冷え性

作られる熱の量が少なかったり、熱を体の隅々まで運べない

冬になると、「手足が冷えて、なかなか寝付けない」「体が冷えて腰や肩が痛む」など、「冷え」に悩む女性が少なくありません。 しかも、冷えは、さまざまな症状を引き起こしたり、ほかの病気を悪化させたりすることもあります。 冷えが起こるメカニズムを知り、改善に役立てましょう。 冷え性の原因として、「自律神経の乱れ」や無理やダイエットによる「エネルギー不足」などが考えられます。 冷え性の原因と対処法について紹介します。


●女性に多い「冷え性」

「冷え性」は女性に多いといわれています。実際、ある調査では、約7割の女性が「冷え」を感じているという結果でした。 なお、男性に冷え性がないというわけではなく、約1割の男性が冷えを感じているという調査結果もあります。 冷えを感じる女性が多い理由として、女性は男性に比べると、一般に体の熱のもとになる食事の量や、 熱を生み出す筋肉の量が少ないことが挙げられます。 また、女性には貧血や低血圧の人が多いことや、 快適に感じる温度は女性のほうが3℃ほど高いことなども理由として考えられます。

■冷え性の原因

自律神経の乱れやダイエットによるエネルギー不足

冬になると、手足の先が極端に冷たくなり、温めてもなかなか温まらないという人がいます。 このような「冷え性」の人は、これまで一般に女性に多いと言われてきましたが、最近は、中高年の男性でも冷えを感じるという人がいます。 手足の先が冷たくなるのは、指先にまで十分に血流が行き届かないためですが、その原因として、 「自律神経の乱れ」「無理なダイエットなどによるエネルギー不足」「糖尿病などによる末梢神経障害」などが考えられます。

●背後に病気が隠れていることもある

冷え性は、「何らかの病気が原因で冷えがある場合」と、「特に病気はないが冷えがある場合」の2つに大別されます。 一般に冷え性といわれる人のほとんどが、後者に該当します。 しかし、時には何らかの病気が背後にあって、冷え性が起きていることもあるのでそれを見逃さないことが大切です。 特に「指先が白くなるほど冷える」「動機や息切れがある」「手足に痺れがある」「片側の手や足だけが冷えて痛む」などの症状を伴う場合は、 早めに医療機関を受診し、背後に病気がないかどうかのチェックを受けてください。 冷え性には、血圧や血糖値のように、数量で表す基準はありません。 患者さん自身の「冷えでつらい」という自覚症状が基準になりますので、冷えて辛いと感じていれば、その人は冷え性ということになります。 「体質だから」とあきらめたりせず、改善に取り組みましょう。

●熱の産生や運搬がうまくいかない

特に病気がない場合に冷えが起こる原因は、「体の中で作られる熱の量が少ない」ことと、「作られた熱を体の隅々まで運ぶことができない」ことに大別されます。

▼体内に作られる熱の量が少ない
体を温める「熱」の原料は食物です。体内に取り入れられた食物が胃や腸などで消化・吸収され、 肝臓で分解・代謝されていく過程でエネルギーが生み出され、熱に変換されます。 体温維持は体にとって大変重要で、食物から取り入れられたエネルギーの75%以上が熱に換えられて、体温維持に用いられます。 エネルギーを熱に換える部位は、主に筋肉や肝臓です。なかでも筋肉は体内で最も多くの熱を生み出しており、 生命維持に最低限必要なエネルギーである「基礎代謝」の約40%は、筋肉によって熱に換えられています。 「無理なダイエットや食欲不振によって、摂取する食事量が少ない」「胃腸が弱くて食物を消化・吸収する力が低下している」 「運動量が少ない、さらに運動不足によって筋肉量が減少する」などがあると、十分な熱を作り出せず、冷えが起こります。

▼作られた熱を体の隅々まで運ぶことができない
体内で十分な熱が作られても、体の隅々まで運ばれないと、冷えが起こります。 「血液粘度が高い」 「動脈硬化によって末梢血管の血管癖が硬くなったり、 内腔が狭くなったりして血液が流れにくい」「貧血」などがあると、血流が悪くなり、熱も十分に運ばれません。 この場合には、動脈硬化や貧血の改善を行う必要があります。

