胃癌

日本の胃癌死亡率は、1960年代から男女とも大幅な減少傾向にあります。 ピロリ感染胃炎の除菌が保険適用になってから、約1000万人が除菌されたことにより胃癌死亡者数は2013年が48427人、2014年が47903人、 2015年は46659人、2016年には45509人、2018年には44189人、2019年には42931人、2020年には42318人と減少を示してきました。 2012年と比較すると15.3%もの胃癌死亡者数の減少を示しています。 罹患率も減少傾向にありますが、死亡率に比べて減少の度合いは緩やかです。 胃癌は進行の程度によって「早期癌」と「進行癌」に分けられます。 早期癌と進行癌では、治療法も治りやすさも大きく違ってきます。 胃癌の治療のためには、癌の進行の程度を正しく知ることが大切です。


■症状と特徴

胃癌は年間10万人以上に発症するほど多く見られる病気ですが、死亡率は年々減少傾向にあり、早期に治療を始めれば100%治るといっても過言ではない状況になりました。 発症は50~60歳代が全体の6割を占め、高齢者が胃癌にかかる率は年々上昇しています。 罹患率と死亡率は、男性のほうが女性よりも高くなっています。 ごく早期の胃癌に自覚症状はなく、最初にみられる症状は食後に感じるみぞおちの鈍い痛みです。 進行すると食事に関係なく痛むようになります。さらに胃のもたれ、胸やけやげっぷ、吐き戻しなどがみられます。 ただし、このような症状は消化器の病気に多くみられ、胃癌特有の症状ではありません。 そのため、胃癌を早期発見するには定期的な健康診断が必要です。 癌が進行すると、食事が喉を通りにくくなる、胃の重圧感、体重減少、貧血、貧血による動悸やめまい、味覚異常、口臭などがみられるようになり、 さらに進むと、みぞおちや臍の上あたりに硬いしこり(種瘤)が触れたり、腹水や吐血、タール便(下血)が現れます。


■胃癌の原因

▼胃癌のリスク
【喫煙】:多くの研究から確立したリスク要因とされています。
【飲酒】:胃の噴門部癌を除いて、関連があるとする根拠が十分とはいえません。
【食塩および高塩分食品】:疫学研究、動物実験研究からおそらく確実とされています。
【ヘリコバクター・ピロリ】:確立した胃癌のリスク要因です。
多くの疫学研究や動物実験などから、胃粘膜に棲みつく細菌として知られる ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori) の持続感染は、 確立した胃癌のリスク要因とされています。 つまり、ヘリコバクター・ピロリの存在を確認することは、胃癌発生のリスクを知ることになるのです。

▼胃癌の予防要因
野菜・果物の摂取、特に果物の摂取:おそらく確実な予防要因とされています。
ビタミンC・カロテノイド・にんにく・緑茶など:まだ結論は出ていません。

●慢性胃炎

胃がもたれる、重い、胸焼け、食欲不振など、誰でも一度は経験したことのある胃炎の症状。 薬を飲むと治ってそして忘れてしまいます。そして、またお薬を飲んで・・・
胃炎を繰り返すと、胃の粘膜が変化して「慢性胃炎」となります。 慢性胃炎は、胃の粘膜が萎縮して胃液の酸度が低下した状態を指します。 ストレス、食生活(塩分)、 アルコール喫煙、 ヘリコバクター・ピロリ菌(胃の中に住み着いて慢性胃炎、 胃潰瘍を起こし、 50歳以上の日本人8割が保菌)などが原因として挙げられます。 慢性胃炎による病変は、胃癌の発生母地になるといわれ、胃癌の発生は胃粘膜が萎縮するのに比例して多くなります。


■胃癌が見つかったら

自分の癌の進行度を正しく知ることが大切

癌のなかでも、日本人に多い癌が「胃癌」です。 2019年度では、男性の癌では3番目、女性の癌では4番目に多いとされていますが、 毎年、検査によって新たに胃癌が発見される人は、約10万人いるといわれています。 胃癌は、かつて日本での部位別の癌死亡数でも1位を占めていましたが、胃癌の研究が大きく進歩したため、最近では死亡率がだんだん低下してきています。 胃癌は、進み具合によって治る確率が異なります。 したがって、ごく初期の「早期癌」と、「進行癌」とに分けて考える必要があります。 早期癌と進行癌とでは、治療法も大きく変わってきます。 そのため、検査で癌の進行の程度を正しく知り、その人に合った治療法を選択することが重要です。


