大腸癌の予防に『ビタミンD』

近年増加している欧米型癌の中でも女性の死亡率第一位の大腸癌の主原因は、 ビタミンDの不足であることがわかりました。 ビタミンDを体内に増やせば、大腸癌は半減するということが研究で明らかになり、 大腸癌の予防のためには、日光浴を1日十数分行うことが有効であることがわかりました。


■ビタミンDによる癌予防効果

ビタミンDの多い人ほど癌が少ない

最近になって、大腸癌を引き起こす重大な危険因子として注目されているのが「ビタミンD不足」です。 ビタミンの中で、ビタミンDは「骨のビタミン」ともいわれ、これまで骨や歯の発育に大切なビタミンとして 知られてきました。ところが、国内外で行われた数々の研究において、ビタミンDは大腸癌の発生を防ぐ効果も 大きいことが突き止められたのです。ビタミンDは、体内で作られると、肝臓でカルシジオール(水酸化ビタミンD) という安定した形に変化します。体内で癌の芽が発生すると、カルシジオールの一部が細胞内で カルシトリオール(活性ビタミンD)に変化します。このカルシトリオールが細胞の遺伝子に働きかけて、 癌細胞が作られるのを抑えると考えられるのです。

ビタミンDによる癌予防効果は、培養細胞や動物を使った試験だけでなく、ヒトを対象とした数多くの大規模な調査研究でも 明らかになっています。例えば、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校のゴーハム博士は、 血液中のカルシジオールの濃度と大腸癌の関係を調べています。 その結果、血液中のカルシジオールの濃度が最も高かった人のグループは、濃度が最も低かった人のグループに比べて、 大腸癌の発生率が半減していました。日本の国立がんセンターも約3万8300人を対象に、大規模な調査を行っています。 その結果、血清1ミリリットル中のカルシジオールの濃度が22.9ナノグラム未満の人のグループは、 それ以上だった人のグループに比べて、直腸癌にかかる危険度が男性で4.6倍、女性で2.7倍高いことが判明しました。 そして、大腸癌のほかにも、カルシジオールの濃度が高い人ほど乳癌や卵巣癌、前立腺癌、肺癌にかかりにくいとの報告もされています。


●日射量の少ない地域では癌が多い

その後の研究で驚くべき事実が明らかになりました。 それは、ビタミンDの生成に紫外線が関係し、日射量の少ない地域ほど癌が多いということです。 紫外線には、波長の違いによりA波、B波、C波の3種類があります。 このうち、B波が皮膚に吸収されると、体内でビタミンDが生成されます。 言い換えれば、紫外線を浴びる機会の少ない人は、ビタミンD不足に陥っている恐れが大きいと考えられます。 実際、紫外線に当たる時間の少ない地域の人たちは、ビタミンD不足になりがちで、大腸癌の発生率も高くなっています。 九州大学医学部の溝上哲也元助教授は、日本の都道府県別の年平均日射量と、各種の癌死亡率を調査しています。 それによると、大腸癌をはじめ、胃・食道・膵臓癌などの消化器系の癌の発生率は、日射量の少ない地域ほど 高くなると報告されています。 都道府県別の1日あたりの平均日射量と大腸癌の死亡率との関係について調べたある調査では、 北海道や東北地方といった日射量の少ない地域では、大腸癌による死亡率が高くなっていました。 また、東京都や大阪府などの大都市でも、大腸癌の患者数が多い傾向にあることもわかりました。 これは、大都市に住む人たちは労働環境などの関係で昼間も屋内にいることが多く、 紫外線に当たる機会が不足していることが原因だと考えられます。


●現代人は日光を浴びる機会が激減

前述のように、ビタミンDの摂取は、大腸癌の予防に役立つことが明らかになってきました。 ある研究によると、ビタミンDを補給すれば、大腸癌の発症率を最大で50%抑えられるといわれています。 大腸癌を予防するためには、体内にビタミンDを蓄えておくことが大切なのです。 ところが、ビタミンDの生成能力は年を取るにつれて衰えていきます。 そこで、ビタミンDを体内に増やすためには、紫外線を浴びることが効果的です。 しかし、現代の日本人は、夏季の一時期を除いて、紫外線を浴びる機会が減っています。 例えば、一日中屋内で仕事をしている人は、朝の通勤時に朝日を浴びる程度でしょう。 都市部の人は、移動の際も地下を歩くことが多く、紫外線を浴びる機会は少なくなっています。 北海道や東北地方といった日照時間の少ない地域では、さらにその傾向は強くなり、 紫外線によるビタミンDの生成ができにくくなっているのです。


●日焼けをしない程度の日光浴がいい

そこで、日ごろ紫外線を浴びる機会が少ない人は、日光浴を心がければいいでしょう。 紫外線の強い夏季なら15分、紫外線の弱い冬季なら30分くらいを目安に、屋外で日光を浴びることが大切です。 日当たりのいい窓際の部屋にいることの多い人は、屋外で日光浴をしなくてもすむと思うかもしれません。 しかし、紫外線は、窓ガラスを通すとB波がガラスに吸収されて、ビタミンDを生成する効果がなくなってしまいます。 また、日焼けサロンで使われる紫外線の種類は主にA波なので、ビタミンDの生成に役立つB波の紫外線の効果は期待できません。

ところで、最近では紫外線による肌の老化や皮膚癌が注目され、多くの人が日光浴を避ける傾向になっています。 確かに長時間紫外線を浴び、極度の日焼けをすれば、細胞が傷つけられ、シミやシワができたり、 皮膚癌を起こしやすくなったりします。しかし、長時間、強い紫外線を浴びなくても、 癌予防に必要なビタミンDを生成することはできるのです。人間の皮膚は長時間紫外線に当たっても、 ビタミンDの生成量が一定量よりも増えないことがわかっています。 つまり、紫外線を長時間浴びる必要はなく、日焼けをしない程度に浴びればいいのです。 日焼けが気になる人は、日陰で倍の時間(夏季は30分、冬季は1時間)過ごすといいでしょう。 日陰での拡散光や反射光でも、ビタミンDを生成させることは十分にできます。 日光浴の時間が取れなかったり、日射量の少ない地方に住んできたりする人は、 ビタミンDの豊富な魚やキノコをよく食べるように心がけてください。 また、必要に応じて市販のサプリメントを利用してもいいでしょう。