胃癌の治療『腹腔鏡手術』

胃癌の『腹腔鏡手術』は、「腹腔鏡」と呼ばれる内視鏡の一種と特殊な器具を使って行なう手術で、 「内視鏡治療」の次に体への負担が少ない治療法です。お腹を大きく切って行なう「開腹手術」よりも傷が小さく、 早く回復できることから、開腹手術に代わる手術法として期待されています。


■胃癌の腹腔鏡手術

最近開発された治療法。傷が小さいため、回復が早い。

「腹腔鏡手術」は、「腹腔鏡」という内視鏡の一種と特殊な器具を使う、新しい治療法です。 現在、胃癌では、主に「内視鏡治療」を行なえない早期癌を対象に行なわれています。 腹腔鏡手術には、お腹を大きく切って行なう「開腹手術」に比べ、腹腔鏡手術には次のような長所があります。

▼傷が小さい
手術による傷が小さいため、痛みも比較的少なくなります。

▼体力の回復が早い
手術後、早い時期から歩くことができ、体力の回復も早くなります。 早い人では、手術の翌日から歩くことが可能です。

▼腸を傷つけない
開腹手術では腸にも手で触れるため、手術後に腸閉塞などが起こりやすくなります。 一方、腹腔鏡手術は小腸や大腸に触れることがないので、腸を傷つけず、腸閉塞が起こりにくくなります。

●腹腔鏡手術の方法

腹部の孔から器具を入れ、お腹の中で処置をする。


◆腹腔鏡手術の流れ

まず、お腹に1cm程度の孔を5~6ヶ所開けます。その孔から腹腔鏡や切除に使うメス、縫合器などの器具を挿入し、 胃とつながっている周囲の組織を胃から外します。5cmほどお腹を切り、そこから胃を引き出して、 癌のある部位やリンパ節などを切り取って腹部に戻し、胃と小腸を縫い合わせます。 手術は、モニターに映し出されたお腹の中の様子を見ながら行なわれます。 胃を切除したり縫合したりするといった手術の内容は、基本的には開腹手術と同じです。

◆腹腔鏡手術の問題点

手術中に突然出血した場合、開腹手術ではすぐ止血することが可能ですが、腹腔鏡手術では腹部の孔から 挿入した器具を操っているので、すぐに止血できないことがあります。 さらに、切除したあとの胃の縫合が開腹手術よりも難しいため、縫合した部分の胃の内部が狭くなる 合併症も起こりやすくなります。 また、医師にとって、腹腔鏡手術は大変難しい手術です。現在の大きな問題は、熟練した技術を持つ医師がまだ少ないことです。 また、手術にかかる時間も、開腹手術では3時間程度ですが、腹腔鏡手術はそれよりも長く、 5~7時間ほどかかります。しかし、これらの問題は、医療技術の進歩や手術器具の改良に伴い、徐々に解決する傾向にあります。

腹腔鏡手術にはこれらの問題点がありますが、最近では手術法が確立してきており、訓練をつんだ医師も増えつつあります。 医療機関を選ぶ際には、腹腔鏡手術を実施した件数も、1つの目安になります。 また、日本内視鏡外科学会では、腹腔鏡手術を安全かつ適切に行なえる技術を持ち、それを他の医師に 十分指導できる医師を認定する制度を設けています。 この制度で認定された医師のいる施設を選ぶのも1つの方法です。


◆切除する胃の大きさは開腹手術と同じ

" 腹腔鏡手術は、開腹手術に比べて胃を切除する範囲も小さい”と思う人がいるかもしれませんが、 どれくらい胃を切除するかは、癌の進行度などで決まるため、手術法による切除範囲に違いはありません。 肉眼では癌が認められなくても、癌が見えない部位に広がっていたり、リンパ節に転移している可能性もあります。 癌がある部位だけを切除すると、癌を取り残す危険性があるため、癌の周りの組織も含めて切除します。

癌が最も多く発生するのは、胃の折れ曲がった部分(胃角)から胃の出口(幽門)にかけてです。 この場合、胃の幽門側の2/3と、胃の周りのリンパ節を切除するのが一般的な方法になります。 一方、癌が胃の入り口(噴門)付近にある場合や、癌が胃全体に広がっている場合は、 胃を全部摘出する(全摘)手術が必要になります。全摘手術の多くは開腹して行なわれますが、一部では腹腔鏡手術も行なわれています。

腹腔鏡手術は、現在は早期癌に対して行なわれるのが一般的ですが、進行癌に対して行なうことも 技術的には可能です。しかし、進行癌は切除範囲が広いため、手術時間も通常より長くなります。 また、進行癌は早期癌と異なり、ある程度再発の危険性があり、腹腔鏡手術でも開腹手術と同等の 治療効果が得られるかが、まだはっきりわかっていません。 現在は試験的に行なわれているのみですが、今後広まっていく可能性もあります。