■胃癌の進行度

癌の深さと転移の有無でステージが決まる

●胃癌の進行度「ステージ」

癌の進行度を「ステージ」といいます。
一般に、ステージが同じであれば、治る確率はほぼ同じと考えられます。 胃癌のステージは、ⅠA~Ⅳに分けられます。 数字が大きくなるほど、AよりBの方が、癌が進行していることを表しています。 ステージを決定するのが、胃癌の「深さ」「転移」で、どちらも4段階に分類されています。 この2つの要素を組み合わせてステージを決めるため、深さが同じであってもステージが異なることもあります。

●胃癌の深さ

多くの胃癌は、胃の内側の粘膜に発生して、胃の壁の中を外側に向かって広がっていきます。 癌の深さが胃の壁のどこまで達しているかによって、次の4段階に分類されます。

▼T1
癌が、胃の粘膜にとどまっている状態です。この段階を早期癌といいます。
▼T2
癌が、胃の粘膜の外側の筋層まで達しているものの、まだ胃の表面には出ていない状態です。
▼T3
癌が胃の壁を突き破り、胃の表面に出ています。 この段階になると、癌細胞が胃の表面から他の臓器にこぼれ落ちて、癌が広がる可能性があるので、治療が難しくなります。
▼T4
胃癌が、最も進行した段階です。 胃の表面に出た癌が、近くにある「大腸」や「膵臓」といった他の臓器にも広がっています。

なお、胃癌の場合は、大きさより深さが重要です。 癌が小さくても、胃の壁の奥深くまで達していれば、進行していることになります。


●胃癌の転移の有無や程度

火事のとき、隣ではなく離れた場所に”飛び火”することがあるように、胃から離れた部位に癌の病巣ができることがあります。 これが「転移」です。 胃の血液は、最初に肝臓に流れ込むため、癌細胞が胃の血管内に入り込んだ場合、肝臓に転移を起こしやすくなります。 これを「肝転移」といいます。 また、胃の表面にできた癌細胞がこぼれて、小腸や大腸などにくっつくこともあります。 癌細胞が、お腹に種をまいたように散らばることから、「腹膜播種性転移」と呼ばれます。 胃癌の転移で最も多いのが、癌細胞がリンパ管に侵入し、リンパ節で増殖する「リンパ節転移」です。 胃の周辺のリンパ節は、胃に近い順に「第1群リンパ節」「第2群リンパ節」「第3群リンパ節」に分けられ、 転移の有無や程度によってN0~N3の4段階に分類されます。

▼N0
リンパ節転移がまったくない状態です。
▼N1
胃に最も近い第1群リンパ節に、癌が転移しています。
▼N2
胃から少し離れた第2群リンパ節に転移があります。
▼N3
胃から遠く離れた第3群リンパ節に転移しています。

転移のある臓器や、遠く離れたリンパ節への転移などを全部取ることはできません。 そのため、胃から離れたリンパ節や、胃以外の臓器に広く転移している場合は、治る可能性が低くなります。


【胃癌のステージ】
  N0 N1 N2 N3
T1 ⅠA ⅠB
T2 ⅠB ⅢA
T3 ⅢA ⅢB
T4 ⅢA ⅢB
遠隔転移

ⅠAとⅠBは早期癌に当たります。Ⅱ~ⅢBは手術により治る可能性のある病期です。 Ⅳは完全に治すことが難しい病期です。


■胃癌の進行度を調べる検査

内視鏡で胃の粘膜を直接見る。画像検査で転移を調べる

胃癌の進行度は、「内視鏡検査」や「画像検査」で調べることができます。

●内視鏡検査

先端にカメラなどがついた「内視鏡」を、口や鼻から胃の中に入れて調べます。 胃の粘膜の状態を直接観察できるので、色などの変化から癌の病巣を発見できます。 また、粘膜の凹凸などで胃癌の深さをある程度推測することが可能です。 内視鏡検査でもう1つ重要なのが、病巣や粘膜の一部を切り取り、顕微鏡で調べる「生検」です。 生検は1ヶ所に限らず、数ヶ所から採取することもあります。 生検によって、癌かどうかを正確に判定でき、癌の広がりもわかります。 また、癌が小さいうちは転移しにくい「分化型」か、小さいうちから転移しやすい「未分化型」かを見分けることもできます。

●画像検査

リンパ節などへの転移を調べるには、画像検査が必要です。 主に「CT検査」「超音波検査」が行なわれます。 肝臓への転移を調べるために、「MRI検査」が行なわれる場合もあります。