脊柱管狭窄症の足裏の痺れに『爪先上げ歩き』

脊柱管狭窄症だと足の脱力や麻痺が現れ、つまづいて転倒する室内事故も多く、『爪先上げ歩き』を心掛けよ。 広島の転倒を防ぐ街で大学と共同開発された爪先アップ靴下がつまづきを一掃したと注目の的。 爪先アップ靴下を履いたら転倒者がゼロになり、歩幅も広がって看護師も介護士も大絶賛。


■つま先とかかとを同時に着地させる

脊柱管狭窄症では、足裏の痺れや違和感に加えて、病状が悪化して重度になると足首から先に力が入らない脱力などの 麻痺症状が現れる場合があります。どんな症状かというと、爪先やかかとが自分で思っているほど上がらず、 坂道や駅の階段でつまづいて転倒する危険が増えます。室内でも、部屋の敷居や床に敷いたカーペットなど数㍉の段差に つまづいてしまうので、十分に注意しなくてはなりません。 特に高齢者の場合は、転倒がきっかけで骨折、寝たきりとなる二次障害につながりかねません。 とはいえ、転倒を恐れて歩かなくなると、運動機能が低下してしまい、足の筋力がどんどん衰えてしまうのも問題です。 そうなる前に、足の脱力が悪化しないようにぜひ実践してほしいのが「爪先上げ歩き」です。 爪先上げ歩きは、やや前かがみになって背中を少し丸め、膝を軽く曲げて、つま先とかかとを同時にベタッと地面に着きながら、 一歩ずつゆっくりと歩く方法です。このように歩くことで、小さな段差でのつまづきを大幅に減らせるのです。

◆ふらつきが解消して転倒も防げる

爪先上げ歩きのコツは、爪先が常に上を向くようなイメージを持つことです。 脊柱管狭窄症で特に爪先の脱力があると、踏み出したときに、爪先がだらっと下を向いてしまいます(下垂足という)。 そのまま歩くと爪先が一番先に着地してしまうため、つまづきやすくなるのです。 そこで、爪先を上げるように意識すると、爪先からではなく、足裏全体で着地できるようになります。 そうすれば、段差でのつまずきを防げるだけでなく、歩行時の安定感が増してふらついたりよろけたりしなくなります。 爪先上げ歩きで歩行が安定するのは、本来、体重を支えている足裏の三点(足の親指の付け根と第5指の付け根、かかとの三つの部分) が均等に地面に着くためです。

また、爪先上げ歩きは、脊柱管の狭窄を防ぎ、歩行中に現れる痛みや痺れを小さく抑えるのにも役立ちます。 かかとから着地し、爪先で蹴り出す一般的な歩き方は、かかとで着地するときに腰がそってしまい、 脊柱管が断続的に狭くなります。そのため、間欠性跛行が起こりやすくなるからです。 実際、爪先上げ歩きを行うと、一度に歩ける距離が平均で30~40m延びます。 中には、半年間で1回に歩ける距離を300m増やした患者さんもいます。 爪先上げ歩きは、転倒の不安を取り除き歩くことへの前向きな意欲を引き出すきっかけにもなるので、 ぜひ一度試してみて下さい。


●履けば爪先が自然と上がる

人口の約35%を高齢者が占める東広島市安芸津町では、「転倒を防ぐ街」をスローガンに掲げ、さまざまな取り組みを行っています。 私はこれまで、予防医療の観点で転倒を防ぐ方法について模索してきました。 そして、安芸津町のこの取り組みに一役買おうと、6年前から企業や病院と共同で転倒予防に役立つ製品の開発に成功したのです。 それが『爪先アップ靴下』です。爪先アップ靴下は、2種類の編地を組み合わせることで、 足が地面から離れた瞬間に爪先が自然と反り上るような構造になっています。 具体的には、足の甲の部分を伸縮性の低いタッグ網で硬くし、足裏部分を伸縮性の高いあぜ編みで軟らかくしました。 こうすることで、足を上げた際に甲の部分が縮み、それに引っ張られるように足裏の部分が伸びて爪先が自然に上がるのです。 歩きの不自由な高齢者は、足の筋力の衰えや痺れ、脱力によって、足指や足関節(足指)の動く範囲が狭くなり、 小さな段差でも爪先をひっかけてつまづきやすくなります。爪先アップ靴下を履けば、そのようなつまずきが原因の転倒を 回避できる可能性が高まります。

