大腸癌の抗癌剤治療

この数年で、大腸癌の治療に使用できる抗癌剤が増え、治療の選択の幅が広がりました。 その結果、治療効果が高まり、副作用も以前より軽減されるようになって来ました。


■抗癌剤治療

使用できる薬の増加で、治療効果が高まった

「抗癌剤治療」とは、癌細胞に直接作用する「抗癌剤」を用いる治療法で、「化学療法」とも呼びます。 抗癌剤は「癌細胞の増殖を抑える」「癌細胞を死滅させる」「癌自体が大きくなるのを抑える」などの目的で使用されます。

大腸癌で抗癌剤治療の対象になるのは、主に2つの場合です。 1つは、進行度がⅢ期であるリンパ節に転移している癌を中心に手術後の再発防止のために「術後補助化学療法」として行われます。 もう1つは、Ⅳ期の進行癌や再発癌で、大腸以外の複数の臓器に転移していたり、大腸癌の治療後、肝臓や肺に転移した場合などに行われます。 また最近では、進行した直腸癌において、はじめに抗癌剤治療を行って癌を縮小させてから、 肛門機能温存術をする「術前補助化学療法」も行われるようになってきました。

ここ数年、使用できる抗癌剤が増えたことで、いろいろな抗癌剤の組み合わせによる治療が可能になり、高い治療効果が期待できるようになっています。


●大腸癌の抗癌剤治療の方法

抗癌剤や分子標的治療薬で癌の成長を抑えたりする

薬による治療は、癌が大きくなるスピードを遅くし、患者さんが快適に生活できる期間をできるだけ長く保つために行われます。 大腸癌の治療では、一般に、次のような薬を併用したり、組み合わせたりして用います。

▼2剤を併用する
大腸癌の場合、癌を直接攻撃する抗癌剤として「フルオロウラシル」と、 その働きを強める「レボホリナートカルシウム」という2種類の薬を組み合わせて併用するのが基本です。 投与期間は半年から1年程度です。術後補助化学療法を行うと、行わない場合より、5年生存率が約5~10%以上上がることがわかっています。

▼3剤を組み合わせる
進行癌や再発癌では、フルオロウラシルとポリナートカルシウムに、「イリノテカン」または「オキサリプラチン」という薬を組み合わせて使用します。 これら3剤を併用することで、治療効果が上がり、それぞれの薬の量は減るため副作用が比較的軽減されます。 3剤併用の治療は、2週間に1度、約48時間かけてゆっくり点滴で投与する方法が最も効果的とされています。 投与期間は通常、半年から1年程度で、継続できる限り行います。 そのため、患者は抗癌剤治療を受けるたびに、入院を繰り返さなければなりません。 一方最近では、入院せずに自宅で点滴できるようにもなってきています。 点滴をしている間は激しい運動や入浴は控えた方がよいのですが、ふだんの生活にはほとんど支障ありません。

また最近は、手術できない大腸癌や再発した大腸癌に「分子標的治療薬」と呼ばれる新しいタイプの薬も使えるようになりました。 1つは「ベバシズマブ」で、癌の成長に欠かせない酸素や栄養を運ぶ血管が新しく作られるのを阻止することで、 癌の成長を抑える薬です。もう1つは「セツキシマブ」で、癌の増殖に必要な指令を遮断して、癌の成長を抑える薬です。


◆ベバシズマブの場合

2007年に、大腸癌の抗癌剤治療において、「ベバシズマブ」に健康保険が適用されました。 ベバシズマブは、「分子標的治療薬」で、癌細胞のみに作用する性質があります。 これは、他の抗癌剤とは異なる作用の仕方です。癌組織が成長するには、栄養や酸素を癌組織に運ぶ血液が必要になるため、 癌組織専用の血管(新生血管)が作られます。ベバシズマブは、癌が血管を新しく作ろうとするのを阻害して、 癌組織の成長を抑える「血管新生阻害剤」です。 ベバシズマブは、進行癌や再発癌に対して使用されます。単独では用いず、前述の2剤併用または3剤の組み合わせに 加える形で使用します。海外の臨床試験では、フルオロウラシル、ホリナートカルシウム、オキサリプラチンの3剤に ベバシズマブを加えると、加えない場合より生存期間が平均で約5ヶ月長かったという結果が出ています。 ただし、この薬の使用は高額なので、十分に検討して使う必要があります。

◆治療の流れと薬の選択

患者さんの病状や体力に応じ、抗癌剤などの薬の組み合わせを選択して投与を始めたら、まずは副作用をチェックします。 そして、投与開始から2~3ヵ月後に画像検査などで治療効果の判定をします。 その結果、癌が大きくなっていなければ、引き続き同じ組み合わせの抗癌剤治療が行われます。 分子標的治療薬のベバシズマブは、抗癌剤と併用するのが一般的です。 セツキシマブは、通常、イリノテカンとの併用か、単独で用います。 ただし、分子標的治療薬は高額なので、十分に医師と相談してから使う必要があります。

◆治療の受け方

抗癌剤の点滴は初回は入院して行われることが多く、2回目以降は外来で行われるのが一般的です。 点滴時間は、抗癌剤によって2時間で終わるものから48時間かかるものまでさまざまです。 そのため、点滴が長時間かかる患者さんには、カテーテル(細い管)と点滴針の受け皿になる「ポート」 を体に埋め込む方法も行われるようになって来ました。 外来で点滴を始め、自宅や職場に戻って、点滴が終わったら自分で針を抜きます。


■新しい癌の薬

最近、注目されている癌の薬が「免疫チェックポイント阻害薬」です。 免疫細胞の働きが癌細胞によって抑えられている場合、それを解除するように作用して、癌細胞を攻撃できるようにします。 効果の期待される薬ですが、適応は限られ、承認されて間もないため(2019/5現在)、慎重に使用されています。

【免疫チェックポイント阻害薬の使用までの流れ】

抗癌剤や分子標的薬の治療で効果がない場合、治療前に行っておいた遺伝子検査の「MSI遺伝子」の項目を確認し、 免疫チェックポイント阻害薬の使用が検討されます。この遺伝子に変異がある場合は、抗癌剤や分子標的薬の効果がない一方で、 免疫チェックポイント阻害薬の抗PD-1抗体薬の効果があることがわかっています。