潰瘍性大腸炎
『潰瘍性大腸炎』は、大腸の粘膜に炎症が起こり、潰瘍やびらん(だだれ)ができる病気です。 多くの患さん者が治療によって、症状が治まっている状態を維持しながら、健康な人とほとんど変わらない生活を送れるようになってきています。
■潰瘍性大腸炎とは?
大腸の粘膜に炎症が起こり、潰瘍などができる
『潰瘍性大腸炎』は、直腸から始まり、大腸の粘膜に炎症が広がって赤くただれ、 潰瘍やびらん(ただれ)などの病変が、直腸から連続して生じる病気です。 「潰瘍性大腸炎」の炎症は、直腸に起こりやすく、だんだん大腸全体へと広がっていきます。 びらん性といって、正常な細胞がないほど広範囲に発赤と出血、ただれ、が連続して起こります。 粘膜に炎症が起きると、粘膜がただれて、水分を吸収する機能も低下します。 そのため、白っぽい粘液が混じった下痢をしたり、患部が便とこすれて出血し、血便が出たりします。 さらに、目や皮膚、関節などにも炎症が生じ、合併症を引き起こすこともあります。 炎症の範囲によって、「直腸炎型」「左側大腸炎型」「全大腸炎型」に分けられます。
「潰瘍性大腸炎」は、”腸の喘息”のようなもので、症状がよくなったり悪くなったりするのを 繰り返すのが特徴です。ストレスがかかったときや、季節の変わり目、風邪を引いたときなど、 体調のちょっとした変化をきっかけに、症状が突然悪化することもあります。
潰瘍性大腸炎は、はっきりとした原因がわかっておらず、「難病(特定疾患)」に指定されています。 現在、原因としての可能性が指摘されているのは、体内に侵入した細菌やウィルスなどの異物を排除する「免疫」 の働きの異常などです。アメリカやヨーロッパでは以前からこの病気が多く、日本で若い人に多い理由として、 食生活の欧米化の影響も考えられています。
日本では、潰瘍性大腸炎の患者数がここ数十年で急増しています。 2003年の時点で、潰瘍性大腸炎の患者は、約9万人いると報告されており、まだ増加の傾向にあると考えられています。 また、発症年齢のピークは、男女共に20歳代ですが、50歳代以降に発症する例もよく見られます。
●潰瘍性大腸炎の症状
>下痢などの排便異常が起こり、全身症状が出ることもある
潰瘍性大腸炎になると、まず「排便異常」が起こってきます。便が軟らかくなったり、水っぽくなります。 そのうち粘液が混ざったり、出血を伴う下痢が起こるようになり、排便の回数も増えてきます。 また、腹痛を伴うこともあります。多くの患者が、出血を伴う下痢の症状が、医療機関を受診するきっかけになっています。 炎症がひどくなると、「発熱、体重減少、だるさ、貧血」など、全身症状も現れてきます。 出血を伴う下痢と腹痛、強い全身症状が急に現れる場合もあります(劇症)。 潰瘍性大腸炎は、多くの場合、炎症によって症状が起きている「活動期」と、炎症が抑えられて症状が出ていない 「寛解期」を交互に繰り返すのが特徴です。
●潰瘍性大腸炎の検査と診断
排便異常などで消化器内科などを受診すると、問診で便の性状や排便の状況など症状の経過を聞かれます。
そして、直腸から内視鏡を入れて大腸内を調べる「大腸内視鏡検査」や、肛門からバリウムを注入して
エックス線検査を行う「注腸造影検査」で、炎症や潰瘍の有無と程度を調べます。
次に、大腸の粘膜の一部をとって、炎症の状態を確認する「生検」を行ったり、
便検査で便に含まれる物質を調べたりします。生検や便検査は、「アメーバ赤痢」「サルモネラ腸炎」
「虚血性腸炎」、抗菌薬などによる「薬剤性腸炎」などの、他の大腸の病気と鑑別するために行います。
これらの検査の結果によって、潰瘍性大腸炎かどうかが診断されます。
■潰瘍性大腸炎の治療
●潰瘍性大腸炎の治療①
活動期は、食事療法と薬物療法で症状の改善を図る
潰瘍性大腸炎は原因がわかっていないため、現在のところ根治は難しいのですが、寛解期に入れば、
健康な人とほとんど変わらない生活が送れます。そのため、治療は活動期から寛解期へ速やかに導き、
寛解期をできる限り長く維持することを目指します。
治療では、主に「食事療法」と「薬物療法」を並行して行います。
◆食事療法
活動期には、下痢による体力の消耗を防ぐため、エネルギー源となるたんぱく質を積極的に摂取します。
