)、 大腸癌が疑われる場合に保険診療で受けることができます。 現在、カプセル内視鏡検査は、大腸に癒着などがあって、大腸内視鏡検査で内視鏡が奥まで到達することが難しいなどの場合に、健康保険が適用されます。
●その他
最近では、大腸癌検診の精度を上げるため、大腸癌が発生すると血液や尿の中に増えてくる物質をチェックしたり、 便の中の癌細胞のDNAを調べるといった、新しい検査法の研究も進められています。