腰痛

多くの人が悩まされている腰痛。 厚生労働省が行なった国民生活栄養調査で、現在悩んでいる症状について尋ねたところ、 腰痛と答えた人の数は、男性では第1位、女性では第2位でした。腰痛で悩んでいる人がいかに多いかがわかります。 腰痛で悩む人が多いのは、2本足で立って歩く人間の宿命のようなものです。 私たちは上半身の体重を背骨を中心にして支えているため、腰の部分には大きな負荷がかかります。 しかも、腰は立ち上がったり座ったりするときによく動く部位なので、それだけ痛みなどの問題が起こりやすいのです。 腰痛の多くは背骨の一部である腰の骨や、骨と骨の間にある「椎間板」などが変化することで起こりますが、 それ以外にも内臓や血管の病気などさまざまな原因があり、神経の障害の程度によっては、強い症状が出ることがあります。 腰痛が起こったら、まずその原因を突き止めることが重要で、腰痛をコントロールするためには、早めに受診して、適切な治療を受けることが大切です。


■腰痛の原因

男女とも多くの人が腰痛に悩んでいる
腰の骨の変化、内臓の病気などさまざまな原因で起こる

腰痛の原因は大きく次の3つに分けられ、原因によって治療を行なう診察科も違います。

▼腰の骨や椎間板、筋肉の変化
腰痛の原因としては最も多くを占め、主に加齢で起こる腰の骨や椎間板、筋肉の変化が原因です。 この場合は、整形外科で治療します。

▼内臓や血管の病気
「風邪、 「胃潰瘍」 「急性膵炎」 腎臓や尿管の「尿路結石」 「子宮筋腫」 「子宮癌」など、 内臓の病気も腰痛の原因となり、それぞれの病気によって、治療する診察科が異なります。 血管の病気としては、 「腹部大動脈瘤」や「血管の閉塞」などがあり、 「腹部大動脈瘤」は、腹部を通る大動脈が瘤のように膨らむ病気で、血管壁に亀裂が入ると腰などに激痛が起こり、破裂すると命に関わります。 このような突然の激痛が起こったら、急いで救急車を呼びましょう。

▼心因性の腰痛
検査をしても明らかな異常が見つからない場合、 精神的なストレスなどが原因で腰痛が起こっていることもあり、 この場合の治療は心療内科などで行なわれます。

●痛みの出方が原因の推測に役立つことも

痛みの出方にも、いろいろなタイプがあります。 じっとしていれば痛みは治まるが、動くと痛む「運動痛」、 安静にしていても痛む「自発痛」、腰以外の場所も痛む「関連痛」などです。 例えば、腰の骨の病気では運動痛が起こりやすく、胃潰瘍では関連痛として背中も痛むことがあります。 そのため、腰痛があって受診する際には、痛みの現れ方を医師に伝えることが大切です。


  運動痛 自発痛 関連痛
痛みの出方 安静にしたり姿勢を変えると治まるが、動くと痛む 安静にしても痛む 腰に加え、腰以外の部分にも痛みが出る
考えられる原因 椎間板ヘルニア、ぎっくり腰など 腎臓や尿管の尿路結石、腹部大動脈瘤の血管壁の亀裂、急性膵炎など 胃潰瘍、子宮筋腫、子宮がんなど


●腰の骨などに原因がある腰痛

腰の部分の椎骨や椎間板、筋肉などに障害があって痛む

脊柱(脊椎)は、「椎骨」という小さな骨が縦に積み重なった構造をしており、 椎骨と椎骨の間には、「椎間板」があって、クッションの役割を果たすと同時に、椎体をしっかりと繋いでいます。 脊柱の内部には「脊柱管」というトンネル状の空間があり、そこを「脊髄」という中枢神経が走っています。 脊髄は脳の司令を体の各部分に伝えたり、皮膚の感覚などの情報を脳に伝えたりする大事な働きをしていますが、脊柱にはこの脊髄を守る役割もあります。 脊柱は横から見ると、緩やかなS字形を描いており、”腰”とは、脊柱の下部にある5つの椎骨からなる「腰椎」の辺りを指します。 腰椎は柔軟性に富み、上半身を支える”支柱”としての役割だけでなく、 立ったり座ったり体をひねったりするときにバランスをとる役割もあるため、大きな負担がかかります。 腰痛の多くは、こうした腰椎の椎骨や椎間板、腰の筋肉などに何らかの障害が起こったり、神経が障害されることで起こります。

