若者の腰痛
10~40歳代の若い世代に多い腰痛の原因に、「椎間板ヘルニア」があります。 運動などの「保存療法」や、手術が主な治療法です。
■若者に多い腰痛
痛みや痺れなどを伴う「椎間板ヘルニア」
10~40歳代の若い世代に多い腰痛の原因が「椎間板ヘルニア」です。 椎間板ヘルニアは、腰にある神経が圧迫されて、痛みや痺れなどの症状が現れる病気です。
●神経が圧迫される
背骨(脊柱)の腰の部分(腰椎)は、5つの椎骨で構成されています。そして椎骨と椎骨の間には、「椎間板」 と呼ばれる軟骨が入っています。椎間板は、硬い椎骨同士が直接ぶつからないよう、クッションの役割を果たしています。 腰に大きな負担がかかると、この椎間板にひびが入り、内部にあるゼリー状の物質(髄核)が 軟骨と一緒に外に飛び出してしまうことがあります。これが『椎間板ヘルニア』です。 飛び出したゼリー状の物質が、腰椎を通る神経の束(馬尾)や、そこから枝分かれしている神経(神経根)を圧迫すると、 強い痛みや痺れなどの症状が現れます。
●加齢や喫煙が原因になる
椎間板にひびが入る原因には、次のようなものがあります。
- ▼急激な衝撃
- 激しい運動や、重い荷物を持つ作業などで、腰に強い衝撃が何度も加わると、だんだん椎間板が劣化し、ひびが入りやすくなります。 椎間板ヘルニアが若い世代に多いのも、激しい運動や重労働をする人が多いことが一因と言えます。 強い衝撃だけでなく、デスクワークなどによって長い間悪い姿勢を続けていると、腰に負担がかかり、 やはりひびが入りやすくなります。
- ▼加齢
- 椎間板の老化は、20歳代から始まっています。椎間板が劣化していると、それほど強くない衝撃でも、 ひびが入る可能性があります。
- ▼喫煙
- 喫煙による血流の悪化も、椎間板ヘルニアの要因と考えられています。
- ▼体質
- 体質的に、椎間板にひびが入りやすい人がいます。10歳代で椎間板ヘルニアを起こす場合は、体質的な要因が考えられます。
●痛みや痺れなどが現れる
椎間板ヘルニアの腰痛では、前かがみを続けると、痛みが強くなるのが特徴です。 前かがみの姿勢になると、椎間板が背中側に押される力が強まり、神経をより強く刺激してしまうためです。 また、椅子に長く座っていると、腰の痛みが強まります。 椎間板ヘルニアでは、お尻から太腿、ふくらはぎにかけて、痛みや痺れが出たり、麻痺して足に力が入りにくいなどの、 神経症状が現れやすいのも特徴です。腰椎からは、馬尾から足へと向かう末梢神経が枝分かれしています。 この神経が圧迫されると、腰から足にかけて、神経症状が出てくるのです。 痛みに加え、これらのような神経症状がある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
■椎間板ヘルニアの治療
まずは「保存療法」を行い、様子を見る
”ヘルニア”というと、すぐに手術を考えがちですが、70~80%の患者さんは、「保存療法」で治療できます。 3~6ヶ月ほど保存療法を続けると、飛び出したゼリー状の物質が、自然に吸収されることがあるのです。 そのため、椎間板ヘルニアと診断されたら、まずは、次のような保存療法から始めます。
- ▼薬物療法
- 炎症による痛みには、「非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAID)」などが効果的ですが、 神経障害による痛みには、あまり効果がありません。しかし最近は、神経障害には「抗てんかん薬」「抗鬱薬」 「抗不安薬」「オビオイド鎮痛薬」などを用いて、痛みを抑えます。
- ▼装具療法
- コルセットを装着して、痛みが強まる姿勢を防ぎます。
- ▼神経ブロック
- 薬物療法や装具でも痛みが治まらない時は、局所麻酔などを使い、痛みの伝達をブロックします。
- ▼温熱療法
- 患部を温めて筋肉の緊張と痛みを和らげます。
- ▼運動療法
- 痛みが落ち着いたら、腹筋と背筋を鍛える運動療法を始めます。
●日常生活での工夫
長時間立つときは、片脚を台に乗せたり、寝るときは膝の下に座布団を入れたり、横向きで軽く膝を曲げると、 腰の筋肉が和らいで、痛みも軽くなります。また、物を持ち上げるときは、できるだけ体を荷物に近づけて、 膝を十分に曲げて持ち上げるようにします。
■手術の検討
症状が改善しない、神経症状が現れた場合などは、手術を検討する
保存療法を3ヶ月以上行っても、症状が改善しない場合や、痺れや麻痺などの神経障害が進行している場合、 神経が圧迫されて尿が出ない「排尿障害」がある場合などは、手術療法を検討します。
●「後方椎間板摘出術」が行われる
最もよく行われているのは、背中の皮膚を切開し、腰椎の後ろ側から手術器具を入れ、飛び出したゼリー状の物質を 取り除く方法です。1時間くらいで終了し、入院期間は1週間程度です。 最近は、内視鏡を用いるケースも増えています。
●手術後の経過と過ごし方
手術の翌日にはもう歩くことができ、デスクワークなら、2週間くらいで復帰できます。 重労働の場合は、復帰まで2~3ヵ月間かかります。ゴルフなどの運動は、3ヶ月間くらい控えてください。 患者さんの多くは、手術前は痛みのために体をあまり動かさないので、筋力が低下しています。 手術後、特に問題がなければ、ウォーキングなどの運動を積極的に行って、筋力をつけましょう。