機能性ディスペプシア(機能性胃腸症)

胃もたれ」や「早期満腹感」「胃痛」がたびたび起こる人は 機能性ディスペプシアの可能性があります。 機能性ディスペプシアは、実は、ストレスが原因となる場合が多いのです。 胃の不調が続くと、食事がおいしく摂れなかったり、気分が沈んだりしがちです。 放置せずに、適切な治療を受け、生活を楽しめるようにしましょう。 慢性的に胃の不快な症状が現れる機能性ディスペプシアの改善には、薬による治療とストレスの軽減など、生活習慣の見直しが大切です。


■機能性ディスペプシア(機能性胃腸症)とは?

胃もたれや早期満腹感、胃痛が慢性的に起こる 内視鏡では異常は見つからないが、胃もたれや早期満腹感、胃痛などの不快な症状が慢性的に起こる

「機能性ディスペプシア」という病名には聞き覚えがない、という人が多いかもしれません。 日本人の4人に1人は、月に2回以上、胃もたれやすぐにお腹がいっぱいになる早期満腹感、胃痛など、 みぞおちを中心とするさまざまな不快な症状を感じているという報告があります。 ところが、明らかな病気がないのに、このような症状が現れる人がいます。 かつては、胃に炎症がないにもかかわらず、「慢性胃炎」と診断されていましたが、詳しく調べてみると、 胃の機能に異常が生じることによって症状が現れていることがわかってきました。 そこで、原因となる病気がないのに現れているディスペプシアに対して、機能性ディスペプシアという病名が使われるようになったのです。 胃の不快な症状を訴えて受診した患者さんの半数は、内視鏡検査を行なっても異常が見つからないとされています。 このように、胃の検査を行って異常がないにもかかわらず、胃の不快な症状が続く状態を総称して、機能性ディスペプシアといいます。 日本では、2013年に正式に診断名として認められ、健康保険による治療の対象となりました。 健診を受けた人を対象に行った調査によると、11~17%の人に機能性ディスペプシアがあることが明らかになっています。 特に、まじめな性格の人や、ストレスを感じやすい人などに多く起こる傾向があります。 一般に、機能性ディスペプシアと診断されるのは、内視鏡検査などで異常がないのに、胃もたれ、早期満腹感、胃痛といった胃の不快な症状が 1週間に2~3回以上起こる状態が、1ヵ月程度続いている場合は、機能性ディスペプシアと考えられます。 日本人では、人間ドックの受診者のうち、機能性ディスペプシアのある人は10人に1人程度とされていますが、 実際には4人に1人程度が発症していると考えられています。 機能性ディスペプシアは慢性的な病気ですから、食べ過ぎなどで起きた一時的な胃もたれや胃痛は当てはまりません 的確な診断と治療のために、ガイドラインが作られています。

機能性ディスペプシアでは、何らかの原因によって、胃の機能低下などが引き起こされ、さまざまな症状が起こると考えられています。 これまでは「胃下垂」「胃痙攣」「神経性胃炎」と呼ばれてきたものが、機能性ディスペプシアに含まれます。 まだ解明が進んでおらず、はっきりした原因が特定できないことも多くあります。 以前は”病気ではない”と考えられ、適切な治療を受けられないこともありましたが、 最近では、「QOL(生活の質)」を低下させる病気として、積極的に治療を受けることが勧められています。


●胃の働き

胃には、次のような機能があります。

  • 胃壁が食事に際して風船のように伸びて大きく膨らみ、食道から入ってくる食べ物を受け入れる。
  • 筋肉が収縮して波打つように働きながら(蠕動運動)、食べ物と胃液を混ぜ合わせ、消化しながら、 十二指腸の方へと運ぶ。
  • 十二指腸へ送り出す。

胃の機能が正常であれば、胃もたれや胃の痛みなどを感じることはありません。


●主な症状

機能性ディスペプシアでは、食事をしたときに胃もたれや、早期満腹感(少量の食事を摂っただけですぐお腹いっぱいになる)などが起こったり、 食事とは関係なく胃の痛み胃の灼熱感などの症状が起こったりします。 そのほか、胃のむかつき腹部の膨満感などの症状が現れることもあります。 また、脂っこいものを少し食べただけでこれらの症状が起こったり、食べたいものが食べられなくなったりします。 こうした状態が続くと、食事をすることが苦痛になったり、健康への不安感が高まったりして、日常生活に支障を来すこともあります。 胃の機能が低下した場合、食事に伴って起こるの次のような症状です。

▼胃もたれ
胃全体の動きが悪くなり、食べ物が胃の中に残ってしまうために、もたれたように感じたり、 重苦しく感じたりします。

▼膨満感
少し食べただけで”お腹いっぱいになった”と感じます。胃壁が十分に伸びず、 十分な量の食べ物を受け入れることができないために起こります。

▼みぞおちの痛み
みぞおちに痛みを感じるようになります。食事と関係して痛みがある場合は、機能性ディスペプシアよりも胃潰瘍などが 考えられます。

▼みぞおちが焼けるような感じ
みぞおちが焼けるように感じます。胸焼けと勘違いされることがありますが、 胸焼けは、みぞおちより上の胸の辺りに起こります。

●原因

機能性ディプペプシアは、「几帳面な人」や「周りに気を遣う性格の人」に起こりやすい傾向があり、 主にストレスがきっかけとなり、胃の運動異常知覚過敏が起こることで発症すると考えられています。 胃の機能が低下する原因としては、主に「加齢によって、自律神経の働きが低下する」 「内視鏡ではわからない微細な炎症が、粘膜やその奥にある筋肉(筋層)に起きている」ことなどが考えられます。 その他に、「ピロリ菌の感染」「食事など生活習慣の乱れ」「胃酸の刺激」などが関わっていると考えられています。 これらがきっかけとなり、胃の「運動機能異常」や「内臓知覚過敏」が引き起こされるのです。

