胃癌とピロリ菌『胃癌を早期発見』

・「ABC法」という血液検査で、「胃癌」発症リスクを推定できる。
・「ピロリ菌」に感染している場合は、定期的に内視鏡検査を受ける。
・胃癌発症のリスクに応じて、内視鏡検査の頻度が決まる。


■早期の胃癌

早期発見と適切な治療でほぼ100%治癒する

現在、日本では、毎年約25万人が「胃癌」を発症すると推計され、毎年約5万人が死亡しています。 「ピロリ菌」に感染していると、胃癌になるリスクが高くなり、胃癌の患者さんの約98%がピロリ菌の感染者であることが わかっています。ピロリ菌に感染しているかどうかを知り、定期的に内視鏡検査を行えば、胃癌の早期発見に役立ちます。

◆早期癌と進行癌

胃癌の多くは、胃の内側を覆う粘膜に発生し、胃壁の外側へ受かって大きくなっていきます。 胃癌の中で、粘膜と粘膜下層までにとどまっているものを「早期癌」、筋層より深く浸潤しているものを「進行癌」と呼びます。 癌が進行すると、リンパ管や血管を介して、リンパ節や他の臓器に転移することもあります。 一般に、胃癌の治療を受けて5年たった時点で生存していれば、治癒したとみなされます。 早期癌の段階で適切な治療を受ければ、100%近くの患者さんが治癒することがわかっています。


●胃癌の危険因子

ピロリ菌に感染していると年月と共にリスクが高まる

胃癌の最大の原因となるのが、ピロリ菌です、ピロリ菌は、胃の粘膜に棲みつくことで「ピロリ菌感染胃炎」 を起こし、胃癌を発症しやすい状態を作り出します。ピロリ菌の感染期間が長くなるほど、胃癌の発症率が増加します。 ピロリ菌に感染したうえに、さらに「喫煙」「塩分の摂り過ぎ」「加齢」などの要因が加わると、胃癌のリスクが高まることが わかっています。ピロリ菌がいると、胃の粘膜を守る粘液の量が減って、タバコの煙に含まれる有害物質や、塩分など、 さまざまな刺激を受けやすくなるからです。また加齢により粘膜の修復力が弱くなると、胃癌のリスクが高まると考えられています。 ただし、「ピロリ菌がいなければ、喫煙や塩分の摂りすぎを気にしなくてよい」と思うのは間違いです。 胃癌のリスクは上がらなくても、肺癌を始め、他の癌のリスク上げるため、やはり注意が必要です。 また、ピロリ菌に感染していなくても、胃癌を発症することがあります。日本ヘリコバクター学会の調査では、ピロリ菌とは無関係の 胃癌が約2%存在すると報告されています。


●早期発見のために

血液検査で自分のリスクを知ることができる

胃癌を早期に発見するための検査では、「内視鏡検査」「エックス線検査」が一般的です。 早期発見には、内視鏡検査の方が精度が高いといえます。

◆ABC法

内視鏡以外に、「ABC法」という血液検査により、「ピロリ菌の抗体」と「ペプシノゲン値」を調べることで、 胃癌のリスクをある程度知ることができます。この2つの検査結果を組み合わせることにより、胃癌になりやすいかどうかの リスクを測定し、胃癌のリスクがほぼないと考えられるA群から、胃癌のリスクがかなり大きいと判定されるD群まで、 リスクの程度によって4つの群に分けます。


A群 b群 C群 D群
ピロリ菌の抗体 - + + -
ペプシノゲン - - + +
胃年齢 20歳 30歳代 50~60歳代 70歳以上
胃癌 ほぼなし リスク小 リスク中 リスク大
内視鏡検査の頻度 5年に1回 2~3年に1回 1年に1回 医師と相談

▼ピロリ菌の抗体
ピロリ菌に感染していると、血液中にピロリ菌の抗体ができます。血液中に抗体がある場合は、胃の中にピロリ菌がいる 可能性が高いといえます。ピロリ菌がいれば、胃癌のリスクは高まりますが、逆にピロリ菌がいなくてもリスクが高まる ケースもあります。ピロリ菌の感染が長期の及び、ピロリ菌も棲めないほど胃が荒れた状態では、抗体はほぼ見つかりません。

▼ペプシノゲン値
ペプシノゲンとは消化酵素「ペプシン」の前駆体です。胃の粘膜が”高齢化”したり、胃炎が進行すると、 分泌量が減る傾向があるため、ペプシノゲンの量で、”胃年齢”や胃炎の程度が推測できます。

◆胃年齢

ABC法では、リスク以外に”胃年齢”もわかります。胃年齢とは、胃の状態を”年齢”とという指標で示したもので、 実年齢とは異なる数値になります。ピロリ菌に感染していない健康な胃は、15~20歳のまま年を取らないので、 実年齢は70歳の人でも、胃年齢は20歳という場合があります。ピロリ菌に感染していると、胃炎により胃の粘膜が萎縮して、 粘液を作る力も弱めるため、胃年齢は次第に”高齢化”していきます。胃年齢が高いほど、胃癌のリスクは高くなります。

◆内視鏡検査の頻度

ABC法による結果がB群以上の人は、胃癌の早期発見のために、ピロリ菌の除菌治療と定期的な内視鏡検査が勧められます。 A群は、胃癌のリスクはほとんどありませんが、胃癌以外の悪性腫瘍をチェックするためにも少なくとも5年に1回は受けてください。 次にリスクの小さいB群では、2~3年に1回、C群では1年に1回が望まれます。最もリスクの高いD群の人は、 担当医と相談して適切な頻度や回数を決定してください。


一般に胃癌検診は1年に1回といわれていますが、胃癌のリスクの程度により、検査の頻度を変えることが求められています。 自分のリスクを知り、それに合った方法で、胃癌の早期発見を目指すことが大切です。