●自律神経のバランスが崩れる

「自律神経」は、心臓などの臓器の働きを調節したり、体温を調節するなど、意思とは関係なく働いている神経です。 自律神経には、主に活動時に優位に働く「交感神経」と、主に休憩時に優位に働く「副交感神経」があります。 体には、体温を一定に保つシステムが備わっています。寒いときは、「鳥肌が立つ」「末梢血管が収縮して手足が冷たくなる」などの反応で、 熱を外に逃がさないようにし、暑いときは、「末梢血管を拡張させる」「汗をかく」などの反応で、熱を放出させようとします。 こうした体温調節を行っているのが「自律神経」で、自律神経には、主に活動時に優位になる「交感神経」と、 主に休息時に優位になる「副交感神経」があります。 交感神経が優位になると、発汗促進、血圧上昇のなどのほか、末梢血管が収縮して血流が悪くなり、手足が冷たくなります。 一方、副交感神経が優位になると、発汗抑制、血圧降下などのほか、末梢血管が拡張して血流がよくなり、手足が温かくなります。 両者の切り替えがスムーズにいけばよいのですが、現代人は、心身ともにストレスにさらされる時間が長く、交感神経優位の時間が長くなる傾向があります。 すると、副交感神経への切り替えがうまくいかず、手足が冷えた状態のままになりやすいのです。 それぞれが優位に働いているとき、体の機能は次のようになります。

▼交感神経
発汗促進、血圧上昇、心臓を早く動かす、血管収縮など。
▼副交感神経
発汗抑制、血圧下降、心臓をゆっくり動かす、血管拡張など。

ところが、活動時に交感神経が十分に働かなかったり、逆に休息時に副交感神経ではなく交感神経が優位に働くなど、「自律神経の乱れ」が生じることがあります。 自律神経は、末端の神経や血流もコントロールしています。 外気温が下がり、指先などが冷えると、交感神経は手足の先などへの血流量を増やして、温めようとします。 しかし、自律神経が乱れていると、末端への血流量が増えず、冷えた状態のままになります。

◆自律神経が乱れる理由

自律神経の乱れが生じる理由として、 「ストレス」や「器質的な障害」などが考えられます。

▼ストレス
ストレスを感じると、情動を司る中枢に負担がかかります。 脳の中の情動を司る中枢と自律神経を司る中枢は近い位置にあるので、情動を司る中枢に負担がかかると、 近くの自律神経を司る中枢も影響を受けて、自律神経に乱れが生じることがあります。

▼器質的な障害
脳出血脳梗塞などの脳血管障害により、 脳に何らかの障害が起こると、自律神経が正常に機能しなくなることがあります。 自律神経を司る中枢に障害が起きているので、その指令が適切に末梢神経にまで伝わりません。

●無理なダイエットが原因で冷えることも

体を温めるためのエネルギーが不足することも、冷えの原因になります。 例えば、食事の量を極端に控えるダイエットを続けていると、エネルギーが不足します。 呼吸したり血液を全身に巡らせるなど、体の機能を維持するために必要な基礎代謝量は、 一般に20~40歳代女性で1日におよそ1200kcal、20~40歳代の男性でおよそ1500kcalです。 血液で運ばれるエネルギーは、脳や内臓など体の重要な部分に優先的に配分されるので、 摂取エネルギーの量が不足すると、体の末端までエネルギーが届きにくくなるため、手足が冷えることになります。

●糖尿病などによる末梢神経障害

「糖尿病の合併症」が進行すると、 細い血管や自律神経を含めた末梢神経の働きが低下します。 すると、神経の働きが鈍くなったり、血流の調節が悪くなったりします。 そのため、手足の先に必要な血流を確保できなくなり、冷えているという状態が起きてしまいます。 糖尿病の患者さんは、合併症が進行しないように、血糖のコントロールを行うことが大切です。


■冷え性の影響

体の不調を起こしたり、ほかの病気を悪化させることもある

●痛みや胃腸の不調などが誘発される

冷えが原因で、さまざまな体の不調を起こすことがあります。

▼痛み
冷えがあると、血流や代謝が悪くなって、 頭痛肩こり腰痛膝痛などが誘発されることがあります。

▼胃腸の不調
胃腸も冷えの影響を受けやすい臓器です。胃腸の働きが悪いと、食物を消化・吸収する力が弱いために冷え性になりやすく、 冷えるとさらに胃腸の働きが悪くなる、という悪循環に陥りがちです。 そのため、冷えから、下痢や便秘、腹痛が起こることがあります。

▼月経痛
冷えから骨盤内の血流が悪くなり、月経痛がひどくなったり、月経に伴う頭痛、吐き気、腹痛が起こることがあります。

▼のぼせ、ほてり
冷え性がある更年期の女性には、「手足は冷えるが、上半身はのぼせる」という「冷えのぼせ」が起こりやすい傾向があります。 また、そのほかにも、「疲れやすい」「眠れない」「気持ちが落ち込みやすくなる」など、 一見、冷えとは関連のなさそうな症状が、冷えに関連して起こることもあります。

●病気を悪化させる

冷えが 「膀胱炎」 「関節リウマチ」 「気管支喘息」 「アレルギー性腸炎」 などの病気は冷えと関係が深いと考えられています。 冷えを感じたら我慢したり放置したりせず、生活習慣の改善などによって、対処するようにしましょう。