「白身魚、鶏のささ身、半熟卵、豆腐」など、良質なたんぱく質を摂るようにしましょう。
魚や肉、卵は固くなりすぎないように加熱調理すると、消化しやすくなります。
また、腸に過剰な刺激を与えないために、食物繊維や脂質が多い食品、香辛料やアルコール、
コーヒーなどは、摂取を控えるようにします。
なお、症状が重い場合や劇症の場合は、絶食して点滴で栄養補給を行います。
一方、寛解期では、暴飲暴食に注意しながら、栄養バランスのよい普通の食事を摂ることができます。
◆薬物療法
「潰瘍性大腸炎」の薬物治療で、主に用いられるのは「メサラジン製剤」「サラゾスルファピリジン製剤」 などの「5-ASA製剤」と「ステロイド薬(副腎皮質ホルモン薬)」です。
- ▼5-ASA製剤(5-アミノサリチル酸製剤)
- 活動期に炎症を抑えたり、寛解期を維持するために使われ、治療の基準となる薬として広く使用されます。
「メサラジン製剤」は、特殊な加工が施された錠剤で、大腸までたどり着いたところで薬剤が放出されて、
直接炎症を鎮めます。また、炎症が再び悪化する(再燃)のを防ぐ効果もあります。
原則として長期間の服用が必要ですが、体内にあまり吸収されず、副作用も少なく比較的安全性の高い薬です。
5-ASA製剤に加え、以下の薬を必要に応じて使用します。 - ▼ステロイド薬(副腎皮質ホルモン薬)
- 炎症と免疫の働きを抑える薬です。活動期に限って使われます。 ステロイド薬は、再燃予防の効果はありませんが、強い炎症を抑える作用があります。 炎症が強い場合に、内服薬や、点滴(入院)で用いられます。
- ▼免疫調整薬
- 免疫の働きを調節する薬です。薬の種類によって、活動期に使われるものと、 寛解期に使われるものとがあります。
これらの薬は主に内服薬で使用しますが、症状によっては、座薬や点滴などで使用します。
■潰瘍性大腸炎の治療②
薬物療法などで改善しない場合、手術などを検討する
食事療法と薬物療法だけでは症状が改善されない場合などは、「血球成分除去療法」や 「全大腸切除術」なども検討されます。
●血球成分除去療法
副腎皮質ホルモン薬が効かない人や、薬の作用が強く出る人は、血球成分除去療法を行うことがあります。
炎症が起きているときは、免疫の働きを担う白血球が異常にに活性化しています。
そこで、血管に管を通して血液を一旦体外に取り出し、特殊な機械をを用いて活性化した白血球を除去して
体内に戻すことで、炎症を抑えるのが「血球成分除去療法」です。
2007年7月現在、健康保険が適用されている主な治療法は「白血球除去療法(LCAP)」と
「顆粒球吸着療法(GCAP)」です。
治療では、まず両腕の静脈に特殊な機器をつなぎ、一方の腕の静脈から徐々に血液を体外に取り出し、 活性化した白血球や白血球の成分である顆粒球などを取り除きます。 同時に、もう一方の腕から血液を徐々に体内に戻し、計2~3リットルの血液を循環させます。 通常、治療は1回1時間ほどで、週に1~2回、5回を1クールとして最長で2クール10週間続けて行います。
白血球などを除去するので、まれに感染に対する抵抗力が弱まることもありますが、 一般に副作用の少ない治療法で、薬物療法だけではなかなか症状がコントロールできない場合などに行われ、 患者の50%以上に症状の改善が見られるといわれています。
●全大腸切除術
薬物療法などの内科的な治療の効果が十分でなかった場合や、大量出血している場合、頻繁に再燃と入院を繰り返す場合、 「大腸がん」の場合などは手術が検討されます。 全大腸切除術では、手術後に再び炎症が生じる可能性を考えて、大腸を全て切除します。 そして、小腸の一部で便をためる袋を作り、大腸の代わりにして、肛門につなぎます。
■その他
- ▼潰瘍性大腸炎と上手に付き合うには?
- 潰瘍性大腸炎は、今のところ完治が難しく、しかも若い世代で発症することが多いので、 多くの患者が、長期間にわたって病気と付き合っていくことになります。 しかし、治療法の進歩によって、寛解期を長く保てるようになり、多くの患者が 健康な人と同じような生活を送れるようになってきています。 寛解期をできるだけ長く維持し、再び活動期に移行するのを防ぐためにも、 栄養バランスの取れた食事や十分な睡眠、ストレスを溜め込まないなど、 腸をいたわる生活を心がけましょう。