その原因となる病気には、次のようなものがあります。

◆骨に原因がある

圧迫骨折
骨粗鬆症は、骨量が減少して骨がもろくなる病気で、椎骨の椎体がもろくなり、 ここに圧力が加わって圧迫骨折したり、変形することで腰痛が生じます。 閉経期以降の女性や、お年寄りによく見られます。
【主な症状】
・特にきっかけもなく、突然痛みが起こった。
・最近背中が丸くなったり、身長が縮んできた。

脊椎腫瘍
脊椎腫瘍は脊椎の椎骨に腫瘍ができる病気で、腫瘍自体の痛みや腫瘍が神経を圧迫することで痛みが生じます。 特に多いのが「癌」で、 乳房や肺、前立腺、胃、腎臓などにできた癌が他の部位に転移して起こります。 脊椎は、癌の転移が起こりやすく、脊椎の中では特に胸椎と腰椎への転移が多く見られ、 癌が骨を壊して骨折が起こると、急に痛みが現れ、進行するにつれて痛みは強まって麻痺も生じてきます。 腰痛がだんだん強くなる場合は、癌の可能性もあるので注意が必要です。
【主な症状】
・だんだん痛みが強くなったり、安静にしていても痛みがある。
・以前体のどこかに癌が発生したことがある。

◆椎間板に原因がある

「椎間板」は、脊柱の椎骨と椎骨の間にある軟骨の一種です。 中央にゼリー状の「髄核」があり、繊維でできた弾力性のある「繊維輪」という組織が髄核を取り囲んだ構造をしています。 この椎間板が、椎骨にかかる衝撃や圧力を吸収するクッションの役割を果たすと同時に、 椎体と椎体をしっかりと繋いでいるため、立ったり座ったり、体をひねったりすることができます。 椎間板は、体内でも加齢の影響が出やすい組織です。 加齢と共に水分を失い変性することで、クッションの役割が果たせなくなり、痛みが生じることがあります。 このようにして起こる主な病気が「椎間板ヘルニア」と「椎間板症」です。

椎間板ヘルニア
変性した椎間板に強い圧力がかかり、椎間板の中心部にある「髄核」が背中側に飛び出して、神経を刺激して痛みが起こる病気です。 20~40歳代という、比較的若い年代の人に起こりやすいようです。 腰の痛みだけでなく、脚にも痛みや痺れが現れます。
【主な症状】
・腰だけでなく脚にも痛みや痺れがある。
・排泄障害などがある。

▼椎間板症
加齢とともに椎間板の水分が失われ、弾力が低下していくことによって椎間板に亀裂が入ったり、椎間板が潰れることで、 椎間板がクッションとしての役割を果たせなくなり、腰痛が起こるのが、椎間板症です。
【主な症状】
・立ったり座ったりする動作のときに痛む。
・長時間立っているのがつらい。

◆骨と椎間板に原因がある

変形性脊椎症
変形性脊椎症は、加齢などで腰椎の椎骨変形が進み、椎骨に棘のようなもの(骨棘)ができたり、椎間板が変性して起こります。 この骨棘が神経を刺激することで、痛みや痺れが生じるようになります。 起床時や長時間じっとしているときに痛くなる場合は、変形性脊椎症が疑われます。 腰痛の原因としては最も多いものです。
【主な症状】
・痛みで動かせる範囲が制限される。

脊柱管狭窄症
脊椎の中を走る脊髄や「馬尾」の通り道を「脊柱管」といい、 脊柱管狭窄症は、加齢による椎骨や椎間板、靭帯の変化によって脊柱管が狭くなり、馬尾や神経根が圧迫されることで痛みが生じます。 脚へと伸びる神経が刺激されるので、脚にも痛みや痺れなどの症状が現れますが、 しばらく休むと治まる「間欠歩行」などが起こります。高齢者に多い病気です。
【主な症状】
・歩いているうちに、脚に痛みが起こるが、しばらく休むと治る。

