首の痛みの改善

首の構造や働きが関係。痺れを伴う場合は要注意

多くの人が経験する首の痛み。 実は、骨や神経の病気が原因となっていることもあります。

一生のうちに、一度でも首の痛みを経験する人は約7割に上るといわれていますが、多くは筋肉の緊張や疲労が原因で起こる、心配のない痛みです。 一方、首はその構造や働きから加齢に伴う変化が起こりやすく、骨の変形などで首の神経が圧迫されると、 首の痛みに伴って手や足にしびれなどの症状が現れることがあります。こうした場合、病気が原因となっていることもあるので注意が必要です。

◆首の構造と働き

「脊柱(背骨)」は、「椎骨」と呼ばれる骨が積み重なった構造になっており、一つ一つの椎骨の間には、 衝撃を吸収したり、首を動かしやすくする役目を持つ「椎間板」という軟骨があります。 この脊柱の1番目から7番目までの椎骨を「頸椎」といい、首の部分に当たります。 頸椎には、中枢神経の一つである「脊髄」が通っていて、脊髄からは枝分かれした末梢神経が手のほうへと伸びています。 その末梢神経の根元を「神経根」といいます。 このような複雑な構造の首は、7~8kgもある重い頭を支えながら、前後左右へと動きます。 それだけに痛みが起こりやすい部位なのです。 首の痛みには、大きく分けて首の骨に原因があって起こる場合と、神経根や脊髄などの神経が圧迫されて起こる場合があります。


■首の痛みの原因

●骨に原因がある場合

安静時に強い痛みがある。腫瘍や感染症が疑われる

首の骨に病気などがあると、安静時にも首が強く痛み、日を追うごとに痛みが増していきます。 こうした首の痛みの原因には、次の3つがあります。

▼脊椎腫瘍>
脊椎に「腫瘍」ができる病気で、多くはほかの臓器に生じた「癌」が転移して起こります。 「首を曲げられない」「じっと座っていることができない」ほどの強い首の痛みが特徴で、 腫瘍の範囲が広がると骨が溶けて頭の重みに耐えられず、骨折することもあります。 命に関わる場合もあるので、早期に発見して治療することが大切です。

▼感染性脊椎炎
感染性脊椎炎とは、体のどこかで感染症を起こした細菌などが血流に乗って脊椎へ運ばれて感染し、炎症を起こす病気で、 首の痛みに発熱を伴います。高齢者や「糖尿病」がある人など抵抗力が低下した人に起こりやすい傾向があります。

▼骨折など
事故やスポーツなどで首を骨折すると強い痛みを伴います。通常は「エックス線検査」で診断できますが、 上から1番目や2番目の頸椎を小さく骨折した場合、この検査では見つかりにくいこともあります。 そのため、首を強く打った後に痛みが続く場合は、「CT(コンピュータ断層撮影)」などが必要になります。


●神経根が圧迫される場合

首の痛みに手のしびれを伴う。頸椎椎間板ヘルニアなどの可能性

神経根が頸椎の病気によって圧迫されると、首の痛みに加えて手の痛みやしびれが現れるようになります。 これを「神経根症」といい、圧迫が強い場合は、「手に力が入らなくなる」といった麻痺症状が現れることがあります。 しびれの多くは首の痛みが現れた後、しばらくしてから生じます。神経根を圧迫する病気には、主に次の2つがあります。

▼頸椎椎間板ヘルニア
椎間板は、外側にあるゴム状の「線維輪」と、その中にあるゼリー状の「髄核」の2層構造になっています。 加齢などによって椎間板がつぶれたり、線維輪に亀裂が入ると、中の髄核が外側に飛び出して神経根を圧迫します。 これが「頸椎椎間板ヘルニア」で、30歳代以降の人に起こりやすいのが特徴です。 髄核が外に飛び出すと、神経根を圧迫していなくても、首に強い痛みが起こることがあります。 これを頸椎椎間板ヘルニアの前段階である「椎間板症」といいます。 また、髄核が背中側に飛び出して脊髄を圧迫した場合は、脊髄症が起こることがあります。

▼頸椎症
「頸椎症」とは、加齢により椎間板が変性したり、椎骨と椎骨をつなぐ椎間関節が変形する病気です。 椎間関節が変形すると椎骨同士のつながりが不安定になるため、それを安定させようとして椎骨の縁に 「骨棘」と呼ばれる棘のようなものができます。この骨棘が神経根を圧迫すると症状が現れます。 頸椎症は、40~50歳代以降の人に多く見られます。骨棘が脊髄を圧迫した場合は、「脊髄症」が起こります。


●脊髄が圧迫される場合

首の痛みに手足のしびれを伴う、脊髄症や脊髄腫瘍などが疑われる

脊髄とは、手や足のほうへ枝分かれする神経の幹です。そのため、脊髄が圧迫されると首の痛みに加えて、 手だけでなく足にもしびれや麻痺などが現れます。これを「脊髄症」といい、頸椎椎間板ヘルニアや頸椎症のほか、 次のような病気が原因で起こることがあります。

▼脊髄腫瘍
脊髄にできる腫瘍ですが、脊椎腫瘍とは異なり、多くは良性の腫瘍です。しかし、良性であっても腫瘍が大きくなると 脊髄を圧迫するため、首の痛みに加えて手や足のしびれが現れます。

▼後縦靭帯骨化症
後縦靭帯とは、椎骨と椎骨をつなぐ薄く軟らかい靭帯です。この靭帯が、何らかの原因で骨のように厚く、 硬くなるのが後縦靭帯骨化症で、骨化した靭帯が骨髄を圧迫すると症状が現れます。

●診断

手や腕の動きを調べることで、障害された神経根が特定できる

頸椎から出る神経根は左右に8対あり、それぞれの神経根が支配している範囲は異なります。 そのため、患者さんの症状から障害されている神経根がわかることもあるので、まずは、症状と手や足の動きを詳しく調べる 検査を行います。例えば、障害されることが多い7番目の神経根は、肘を伸ばす筋肉を支配する神経です。 障害があると力が弱くなるため、曲げた肘を伸ばす力を左右で比べます。また、手の中指にしびれがある場合も、 7番目の神経根が障害されている可能性があります。 脊髄症が疑われる場合は、「手を振る・開く」をできるだけ速く繰り返す検査をします。 健康な人では、10秒間に20回以上できますが、20回以下であれば脊髄が障害されている可能性があります。 こうした検査と、エックス線検査やMRI検査などの画像検査で痛みの原因を診断します。