若者の鬱病(うつ病)

鬱病(うつ病)は中高年に多い病気ですが、最近では若い年代の人にも増加しています。 若者の場合は、起こりやすいタイプ、症状、薬物療法の効果、周りの人の対応方法など、 典型的な鬱病(うつ病)とは異なる点が多くあります。


■若者の鬱(うつ)

中高年に多い典型的な鬱病(うつ病)とは異なる性質を持つ

最近、若者(うつ)が増えています。 ”鬱(うつ)”とは、鬱病(うつ病)を含むうつ状態全般を指します。 鬱病(うつ病)の患者数は中高年が最も多いのですが、厚生労働省の調査によると、 10歳代後半から30歳代前半の人の鬱病(うつ病)が、3年間で約1.5倍に増えているのです。 また、日本の若者は諸外国の若者に比べ、鬱病(うつ病)になりやすい傾向があるともされています。 若者の鬱(うつ)は、鬱病(うつ病)とまではいえない「鬱(うつ)状態」であることが多く、 中高年に見られる典型的な鬱病(うつ病)とは、色々な点で異なります。
例えば、中高年で鬱病(うつ病)を発症しやすいのは、「まじめ」「几帳面」「責任感が強い」といった傾向があり、 非常に一生懸命仕事をする人です。自分の役割や社会の規範などを重視し、 周囲の期待にこたえようとすることで無理が生じてしまいます。
これに対し、若い人で鬱(うつ)になりやすいのは、自己への愛着が強い人、 自分は何でもできるという漠然とした自信を持っている人、 社会的な規範への抵抗感を持つ人、周りの環境にうまく適応できない人などです。 伸び伸び育ってきた若者が、社会の規範やビジネスの世界における成果主義、厳しい上下関係などに適応できず、 うつ状態になることがあります。


■若者の鬱(うつ)の症状

倦怠感が長引きやすく、周囲や環境を非難することが多い

中高年に多い典型的な鬱病(うつ病)では、「憂うつ感」「意欲低下」「倦怠感」といった症状が現れますが、 これは若者の鬱でも共通しています。これらに加え「睡眠障害、食欲低下、不安感、イライラ、焦燥感」 といった症状もよく現れます。若者の鬱(うつ)に特徴的なのは、倦怠感が長引くことです。 その結果、なかなか職場に復帰できず、無理をして戻ろうとすると 「めまい、吐き気、頭痛」といった不快な症状が現れたりします。 また、自分が鬱病(うつ病)になって会社にいけないのは、”上司が悪いからだ””仕事が合っていないからだ” というように、自分ではなく、他人や周囲の環境の責任にして非難する傾向があります。 中高年の典型的な鬱病(うつ病)では、症状が現れても鬱病(うつ病)だとは認めたがらず、 ”自分の頑張りが足りないからだ”と考えがちです。 ところが若者の鬱(うつ)では、みずから”鬱病(うつ病)である”と考えたがることが多いのが特徴です。 治療中も、鬱(うつ)の症状が残っていることにこだわったりします。

●診断

鬱病(うつ病)の症状が、ほぼ毎日、一日中現れていて、それが2週間以上続く場合には、 鬱病(うつ病)だと考える必要があります。 若者の鬱(うつ)は、鬱病(うつ病)と同じような症状が現れる「双極性障害」や初期の「統合失調症」と見分けにくく、 また、「パーソナリティ障害」「発達障害」などが原因でうつ状態になっていることもあります。 鬱(うつ)が疑われる症状が現れたら、きちんと精神科を受診し、早い段階から適切な対策をしていくことが大切です。


■若者の鬱(うつ)の治療

抗うつ薬が効きにくい傾向があり、環境の改善が特に重要

鬱病(うつ病)の治療は通常、「休養」、抗うつ薬などによる「薬物療法」、 考え方を変える認知療法などを含む「精神療法」が3本の柱となります。 中高年の典型的な鬱病(うつ病)の場合、これらの治療によって、多くは3ヶ月~半年ほどでよくなっていきます。 ところが、若者の鬱(うつ)では、この3本柱の治療だけでは解決しないことが多いのが実情です。 症状が重いときには3本柱の一般的な治療を行いますが、簡単に効果が現れないこともあります。 特に薬物療法で使う抗うつ薬は、中高年の鬱病(うつ病)にはよく効きますが、 若者の鬱(うつ)には効きにくく、症状が慢性化しがちです。 さらに、若い人が抗うつ薬を服用した場合、服用開始から約2週間の間に「気持ちが高ぶる、イライラする、 死にたい気持ちが高まる」といった副作用が現れることがあるので注意が必要です。 特に24歳以下の人では、抗うつ薬の服用初期に自殺したいという願望が強まる危険性が若干ながらあるため、 使用については十分に検討される必要があります。薬物療法は、プラス面とマイナス面を考慮し、 慎重に行われなければなりません。症状が軽くなってきたら、医師と一緒に”どんな環境に置かれていて、 どんなストレスがあるか”など、鬱(うつ)のきっかけとなっているストレスの原因を整理します。 そのうえで、環境を変えたり、足りない能力を習得する手助けをしたりして、患者さんが環境に適応していくのを支援することが、 若者の鬱(うつ)の重要な治療となります。


■周りの人の対応

典型的な鬱病(うつ病)と異なることを理解し、環境を整える協力が必要

若い人の鬱(うつ)は中高年に多い典型的な鬱病(うつ病)と異なるため、周りの人は特に次の点に注意します。 若い人の鬱(うつ)は、”怠けている”と誤解されがちですが、本人は非常に苦しんでいます。 周りの人はその苦しさを理解し、休養と服薬を勧めるようにします。 典型的な鬱病(うつ病)は、抗鬱薬を服用して休養していればよくなることが多いのですが、 若者の鬱(うつ)では、薬が効きにくく、治療に長い時間がかかることも少なくないことを理解してください。 周りの人は、医師との連携を深めて社会復帰のためのリハビリテーションを支え、さらには勤務先や学校とも協力しながら、 患者さんの環境を整えることを考えるのも非常に大切です。 また、本人を責めないようにします。患者さんを追い詰めて逃げ道を塞いでしまうような対応をすると、 自殺行為に走ったりすることもあるため、避けなければなりません。 なるべく本人のよいところをほめるように心がけ、前向きに社会復帰しようという気持ちを持たせることが大切です。