胃癌とピロリ菌『内視鏡治療の特徴』

・早期の「胃癌」の多くは、体の負担の少ない「内視鏡治療」が選択できる。
・内視鏡治療には、切除術の「EMR」と、剥離術の「ESD」がある。
・内視鏡治療を行える条件を確かめることが大切。


■胃癌の内視鏡治療

EMRとESDの2種類がある

胃壁は、内側から「粘膜」「粘膜下層」「筋層」「漿膜」という4種構造になっています。 粘膜と粘膜下層にとどまっているものを「早期癌」、筋層より深く進行したものを「進行癌」といいます。 早期癌であれば、多くの場合に内視鏡治療が選択でき、この治療によって9割以上人の完治が可能です。 日本で胃癌を発症する人は、毎年25万人と推計され、そのうち10~15万人の患者さんが内視鏡手術を選択していると 考えられています。内視鏡治療の主な長所として、「開腹しないため、体への負担が少なく、傷痕が残らない」、 「胃の機能がそのまま保たれるので、食を初めとすつ生活の質が落ちない」ことがあげられます。


●内視鏡治療の種類

胃癌の内視鏡治療は、高周波電流を発生させる装置(電気メス)などを備えた内視鏡を、口から胃に挿入し、 がんを治療する治療法です。内視鏡治療には、大きく分けて「EMR(内視鏡的粘膜切除術)」と、 「ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)の2種類があり、最近はESDが主流になっています。

▼EMR
癌がある部分の粘膜下層に生理食塩水を注入して、がんを隆起させ、その部分に特殊ワイヤーを掛け、高周波電流を流して、 癌とその周辺を焼き切ります。ワイヤーを架ける範囲が限定されるため、癌の大きさは2cm程度まで、大きくても3cmくらいまで がこの治療の対象となります。通常、手術時間は約10分間、入院期間は3日間になります。

▼ESD
癌がある部分の粘液下層に生理食塩水を注入して、癌を隆起させ、電気メスで癌の周囲の粘膜や粘膜下層と一緒に 広く癌を剥ぎ取ります。ESDでは、広い範囲を切除することができ、癌によっては大きささが10cm程度ある場合でも治療が可能です。 通常、手術時間は約30分~1時間、入院期間は1週間になります。なお、内視鏡治療後の組織検査で、癌が予想より深いところまで 進行していることがわかった場合には、外科的な手術を追加して、癌を取り残さないようにします。

◆内視鏡治療のリスク

治療中は治療しているところから出血することがあります。また、電気メスによって胃壁に孔が開く危険性もあります。 しかし、もしそのようなことがあっても、その止血や修復は内視鏡治療中に行えるので、過度に心配する必要はありません。


■胃癌の内視鏡治療の条件

適用できる基準を知っておくことが大切

「胃癌治療ガイドライン(日本胃癌学会)」では、内視鏡治療の対象は「深さは粘膜内」「大きさは2ccm以下」 「組織は分化型」となっています。また、癌の中に潰瘍や潰瘍が治った痕がある場合には、転移するリスクが高くなると 考えられるため、それらがないことも条件に加えられています。癌の組織型には、癌細胞が集まっている状態を示す 「分化型」と、癌細胞が散らばっている「未分化型」があります。 前者は、内視鏡による治療によって癌の取り残しが少ないと考えられ、後者は取り残しが生じる可能性があると考えられます。

●癌の大きさと治療の選択

最近では、癌の大きさが2cmより大きくても、内視鏡治療を行えるケースが増加しています。 例えば、癌の大きさが5cmである場合、ガイドラインの内視鏡治療の適用基準からは外れています。 しかし、最近の研究では、結膜内の分化型であれば、この大きさの癌でも内視鏡治療が可能であることがわかりました。 また、未分化型癌についても、「大きさが1cm以下」「癌の中に潰瘍がない」という条件であれば、ESDを行い広く切除することで、 癌の取り残しがないという研究結果が出ています。

●セカンドオピニオンを検討する

医療機関によっては、EMRのみを行い、ESDを行わないという場合があります。癌の深さが確定できないため、 内視鏡治療ができるかどうかハッキリしないといわれたり、初めから外科的な切除手術を勧められた場合には、 内視鏡治療が適用できるかどうか、セカンドオピニオンを求めてもよいでしょう。

●再発防止のために

内視鏡治療を行って癌を切除してもピロリ菌が残っていると、癌を発症しやすい胃の状態は変わらないため、 再発するリスクがあります。実際に治療を終えた人の中には、治療したところとは別の場所に再び癌ができるケースも多く見られます。 胃癌になるリスクは、ピロリ菌の除菌治療によって、下げることができます。 ピロリ菌がいる場合は、癌の内視鏡治療を行った後で除菌治療を受け、再発を防止してください。