首の痛みを手術で治療する

手術」には症状、原因となる病気、圧迫の範囲などによっていくつかの方法があります。


■手術

脊髄を圧迫する病気があれば、早めに手術を検討

正座をして足がしびれるのは、膝の裏側の末梢神経が圧迫されるためで、しびれはしばらくすると治まります。 このように末梢神経は、圧迫されても時間が経てば回復しやすいという性質を持っています。 「神経根」も末梢神経の一部なので、圧迫されても比較的先に戻りやすく、「神経根症」のほとんどは 「保存療法」で改善できます。
一方、「脊髄」は中枢神経の1つです。中枢神経には圧迫されると元に戻りにくい性質があるため、 脊髄が圧迫された状態を放置すると、脊髄が損傷され、手術をしても回復が見込めなくなってしまうことがあります。 次のような症状がある場合は、手術を検討して、できるだけ早く圧迫を取り除く必要葉あります。

◆脊髄の圧迫に伴う主な症状

脊髄が圧迫されると、まず首の痛みが現れた後に、手の症状が現れ、指先がうまく使えなくなります。 次に、足の動きが悪くなり、さらに進行すると、「頻尿」「残尿感」「便秘」といった排泄障害が起こることもあります。 これらの症状は脊髄が強く圧迫されている場合に現れます。こうした症状があるときに、転倒したりして首に衝撃を受けると、 脊髄を損傷して手足が麻痺してしまい、回復が難しくなることもあります。そのため、早めに整形外科を受診することが大切です。


●圧迫が広範囲の場合

脊柱管を広げて圧迫を取り除く椎弓形成術が行われる

手術の方法は、原因となっている病気や、脊髄が圧迫されている範囲によって異なります。 圧迫の範囲が広い場合には、「椎弓形成術」、圧迫が部分的な場合には「前方除圧固定術」「骨化摘出術」が行われます。

◆椎弓形成術

「頸椎症」「後縦靭帯骨化症」で、脊髄が広く圧迫されている場合は、椎弓形成術が行われます。 脊髄が通っている「脊柱管」を広げて圧迫を取り除く手術です。手術では、首の後ろを切開し、 椎弓に溝を掘って持ち上げて、空間を作ります。その空間に切り取った棘突起や、セラミック製の「人工骨」などを移植します。 脊柱管を広げる方法には、「片開き方式」「縦割式」の2つがあります どちらの方法も出血量や手術時間にほとんど差はありません。手術時間は1~2時間程度で、入院は10日間~2週間程度です。 どちらの方法が選択されるかは、医療機関によって異なります。 椎弓形成術は、「椎体」には触れないので、頚椎が頭を支える強度が変わることはありません。 また、移植した骨は糸を通して椎弓に固定するので、「骨がくっつきにくい」「骨がずれる」といった心配もないとされています。 一方、手術後に合併症が起こることもあります。最近では、できるだけ合併症が起こらない手術の工夫も行わるようになっています。


●圧迫が部分的な結合

前方除圧固定術や骨化摘出術が行われる

脊髄の圧迫が1~2ヶ所と部分的な場合は、前方除圧固定術や骨化摘出術を行います。

◆前方除圧固定術

「軽椎間板ヘルニア」や頸椎症で脊髄が部分的に圧迫されている場合は、首の前方を切開して、 圧迫の原因になっている髄核や骨棘とその周辺の椎体や椎間板などを一緒に取り除きます。 これらを取り除いてできた空間に、患者さんの骨盤などから採った骨や人工骨を入れて固定します。 手術にかかる時間は、1ヶ所の場合約2時間で、2~3週間の入院が必要です。 手術後は、骨をきちんと固定するために「頸椎カラー」を装着します。 頸椎カラーは、保存療法で使うものとは異なり、首と顎をしっかり固定するタイプで1週間ほど装着します。 椎間板を取り除くことで、多少首の動きが悪くなることもありますが、日常生活にはほとんど問題はありません。 ただし、移植した骨がくっつくまでに時間がかかることがあります。 また、まれに首がずれてしまい、再手術が必要になることもあります。 首の前方には、食道や太い血管があるので、前方除圧固定術は技術的に難しく、医療機関によっては、 圧迫の範囲が狭い場所でも椎弓形成術を行うことがあります。

◆骨化摘出術

後縦靭帯骨化症による脊髄の圧迫があり、圧迫の範囲が小さい場合に行われるのが骨化摘出術です。 方法は基本的に前方除圧固定術と同じで、骨化した靭帯とその周辺の椎体、椎間板を一緒に取り除きます。

◆首の痛みやしびれは我慢しない

首の手術というと、”怖い”というイメージを持つ人も多いものです。しかし最近では診断方法や治療法が進歩して、 より安全な手術が可能になってきています。首の痛みや手足のしびれが長く続く場合は、我慢せずに早めに医療機関を受診してください。