膵臓癌の治療

膵臓癌は治療が難しい癌とされています。 膵臓癌の治療の基本は、「手術」で癌を切除することですが、転移の範囲が広いなどの理由で手術ができない場合や、 手術後の再発防止のためには、「抗癌剤」による治療が行われます。 また、最近では、生存期間の延長を図るために、手術と抗癌剤を併用するなどの治療も行われていますし、「放射線治療」も年々進歩しています。


■治療法の選択

進行度によって手術、抗癌剤、放射線を選択

膵臓癌の主な治療法には、癌を切除する「手術」、抗癌剤を用いる「化学療法」などがあります。 治療法を選ぶうえで重要なのが、癌のステージ(進行度)です。 膵臓癌のステージはⅠ期からⅣ期の4つに分けられ、癌の範囲、リンパ節や他の臓器への転移の有無などから判定されます。 膵臓癌の治療では、長期生存を目指すために手術が不可欠と考えられています。 癌のステージに応じて、「手術ができる」「手術ができない」、その境界にある「ボーダーライン」のいずれかと判定され、 手術や抗癌剤治療、放射線治療が行われます。 ボーダーラインとは、手術によって癌を切除できる可能性はあるものの、完全には癌を取り除けず再発する可能性も多いケースをいいます。 ボーダーラインの場合、手術できるかどうかの判断は非常に難しいため、患者さんごとに、手術によってどの程度の生存が見込めるかと共に、 手術に伴う体への負担や危険性も十分に考慮して治療法を決定します。 すべの癌を切除できると判断された場合は、膵臓だけでなく周囲の臓器を含めて癌を切除する手術が行われます。 切除しても、目に見えない小さな癌が残ってしまうと考えられるボーダーラインの場合は、化学療法が行われるのが一般的です。 その後、切除できるかどうかが検討されます。癌が切除できない場合は、化学療法が行われます。
進行度がⅠ期では「手術ができる」、Ⅱ期では「手術ができる」または「ボーダーライン」が多くなります。 Ⅲ期は「ボーダーライン」または「手術できない」が多く、膵臓の周囲にある主要な動脈に癌がどの程度接しているかなどを考慮したうえで判断します。 Ⅳ期は「手術ができない」がほとんどとなります。

膵臓癌のステージと治療法の選択
膵臓癌の周囲にあるリンパ節と主要な動脈


■手術前後の抗癌剤治療

再発を予防するために手術と抗癌剤治療を組み合わせる

膵臓癌の手術では、癌を完全に切除できたように見えても、目に見えない小さな病巣が残っていて、再発することが多くあります。 手術のみの場合は、1年後に約70%、2年後に約85%が再発するという報告もあります。 しかし、最近は、手術と抗癌剤治療を組み合わせるなどの治療法によって、生存率の向上が期待できるようになってきました。

▼手術後の抗癌剤治療
「手術ができる」や「ボーダーライン」の判定で手術を行った場合、再発や転移を防ぐために手術後に抗癌剤治療を行います。 手術と抗癌剤治療の併用によって、生存期間を延ばせることがわかっています。 手術後の抗癌剤治療で一般的に使われる薬は、効果が高いとされている飲み薬の「S-1」です。 副作用などでS-1を使用しづらい場合は、注射薬の「ゲムシタビン」を用います。 手術後の抗癌剤治療の期間は、半年間程度です。
S-1の副作用は、食欲不振、吐き気、下痢、口内炎、皮膚の色素沈着などです。 ゲムシタビンの副作用として、吐き気、嘔吐、発熱、発疹、疲労感などがあります。 S-1とゲムシタビンに共通する服用には、白血球の減少、貧血、血小板の減少などがあります。

▼手術前の抗癌剤治療
「ボーダーライン」で手術を行う場合、再発する可能性が高いことを考慮して、膵臓癌の手術の専門医がいる医療機関などでは、 手術前にも抗癌剤治療を行うことが多くなっています。なお一部に、手術前に抗癌剤治療に加えて放射線治療を行うこともあります。 「手術ができる」と判定された場合の手術前の抗癌剤治療については、現在(2017.6)、全国70の施設で臨床試験が行われています。 現段階では、手術後の抗癌剤治療ほど確実な効果は実証されていませんが、生存率が改善する傾向が認められます。 手術後の抗癌剤治療の場合、体力が低下して抗癌剤治療を行うことができない可能性がありますが、 手術前の抗癌剤治療は、確実に抗癌剤治療が行えるというメリットがあります。 また、癌を縮小することができれば、手術そのものが行いやすくなります。 ただし、手術前に抗癌剤治療を行っている間に癌が進行した場合、手術ができなくなる可能性も考えられます。 手術後の抗癌剤治療では、ゲムシタビンやS-1を使用します。また、最新の抗癌剤を使うこともあります。 臨床試験での手術前の抗癌剤治療は、1ヵ月半程度の期間で行っています。
【追記】
術前化学療法は、2019年には膵臓癌への有用性が認められました。