▼感染性脊椎炎
感染性脊椎炎は、椎骨や椎間板が細菌に感染し、化膿して痛みが起こる病気で、高熱を伴い、痛みも強いのが特徴です。 「免疫が低下したお年寄り」「糖尿病や肝臓病のある人」「大きな手術を受けた後」など、抵抗力が低下して感染が起こりやすい人に多く見られます。
【主な症状】
・腰の痛みとともに、発熱やだるさなどがある。

◆筋肉や靭帯に原因がある

ぎっくり腰
重いものを持ち上げたり、腰をひねったとき、急に動いたりしたとき、くしゃみをした拍子に、起こることの多い、急性の腰痛の俗称です。 腰の筋肉や靭帯、椎間板の損傷や、椎弓と椎弓を繋ぐ「椎間関節」などに大きな負荷がかかることで、 筋肉や靭帯が障害されて、捻挫や肉離れを起こしたような状態になり、激痛が起こります。 急性腰痛の大半を占めますが、エックス線検査などの画像検査では、異常は見られません。
ぎっくり腰が起きた瞬間は、息ができなくなったり、動けなくなるほどの強い痛みが起こります。 しかし、脚の痺れなどがなく、横になり背中を丸めた姿勢をとると痛みが軽くなるようなら、 安静にしていれば、多くは1~2日で、この強い痛みは治まり始めます。 まずは、一番楽な姿勢で、安静に過ごしましょう。痛みが軽くなり、少し動けるようになったら、できる範囲でなるべく動くようにします。 ”まだ痛いから”といって安静にしすぎるのは、かえって腰によくありません。 腰に負担をかけない範囲で、少しづつ体を動かすようにすることで、多くの場合、1~2週間程度で痛みが治まります。

◆精神的なストレスに原因がある

心因性腰痛
精神的なストレスが原因となり、腰に痛みを感じることがありますが、画像検査などには異常が現れません。
【主な症状】
・精神的なストレスがある。
・痛む場所がはっきりしない。

■その他の腰痛の原因

腰痛の原因は8割がわかっていません。ほとんどの場合、検査では正常に出ますが、ある共通点がわかりました。 それは「骨盤の角度」。まっすぐに立ったとき、骨盤は垂直ではなくやや前に傾いています。 その角度は25~30度が理想的だといいいます。原因不明の腰痛患者を調査したところ、この骨盤の角度に変化が見られました。 前傾が30度以上になると30倍のリスクで腰痛が起こることが最近わかってきました。 骨盤の傾きによって背骨の一部である椎間関節が刺激され、痛みが出ると考えられます。 骨盤が傾きやすい生活習慣は、スマホを前かがみで使う、パソコンを使うことが多い、足を伸ばしてまっすぐ仰向けで寝る、など。 また、仰向けでまっすぐ寝ると背中が反り返り、お尻に体重がかかって骨盤が傾きやすくなります。 改善方法は、膝を曲げて寝ること、そうすると背中が伸び骨盤への負担が減ります。 枕やクッションを膝の下に入れて寝れば、腰痛予防・改善になるといいます。


●骨盤の角度簡単チェック

5円玉と千円札で骨盤のチェックができます。

  • 骨盤の角度の目安になる骨を探す。まっすぐ立ち腰のあたりを触ると出っ張りが見つかる。ここが骨盤の先端。 さらに脚の付け根の辺りにでっぱりがある。ここが骨盤の終端。
  • 2つの骨が見つかったらビニールテープで結ぶ。
  • 糸でつるした5円玉を骨盤の先端に当てる。そうするとビニールテープと糸でつるした5円玉の間に隙間ができる。 これが骨盤の角度。30度以上開いていたら要危険。
  • 1000円札を斜めに折り、先端を折り返し、もう一度折り返すとちょうど30度になる。 これをビニールテープと糸の隙間に当てたとき、折り曲げた1000円札より傾いていると要注意。 痛みがない人も今後腰痛になる可能性がある。