◆滑りにくく保温性に優れる

爪先アップ靴下には、他にも特徴があります。第一に滑りにくいということです。 といっても、足裏に滑り止めの材質を貼っているわけではありません。 爪先アップ靴下は、足裏のあぜ編みで適度な凹凸があるため、床をつかみやすく滑りにくい構造なのです。 また、あぜ編みは二重になっており、優れた保湿性も発揮します。普通の靴下は、保温のために生地を厚くしていくと 靴下の湿度が上がってしまいます。そうして汗をかくと、それが熱を奪って返って徐々に冷えてしまう場合があります。 爪先アップ靴下は、凹凸の隙間に空気の層ができて足を温めてくれますが、粗い編地で通気性がいいため、 夏でも汗をかくことが少なく快適に使用できるのです。 さらに、靴下の上部を緩めて作ってあるので、手指の力が衰えた高齢者やリウマチの患者さんでも片側の手で 簡単に履くことができます。爪先アップ靴下は、通信販売で一足1600円くらいで購入できます。


●着用して三日間で歩行速度がアップ

私は、以前、高齢者や医療職者600人を対象に、転倒予防に関するアンケート調査を行ったことがあります。 その結果、女性は60代から転倒予防に関心を持ち始めて運動などの対策を行うのに対し、 男性は80歳になっても無関心で転倒予防への意識が薄いことがわかりました。 東広島市安芸津町では、転倒防止に対する取り組みが盛んに行われています。 私は2年前から、地域住民の予防医療に対する意識改革を推進すべく、転倒防止に役立つ「爪先アップ靴下」 の有用性の調査に参加してきました。 その一つに、広島県安芸津病院に入院もしくは通院する75歳以上の高齢者(下肢に運動麻痺や知覚障害のない、自立歩行が可能な人) 20名に対して行った調査があります。それは、爪先アップ靴下を履いてもらい、着用前と着用三日後の歩行速度や一歩幅を測定、 比較するというものでした。その結果、数値はいずれも有意にいい方向に変化していることがわかりました。 さらに、被験者の立位での姿勢が改善していました。 私が最も驚いたのは、一年半後の聞き取り調査の結果です。被験者20名のうち17名(平均年齢81.2歳)から回答を頂いたのですが、 その中で爪先アップ靴下を履いて転倒した人は一人もいなかったのです。

◆夜勤明けの朝でも足が重くならない

また、追跡調査の中で印象的だったのが、三浦理恵子さん(仮名・78歳)です。三浦さんは三年近く爪先アップ靴下を愛用している とのことで、見ると、穴が開いてボロボロになっているのを糸で補修しながら履き続けていました。 三浦さんによれば、この靴下を履いていれば、絶対につまづかないという安心感があるのだそうです。 もっと歩きたい、どこか遠くまで出かけてみたいと大変意欲的でした。 実際、爪先アップ靴下を履くことで、日常の歩行数が増えたという調査結果もあります。
ちなみに、爪先アップ靴下は、看護師や介護士の間でも評判になっています。 仕事中に履いていたら「足が疲れにくくなった」「足が軽くなった」という意見が多数寄せられたのです。 また、夜勤明けの朝でも軽快に歩けるというのです。その違いを歩く際のサンダルの音に例えると 重たい「ペタペタ」という音から、軽快な「パタパタ」というに変わったそうです。