ロコモティブシンドローム(運動器症候群)
健康長寿に欠かせないのがロコモ対策
日本は、世界に類のないスピードで超高齢化社会を迎え、全国でロコモ対策の必要性が叫ばれています。
なぜなら、元気で長生きするためには運動器の健康を保つことが重要だからです。
『ロコモティブシンドローム』とは、運動器の障害により寝たきりや介護が必要な状態になったり、その危険性が高い状態のことです。
運動器はすべて連動しているので、1つでも悪くなると全体に影響が及んで体がうまく動かなくなります。
そのため、寝たきりや要介護に繋がります。寝たきりや要介護を防ぐためには、ロコモ対策が必要です。
骨や関節、筋肉などの健康に注意するとともに、ロコモを全身の病気として捉えて予防に取り組むことが大切です。
自立して生活できる期間を「健康寿命」といいますが、日本人は平均寿命に比べて健康寿命が約10年短いといわれています。
つまり、一生のうち約10年は要介護状態にあるわけです。
要支援・要介護になった原因を調べると、4位が骨折・転倒で、5位は関節疾患でした。
この2つはロコモと関係が深くて、2つの原因を合わせると1位の脳血管疾患を上回ります。
だからこそ、寝たきりや要介護を減らして健康寿命を延ばしていくためには、ロコモ対策が必要なのです。
■ロコモとは?
運動器の障害によって、立つ、歩く機能が低下した状態
『ロコモ』とは、体を支えて動かす運動器の障害によって、立つ、歩くといった機能が低下した状態をいいます。 運動器とは、骨、軟骨、筋肉、関節、椎間板、神経などの総称で、これらが連携して働くことで体をスムーズに動かすことができます。 骨は体を支えて姿勢を保ち、筋肉は収縮して関節を動かします。 関節は体重の移動を助け、神経は体を動かすために必要な情報を筋肉に伝える司令塔です。 それぞれの運動器が連携して働くことによって、体をスムーズに動かすことができるのです。 運動器の機能が低下すると、体がふらつきやすくなり、転倒や骨折を起こしやすくなります。 骨折して歩行が困難になったことをきっかけに、やがて介護が必要になったり、寝たきりにつながることがあります。
■ロコモの原因
運動不足や骨粗鬆症、骨や関節の病気、メタボなどがロコモにつながる
ロコモのある人は、予備軍を含めると約4700万人と推計され、その大きな要因の1つが骨や関節の病気です。 その内訳は、 骨粗鬆症1070万人、 変形性膝関節症2530万人、 椎間板ヘルニアや 脊柱管狭窄症などの変形性腰椎症3790万人となっています。 骨や関節の病気があり、体を動かす習慣がないと、体重が増えたり、筋力やバランス能力が低下するので、関節にかかる負担が大きくなり、 痛みが出ることもあります。すると、さらに動かなくなるため、体重はますます増加し、筋力やバランス能力は一層低下して、 痛みが強大になるという負の連鎖が起こってきます。その結果、やがて歩けなくなり、介護が必要な状態になってしまいます。 それを防ぐためには、負の連鎖を断ち切ることが必要です。 ロコモはメタボリックシンドローム(メタボ)とも深い関係があります。体重が重いと、膝や腰に大きな負担がかかるので、痛みが起こりやすくなります。 反対に、体重を減らせば痛みを軽くすることができます。
●ロコモにつながる生活習慣
多くの場合、高齢になったら突然ロコモになるのではなく、日頃の運動不足や偏った食事などの生活習慣がロコモに繋がっています。
- ▼運動習慣のない生活
- 運動をする習慣がないと、運動器が徐々に衰えていきます。
- ▼痩せすぎと肥満
- 痩せすぎると、骨や筋肉が弱くなります。 一方、肥満は、膝にかかる負担が増え、関節の軟骨にダメージを与えます。
- ▼活動量の低下
- エレベーターやエスカレーター、自動車ばかりを利用して、足を動かさないでいると、ロコモに繋がります。
- ▼スポーツのし過ぎ・事故によるけが
- 運動器に大きなダメージを受けてしまうことがあります。
これらの生活習慣を放置していると、腰や膝に痛みが現れることがあります。 さらにそのままにしていると、運動器の障害が進行し、ロコモの原因になる病気にもつながります。
●ロコモの原因となる病気
代表的な病気として、骨粗鬆症、変形性膝関節症、変形性脊椎症があります。
- ▼骨粗鬆症
- 骨密度が低下して骨がもろくなる病気です。 ちょっと転んだだけで骨折したり、自分でも気付かないうちに背骨が押しつぶされていること(脊椎椎体骨折)もあります。 背中が丸くなってきたり、身長が縮んできたら、骨粗鬆症の可能性があります。 背骨の場合は、強い痛みがなくても骨折していることがあります。 骨折で医療機関を受診して、初めて骨粗鬆症と診断されるケースも多いようです。 女性は閉経を迎えたり50歳を過ぎたら1年または数年に1度、男性は65~70歳までに1度、骨密度を調べる検査を受けておくことをお勧めします。
- ▼変形性膝関節症
- 関節の骨の先端は弾力のある軟骨でおおわれています。その軟骨がすり減って、痛みが出たり、関節の動きが悪くなる病気です。 特に、膝の関節や股関節に起こることが多く、歩行にも支障を来します。
