胃癌の治療『抗癌剤』
これまで、胃癌の治療において、抗癌剤を使った「化学療法」は、大変難しいとされてきました。 しかし、最近新たな抗癌剤が次々と開発されたことで、以前は難しかった進行した胃癌や再発した胃癌の治療も、大きな進歩を遂げています。
■胃癌の化学療法
延命や再発予防が目的。効き目がある限り続ける。
以前は、胃癌に大きな効果のある抗癌剤はないとされてきました。 ところが最近、胃癌によく効く抗癌剤が次々と開発され、それに伴って、 抗癌剤を使った新しい治療法の研究も進められています。 このように、胃癌における「化学療法」は、大きく変化し始めています。
化学療法の目的は、主に2つあります。
1つは、手術ができないほど進行した胃癌や再発した胃癌の症状を和らげたり、延命を図ることです。
もう1つは、手術の前後に使うことで、手術の効果を高めたり再発を予防することです。
残念ながら、抗癌剤を使っても、胃癌が完全に治るわけではありません。
化学療法の効果は癌が治るかどうかではなく、癌が小さくなるかどうかで判断します。
”癌の大きさが治療前の半分以下になり、その状態が1ヶ月続いた”場合に、
抗癌剤の効果があったと判定されます。これを「奏効」といいます。
抗癌剤は、胃癌が縮小しなくても、増殖が抑えられていて重い副作用がなければ、 投与と休薬を繰り返しながら長期間使い続けるのが原則です。 化学療法には体力が必要ですから、重い副作用が出た場合は、薬の使用をいったん止め、体力が回復するのを待ちます。
■胃癌の化学療法の変化
新しい抗癌剤が登場し、治療法が変わりつつある。
●抗癌作用が強い「TS-1」
最近開発された新しい抗癌剤の中でも、特に注目されているのが 「TS-1」(テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)です。 この薬には、抗癌作用のある「テガフール」、抗癌作用の効果を高める「ギメラシル」、 副作用を軽減する「オテラシルカリウム」という、3つの成分が含まれています。 従来の「5-FU」という抗癌剤を改良した薬で、癌を抑える効果は高く、副作用は少なくなっています。 実際、5-FUの奏効率が20%以下だったのに比べ、TS-1は約49%と、2倍以上にもなっています。 また、従来の抗癌剤は注射や点滴で投与するため、治療を受けるには入院が必要でした。 しかし、TS-1はカプセル状の飲み薬なので、日常生活を送りながら治療を受けることが可能です。 副作用が起こる頻度や程度でも、他の薬に比べて大変低くなっています。
●抗癌剤を組み合わせる「併用療法」
TS-1は、単独で使っても効果が高いのですが、さらに治療効果を高めるため、他の抗癌剤と組み合わせて使う 「併用療法」も研究が進んでいます。 併用療法で使われる他の抗癌剤は、いずれもTS-1と副作用が重ならないものです。 「シスプラチン、ドセタキセル、パクリタキセル」などがあり、このうち1種類を併用します。 これらの抗癌剤は、点滴や注射で投与されるため、初めのうちは入院が必要です。 また、「脱毛」などの副作用も現れます。 併用療法は、TS-1単独では効かない人にも効果が見られ、期待されている治療法です。 TS-1単独では奏効率が約49%だったのが、シスプラチンを併用した場合は約76%に上がったという研究データもあります。
●抗癌剤の使い方も変わってきた
従来の抗癌剤は、ほぼ毎日使用するものが一般的で、体力の低下や重い副作用などが生じ、 治療を中止せざるを得ないこともありました。一方、TS-1を使った治療は、 「TS-1を4週間服用後、2週間休む」という流れを”1クール”として行なわれるのが一般的です。 薬を使用しない「休薬期間」に体力の回復を図ることができるので、治療を長期間続けやすくなっています。 また、抗癌剤の副作用である「吐き気」や「白血球数の低下」を抑える薬も開発されています。 特に、吐き気は、8割以上の患者で改善したという報告があります。 副作用が軽減されたことで、抗癌剤の量を増やし、治療の効果をさらに高めることも可能になりました。 残念ながら、TS-1は、すべの人に効くわけではありません。 しかし、他にもさまざまな抗癌剤が開発されているため、TS-1で効果がない場合、 あるいは効果が徐々に弱くなってしまった場合でも、他の薬に替えることで治療を続けることが可能です。