▼胃の運動異常
胃に入った食べ物は、胃が運動することでスムーズに腸へと送り出されていきます。 しかし、胃の運動が悪くなると、排出が遅くなって食べたものが胃に残るようになり、胃もたれが引き起こされます。 例えば、ストレスを感じると、胃の働きをコントロールしている自律神経の働きが乱れ、食べ物を胃から十二指腸へ送り出す運動機能に異常を来して、 胃もたれなどの症状が現れます。 また、食べたものは、胃に一定時間留まるため、食事をすると自動的に胃の上部が膨らんで胃の容量が大きくなります。 しかし、胃の運動異常があると、胃の上部が十分に膨らまないために、早期満腹感が起こります。

▼胃の知覚過敏
胃酸の分泌は、自律神経の働きによって調整されています。通常は胃の中で胃酸が分泌されても、胃がそれを感じることはありません。 しかし、機能性ディスペプシアが起こりやすい人の場合は、ストレスを感じると自律神経の働きが乱れ、 胃酸に対して胃の粘膜が敏感に反応する知覚過敏が起こります。 健康な人と機能性ディスペプシアのある人で、胃酸と同じ程度の強い酸を胃に注入し、胃の粘膜が酸の刺激をどのくらい感じるかを調べた研究があります。 この研究から、機能性ディスペプシアのある人は、健康な人と同じ量の酸でも、胃の粘膜が酸の刺激を強く感じる知覚過敏が起こりやすく、 胃の痛みなどの不快な症状が起こることがわかってきました。

◆ストレスの影響

ストレスも機能性胃腸症の原因となります。ストレスがあると、脳からは「ストレスホルモン」の一種が分泌され、 その作用によって、次のことが起こると考えられています。

  • ▼脳の機能に影響し、症状を感じやすくなる。
  • ▼胃や十二指腸の機能に影響し、機能低下や知覚過敏症を引き起こす。

十二指腸には、粘膜の酸性度を感知する働きがあります。 胃酸の混じった食べ物が流れてきて、粘膜の酸性度が高くなると、その情報が脳に送られ、脳は十分に食べたと判断します。 しかし、ストレスの影響で、十二指腸の知覚過敏が起こると、十二指腸は、酸性度がそれ程高まっていないのに、”高まった”と感知してしまいます。 そのため、実際には少ししか食べていないのに、脳は十分に食べたと判断してしまい、食欲が低下することがあります。 多くの人が、自分のストレスに気付いておらず、仕事などで頑張りすぎて、ますます悪化させていることもあります。 ストレスによって胃の運動機能異常や内臓知覚過敏が引き起こされ、症状が現れるようになると、それがまたストレスになってしまいます。 こうして悪循環に陥り、つらい症状が長く続いてしまうことがるのです。 症状が長引くと、精神的にも肉体的にもつらいことに加え、仕事に身が入らなくなるなど、 社会的な影響が現れてくることもあります。症状を我慢せず、早めに医療機関を受診して適切な治療を受けることが大切です。


■治療

適切な治療を受けることで、症状を改善することができます。 機能性ディスペプシアが疑われる胃の不快な症状がある場合は、早めに消化器内科などを受診することが勧められます。 治療の基本は、薬物療法で症状を緩和することです。 胃の運動機能に異常があり、胃もたれや早期満腹感がある場合には、胃の運動機能を改善する薬アコチアミドを使います。 胃の知覚過敏による胃の痛みや胃の灼熱感がある場合には、胃酸の分泌を抑える薬を使います。 また、漢方薬の六君子湯は、機能性ディスペプシアの症状を改善する効果があると報告されており、使用することがあります。 こうした薬を使っても症状が十分に改善しない場合は、ストレスを緩和するために抗不安薬などの使用を検討します。 薬物療法を行っても症状が改善せず、薬を追加したり、切り替えたりする場合は、薬物療法を開始してから4週間程度が目安となります。

【関連項目】:『機能性ディスペプシアの治療』


■生活習慣の改善

機能性ディスペプシアは、薬によって症状が緩和しても、根本の原因である、ストレスによる自律神経の働きの乱れを解消しないと、 再発する可能性があるので、生活習慣の改善が必要です。 自律神経の働きを整えて、機能性ディスペプシアによる胃の不快な症状を改善するには、規則正しい生活を心がけることが大切です。 例えば、十分な睡眠をとり、栄養バランスのよい食事を1日3食なるべく決まった時間に摂るなどして、生活のリズムを整えましょう。 また、症状を引き起こすきっかけとなっている”ストレスの原因”を知ることも重要です。 自分を客観的に見るようにして、ストレスの受け止め方を変えてみると、気持ちが楽になることがあります。


●その他

▼患者の傾向
機能性胃腸症のうち、胃の痛みは比較的若い人に多く、胃もたれは中高年に多く見られます。 性別では、どちらかというと女性が多いといわれています。 また、一般に「快眠」「快食」「快便」の3つがそろうと、健康を実感できるとされますが、 機能性胃腸症の患者では、快食が損なわれるだけではなく、快眠や快便も損なわれている傾向があります。

▼消化管運動改善薬の効果
消化管運動改善薬の一種である「クエン酸モサプリド」についての臨床試験が行なわれています。 それによると、約600人の機能性胃腸症の患者のうち、クエン酸モサプリドを服用したグループでは、 慢性胃炎治療薬としては一般的な「テプレノン」を服用したグループより、胃もたれ、胃の痛みの改善度が高く なりました。また、「よくなった」という満足感を持った患者の数も多かったと報告されています (日本国際消化管運動研究会「JMMS」)。