大腸癌の内視鏡治療

内視鏡は、大腸癌を見付けるだけでなく、早期の癌を取り除く「治療」にも積極的に用いられるようになっています。 開腹せずに癌を切除できるので体への負担が少ない治療法です。入院が必要なこともありますが、多くは外来で行われます。 「ポリペクトミー」「内視鏡的粘膜切除術(EMR)」「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)」の3つの手術法があります。


■内視鏡治療ができる条件

大腸内視鏡検査で大腸癌が見つかった場合、そのまま内視鏡を介して器具で癌を切除することができます。 内視鏡治療で切除できるのは、癌が粘膜内か、粘膜下層の浅い部分にとどまっている場合です。 それよりも深く浸潤している(深部に潜っている)場合は、転移の可能性が高いため、内視鏡治療では切除せず、 後日、外科手術、必要に応じて薬物治療などが行われます。

◆治療の対象となる病変

大腸にできる病変は、腫瘍と非腫瘍の2つに分けられます。 腫瘍には良性の物(腺腫)と悪性のもの(癌)があり、非腫瘍には過形成ポリープなどがあります。 良性の腺腫に見えるものでも、1cmを超える大きなものは、癌の成分を一部に含むことが知られています。 そのため、直径6mm以上の腺腫が見つかった場合は、内視鏡で切除するのが一般的になっています。 また、平坦・陥凹型など、病変の形によっては小さくても切除するものがあります。 一方、過形成性ポリープは、癌化する可能性がほとんどないので、基本的に切除せずに経過を観察します。


■内視鏡検査で深さや悪性度を診断

現在の内視鏡は、ごく小さな病変や平坦で見つけにくい病変も見付けられるようになっています。 癌の深さや悪性度を診断するには、まずピットパターン(腫瘍の表面構造)を観察します。 大腸癌の場合、病変の種類や進行度に応じて、特徴的なピットパターンを示すことがわかっています。 さらに、隆起型や平坦・陥凹型などの病変の形から、病変の悪性度(進行しやすさ)が判断できます。 こららを総合的に判断して、「癌化する可能性の高い良性腫瘍」「癌は粘膜内、または粘膜下層の浅い部分にとどまっているもの」を、内視鏡で切除します。

【癌の進行とピットパターンの変化】

これまでの研究から、ピットパターンの変化について、「形が不整になるほど」「荒廃するほど」、 癌が進行していることがわかっています。


大腸癌の深さや悪性度の指標

■内視鏡治療

粘膜や粘膜下層の浅い部分にとどまる2cm未満の癌が対象

内視鏡治療は、病変の大きさや形に合った方法で行われます。

▼ポリペクトミー
隆起した、いわゆるポリープが対象です。 キノコ状の茎のある癌の場合、内視鏡から出したスネア(金属状の輪)を茎にかけて締め、スネアに高周波の電気を流し、癌を根元から焼き切ります。

▼内視鏡的粘膜切除術(EMR)
平坦な病変や腸壁に付着した面積の広い隆起した病変、ポリペクトミーでは掴めない病変が対象です。 平坦な形の癌の場合、癌の下の部分に内視鏡の先から生理食塩水を注入し、癌の部分を膨らませます。 膨らんだ癌にスネアをかけて締め、高周波電波を流して焼き切ります。

▼内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)
EMRでは一括で切除しきれない、2cmを超える早期の癌が対象です。

このような内視鏡治療は、体への負担が少なくて済む反面、リスクも伴います。 具体的には、大腸の壁は胃などに比べて薄いので、電流を流すことで、まれに処置した部分に孔が開いたり、出血が起きたりすることがあります。 また、癌を取り残す危険性も少なくありません。 なお、内視鏡治療で切除した癌を顕微鏡で調べた結果、リンパ節へ転移している可能性が高いと判断された場合、 開腹手術を追加して行うかどうかは、主治医と患者さんが十分に相談して決めます。

◆治療後の注意

内視鏡治療後、病理検査で切除した病変を詳しく調べます。 その結果、癌を完全に取り切れていなかった場合や、転移の可能性が高い場合は、後日、外科手術などが必要になります。 再診を必ず受けてください。腺腫や早期癌は、適切な治療を受ければ、再発の危険性はほとんどありません。 ただし、一度、腺腫や早期癌ができたということは、大腸の別の部位に新たに腺腫や癌ができる可能性が高い状態といえます。 治療後、少なくとも3年以内に1回は、大腸内視鏡検査を受けることが目安ですが、家族歴や治療した病変の性質、大きさ、 数などによる個々人が持つリスクなどによって、その後の検査間隔は異なります。担当医と相談しましょう。

【病理検査】

専門の病理医が、癌と正常な組織を顕微鏡で比較して観察し、「きちんと癌が取り切れているか」「粘膜下層に1mmよりも深く癌が浸潤しているかどうか」 「リンパ管や静脈に浸潤していないか」「組織の種類」「癌細胞のばらけの具合」などを診断します。


大腸癌の深さや悪性度の指標