●へび背

これは背骨が蛇のように湾曲している状態のことです。「機能性側弯症」通称「へび背」。 実は今若い女性に急増しています。背骨が曲がることで背中の筋肉が緊張し、腰痛や肩こりなどを引き起こします。 それだけではなく、神経を触って痺れが出たり歩けなくなったりします。 へび背の原因は日常の些細な行為に潜んでいます。「ハイヒールで歩く」「いつも同じ側でバッグを持つ」「脚を組む」 「横座り(お姉さん座り)」「肘をついて横になる」などの何気ない行為です。 これらの行為をレントゲンで撮影し検証した結果、
「ハイヒールを履く」・・・背中がねじれるように曲がる。
「肩にバッグをかける」・・・バッグの重みで体が傾き、背骨も曲がっている。
「脚を組む」・・・組んだ脚の方向にカーブを描いている。
「肘をついて横になる」・・・かなりの急カーブを描く。
わずか数分なら問題ありませんが、365日続けば、背骨の歪みに繋がります。

◆へび背の解消法:猫ストレッチ

  • 四つん這いになり、手足を肩幅に開く。
  • 息を吸いながら、ゆっくり背中を丸く(猫のように)上げる。
  • 息を吐きながら、ゆっくり背中を戻す。
  • 1~3を3回繰り返す。
  • 腰を左右にゆっくり曲げる(背中を左右に湾曲させる・腰だけでなく上半身も曲げる)。 これにより、背中の周りの筋肉がほぐれて、歪みが矯正される。1セット3回ずつ、朝晩2回が目安。

■腰痛の症状から判断する腰痛の原因

症状から判断する腰痛の原因は次のようになります。


●急に痛みが起こる場合

腰の痛みが急に起こった場合、症状が腰だけでなのか、脚にも起きているのかが、原因を推測する目安になります。

▼症状が腰に限られている
骨粗鬆症脊椎腫瘍、 椎間板症、感染性脊椎炎、ぎっくり腰

▼症状が脚にも起こっている
椎間板ヘルニア

●痛みが長期間続いている場合

腰の痛みが、じわじわと慢性的に続く場合は、次のような病気が考えられます。

▼症状が腰に限られている
変形性脊椎症心因性腰痛

▼症状が脚にも起こっている
脊柱管狭窄症

腰痛は、椎骨や椎間板などの障害だけで起こるわけではありません。 「腎臓」「子宮」などの内臓の病気や、「腹部大動脈瘤の破裂」などの血管の異常によって突然腰痛が起こることもあります。


■すぐに受診が必要な腰痛

姿勢を変えても楽にならず、足にも痛みや痺れがある場合

腰痛が起こると、医療機関を受診すべきかどうか迷うことがあります。 ぎっくり腰で原因がはっきりしているようであれば、無理に受診せず、様子を見てもよいでしょう。 しかし、「姿勢を変えても痛みが取れない」「痛みがだんだん強くなる」「発熱を伴う」「脚から腰にかけて痛みや痺れがある」場合は、 緊急の治療が必要な腰痛の可能性があるので、迷わず整形外科を受診してください。


■腰痛の診断方法

診察で疑われた病気を画像検査で確認する

診察では、「問診」「視診」「触診」「知覚テスト」「運動テスト」などが行われます。 問診では、「いつから」「どこが」「どのように」痛むかなどを、詳しく聞かれ、 さらに、「歩く姿勢を見る」「痛む場所を触る」「脚の感覚に異常があるかどうかを見る」 「脚を伸ばしたり曲げたりする」といったことで、医師は疑われる病気を絞っていきます。 腰痛の多くは、こうした診察を中心に診断され、必要があれば画像検査が行われます。 画像検査には、「エックス線検査」「CT(コンピュータ断層撮影)検査」「MRI(磁気共鳴画像)検査」などがあり、疑われる病気を確認します。 画像検査は必ず行うというわけではありません。