- ▼変形性脊椎症
- 背骨を形作っている椎骨や椎間板に変形が起こった状態です。背骨には、周囲を骨に覆われた脊柱管という細長い筒状の空洞があり、 その中を神経が通っています。その神経が、変形した椎骨や椎間板などで圧迫されると 脊柱管狭窄症が引き起こされて脚に痛みやしびれが出てきます。
■転倒による骨折に注意
住居内では足元を明るくするなどの転倒を防ぐ工夫を
ロコモで、特に注意したいのが転倒・骨折です。高齢者の転倒事故が最も多いのは住居で、次が駅などの交通施設です。
また、住居で最も転倒事故が多いのが居室・寝室です。次いで、玄関・勝手口・廊下・縁側などが続きます。
転倒・骨折は要介護のリスクを高めるため、段差をわかりやすくする、足元を明るくするといった、住居内での転倒を防ぐための工夫が必要です。
さらに、体重を移動する際に転倒するケースが多いことも分かってきました。立ち上がるときや座るとき、体の向きを変えるときなどに、
うまく体重移動ができずに転倒してしまうことが多いのです。体勢を変えるときは、慌てずゆっくり体を動かしましょう。
■ロコモを予防する
バランス能力、筋力の低下を防ぐことが大切
ロコモの予防には、バランス能力や筋力の低下を防いで、改善することが大切です。
転倒は、躓いたりぐらいついたりしたときに、素早く体勢を立て直すバランス能力が低下したり、”とっさの一歩”が出ないことで起こります。
筋力をつければ、とっさの一歩を踏み出すために必要な、素早い動きが可能になります。そのためには、
運動の習慣化や
食生活の改善が必要です。
健康で長生きするをするためには、50歳を過ぎたらロコモになっていないかを意識して、まずロコモ度テストでチェックしてください。
思い当たる生活習慣や運動器の症状がある場合は、生活習慣を改善するなどして、適切なロコモ対策に取り込みましょう。
●ロコモチェック
早期にチェックして、原因を突き止める
負の連鎖を断ち切って健康寿命を延ばすためには、なるべく早い時期にロコモかどうかをチェックし、原因がどこにあるのかを突き止めることが大切です。
◆ロコモチェック
項目によって原因は異なる
チェック項目は7つあります。これらをチェックすることで、下記のようなことがわかります。
- ▼片脚立ちで靴下が履けない
- ▼家の中でつまずいたり、滑ったりする
- ▼階段を上るのに手すりが必要である
- ▼家の中でのやや重い仕事(掃除機掛け、布団の上げ下ろしなど)が困難である
- ▼2kg程度(1㍑の牛乳パック2個程度)の買い物をして持ち帰るのが困難である
- ▼15分間ぐらい続けて歩くことができない
- ▼横断歩道を青信号で渡り切れない
片脚立ちで靴下がはけない、家の中でつまずいたり滑ったりする、階段を上るのに手すりが必要のどれかが該当する人は、
筋力バランス能力が低下している可能性があります。ふだん、座らないと靴下が履けない人は、筋力やバランス能力が低下しているかもしれません。
家のやや重い仕事(掃除機掛けや布団の上げ下ろしなど)が困難な人は、足腰、特に腰回りの体を支える能力が低下している可能性があります。
前かがみの姿勢で家事をしたり、モノを持つと腰により大きな負担がかかります。
2kg程度の買い物をして持ち帰るのが困難な人は、足腰、特に膝の体を支える能力が低下している可能性があります。
歩行時には体重の約3倍の負担が膝にかかるので、運ぶ重さが増えると、膝にはその重さ以上の負担がかかります。
15分くらい続けて歩くことができない人は、持久力の低下や、腰の病気の可能性があります。
特に、背骨の変形などのために神経が圧迫されて痛みが起こる脊柱管狭窄症は、
歩くと腰の神経周辺の血流が悪くなるため、脚の痺れや痛みで歩行困難になる間欠跛行が起こるのが特徴です。
横断歩道を青信号で渡り切れない人は、歩行速度の低下が考えられます。
1秒間に1mの速さを基準にしています。青信号になってから横断歩道を渡り始めて間に合わない人は、歩く速さが遅くなっています。
◆当てはまったらきちんと対処する
1つでも当てはまる項目がある場合はロコモの可能性があります。 特に、腰や膝に痛みがある人は整形外科を受診することが大切です。 痛みを改善することで、運動量が減ってロコモが進むという悪循環を断つことができます。 痛みなどの自覚症状がない場合も、ロコモの可能性を意識し、ウォーキングなどで 身体を動かして足腰を鍛えましょう。
■子供のロコモ予防
運動をしないことや関節の硬さなどが将来ロコモに繋がる
ロコモは高齢者だけの問題ではなく、子供の時から対策する必要があります。 最近、「運動をしない」「体が硬い」「運動器の病気を持つ」子供が増えています。 全身の運動器を使わなかったり、関節が硬いと後に運動器の疾患に繋がりやすくなります。 また、運動器疾患を持っている子供たちを、そのまま放置していると将来ロコモになる可能性が高いと考えられています。 そこで、今注目されているのが子供の運動器検診です。 しかし、検診に当たる整形外科医の不足や学校の検診体制の難しさなどもあり、現在効率的な実施について模索しているところです。