■外科治療~手術~

癌が発生した部位によって手術療法が異なる

根治を目指した治療法で、対象になるのは主に癌が膵臓にとどまっている場合です。 膵臓は、十二指腸潰瘍に近いほうから膵頭部、膵体部、膵尾部に分けられますが、癌ができた場所によって手術法が異なります。

▼膵頭部にできた場合
膵頭部のほか、十二指腸、胆管の一部、胆嚢、周囲のリンパ節を一塊に切除します。 そのあと、残った膵臓。胃、残った胆管を小腸につなぎ合わせる再建術を行います。 場合によっては、胃の一部をとることもあります。

▼膵体部や膵尾部にできた場合
膵体部や膵尾部の他、脾臓、周囲のリンパ節などを切除します。十二指腸、胆嚢、胆管はそのまま残します。

▼膵臓全体に広がっている場合
膵臓をすべて切除することもあります。周囲のリンパ節や臓器も切除し、再建術を行います。 膵臓をすべて切除すると、インスリンの分泌がなくなるため、手術後はインスリン製剤の注射が必要です。

膵臓癌の手術は、特に膵頭部の手術が難しく、手術後30日間の死亡率が1.2%と、他の癌の手術より高いことが報告されています。 また、手術後は、膵臓から膵液が漏れる、漏れた膵液が血管を溶かし出血する、食べたものが一時的に胃から十二指腸に送られにくくなる、 糖尿病を発症するなどの合併症が起こることが少なくありません。 手術後の死亡や合併症をできるだけ避けるには、膵臓癌の専門医がいて、手術件数が多いハイボリュームセンターと呼ばれる医療機関で 治療を受けることをお勧めします。

以前は、癌が転移している可能性を考え、膵臓を含め、癌周辺の臓器、リンパ節などを予防的に大きく切除する「拡大手術」が一般的でした。 この場合、激しい下痢や、少ししか食べられなくなるなどの、後遺症が問題になります。 そのため近年は、膵臓と周辺の臓器やリンパ節などを最小限の範囲で切除する「標準手術」へと、考え方が変わって来ています。 拡大手術と標準手術とでは、治療効果にあまり差がないことかが、各国の研究データでわかってきたからです。 小さく切除するため、従来よりも後遺症が少なく、入院期間も2~3週間で済むメリットがあります。

なお、膵臓癌は再発しやすいため、手術後は、再発防止のために抗癌剤による治療を行うことが多くなっています。 また、膵臓の組織を切除するため、手術後は「糖尿病」が起こることがあります。


■化学療法~抗癌剤~

抗癌剤治療や放射線治療で生存期間の延長を図る

癌が転移していたり、大きな血管にも広がっていて外科治療が難しい場合(「手術ができない」と判定されたり、癌が再発した場合)には、 生存期間を延ばすために抗癌剤治療や、抗癌剤と放射線を組み合わせた化学療法が行われます。 外科治療後の再発予防や、痛みを抑える目的で行われることもあります。 膵臓癌は、進行すると痛みが激しくなり、そのために日常生活に支障が出てくることがあります。 「抗癌剤」には、癌を小さくして進行を抑えるという本来の作用に加え、痛みを抑える作用があります。 つまり、QOL(生活の質)を改善する効果が期待できるのです。

▼抗癌剤治療
使用する薬には、ゲムシタビン、S-1、ゲムシタビンとエルロチニブと併用、FOLFIRINOX、 ゲムシタビンとナブパクリタキセルの併用があります。新しい薬のほうが治療効果が高いとされています。 しかし、その一方で副作用が強い傾向もあるので、効果と副作用を考慮して選択されます。 ゲムシタビンとエルロチニブの併用は副作用が高いことから、現在はあまり使われていません。

▼放射線治療
癌が膵臓周囲の主要な血管を巻き込んでいるなどで、手術はできないものの、肝臓などの離れた臓器に転移していない場合などに行います。 放射線を当てるのは1日1回5~10分程度で、5~6週間連続して行います。 副作用として、吐き気や嘔吐、食欲不振、放射性皮膚炎(ただれ)、下痢などが現れることがあります。

手術ができない場合、癌が進行すると十二指腸が詰まって、食べ物が通過しにくくなることが多くあります。 そうした場合には、十二指腸を拡張させるため金属製のステントを内視鏡を使って入れ、食べ物が通過できるようにします。 また、癌の痛みなどの症状を和らげる緩和治療も重要で、オピオイドなどの薬を早めに使って対処します。


■放射線治療

「放射線治療」は、膵臓癌自体とその周辺への進行を抑える目的で、癌に放射線を照射して破壊することを目指して行う治療です。 外から放射線を照射する「外照射」のほかに、手術中に、お腹のなかだけに放射線を当てる「術中照射」を行う場合もあります。 通常、放射線単独では治療効果が不十分なため、抗癌剤と併用した治療が行われています。 また、放射線治療も年々進歩しており、膵臓癌ではまだ開発段階ですが、今後の新しい治療法として、『重粒子線療法』が期待されています。