椎間板ヘルニア

椎間板は、体を曲げるときなどに骨同士がこすれ合わないように衝撃を吸収するクッションの役割を担っています。 赤ちゃんの椎間板は水分が豊富で弾力性が高く、体がとても柔らかい。 しかし、加齢とともに弾力性が無くなり変形しやすくなります。 椎間板ヘルニアになると、椎間板が変形し神経を圧迫します。 背骨に負担をかける生活や椎間板の老化などが原因です。 椎間板ヘルニアは、飛び出した椎間板が神経を圧迫するため、腰の痛みや足の痺れが起こります。 前かがみになると痛みが出るのが特徴です。椎間板ヘルニアを放置すると、腰痛や脚の痺れの他、 排尿障害などの重い障害が現れて、日常生活に支障をきたすこともあります。 治療の基本は保存療法ですが、最近では体への負担が少ない方法での手術も行なわれ始めています。


■椎間板ヘルニアとは?

椎間板の髄核が飛び出して、神経を圧迫する病気

「椎間板」「脊柱」の椎骨と椎骨の間にある軟骨で、クッションの役割を果たしています。 椎間板は弾力に富んだ組織で、若い人では80%以上が水分ですが、20歳を過ぎる頃から老化が始まり、 水分が減って弾力が低下してきます。
椎間板の中心には「髄核」というゼリー状の組織があり、その周りを「線維輪」というやや硬い組織が覆っています。 「ヘルニア」とは、「飛び出す」という意味ですが、その名前のとおり、 「椎間板ヘルニア」は、弾力性を失った椎間板に力仕事などで強い負荷がかかったり、 「お腹や背中などの筋力の低下」や「肥満」などで椎間板への負担が増えると、線維輪に亀裂が入り、 髄核が外側に飛び出して、神経が圧迫されたり炎症が起こったりして、痛みなどの症状が起こる病気です。

「椎間板ヘルニア」は、「膨隆・突出型」「脱出型」「穿破脱出型」「遊離脱出型」の4タイプに分けられます。 このうち、穿破脱出型と遊離脱出型は、髄核が椎間板の背中側にある靭帯を 突き破るもので、症状が強く出やすいという特徴があります。 靭帯を突き破って飛び出しているかどうかで治療法が異なってきます。 タイプは、エックス線検査ではわからないため、「MRI(磁気共鳴画像)検査」などが必要です。

「椎間板ヘルニア」は、人口の約1%が持つといわれる病気です。 日本の人口に当てはめると 100万人以上の患者がいると考えられます。 何らかのきっかけがあれば、誰にでも起こる可能性のある病気だといえます。


●椎間板ヘルニアの症状

腰痛や坐骨神経痛などがある。排尿・排便障害が起こることも

椎間板ヘルニアの代表的症状が、「腰痛」と「坐骨神経痛」です。 坐骨神経痛とは、「坐骨神経」という長い神経に沿って起こる症状のことです。 脊柱を通る脊髄は、腰椎の辺りで細かい神経の束に枝分かれします。 この神経の束は、馬の尻尾に似ていることから「馬尾」と呼ばれます。 坐骨神経は、この馬尾から出る数本の神経が1つになったもので、お尻から太腿の裏側、ふくらはぎ、かかと、足先へと伸びています。 そのため、坐骨神経の根元が圧迫されると、腰から脚にかけて痛みや痺れが起こります。 椎間板ヘルニアがさらに進行すると、「脚の筋力低下」や刺激に対する感覚が鈍くなる「知覚障害」が現れることもあります。 また、馬尾は膀胱や直腸の働きとも関係しているため、障害が馬尾にまで及ぶと、「排尿障害や排便障害」が起こる場合があります。


■椎間板ヘルニアの治療 ①保存療法

自然に消滅することもあるので、3ヶ月間は保存療法を行なう

「椎間板ヘルニア」に対しては、まず3ヶ月程度を目安に、手術をせずに痛みや症状を抑える 「保存療法」を行なうのが一般的で、保存療法では、姿勢や運動などの生活改善に加えて、 主に、痛みをコントロールする治療が行われます。 椎間板ヘルニアの中には、3~6ヶ月ほどすると飛び出した髄核が自然に吸収され、 いずれ消滅してしまうものもあります。保存療法にはその経過を観察する目的もあります。 ただし、椎間板ヘルニアのすべてが自然消滅するわけではありません。 穿破脱出型や遊離脱出型では自然消滅の可能性は比較的高いのですが、膨隆・突出型や脱出型では、可能性が低くなります。


●薬物療法

一般的に、「非ステロイド性消炎鎮痛薬」を用いて、痛みを緩和させます。「内服薬」「湿布薬」「座薬」などがあるので、 ライフスタイルや症状に合わせて選択します。 筋肉が緊張していることで痛みが起こっているようなら、「筋弛緩薬」を使って、筋肉をリラックスさせます。

●神経ブロック

薬物療法だけではコントロールできないような強い痛みがある場合は、 「局所麻酔薬」「ステロイド薬」を注射する 「神経ブロック」を行なって痛みを抑えます。主に次の2つの方法があります。

▼硬膜外ブロック
お尻のすぐ上当たりの皮膚に針を刺し、「仙骨裂孔」という孔を通して、 脊髄を包む硬膜の外側の「硬膜外腔」に注射します。
▼神経根ブロック
飛び出した髄核に圧迫されて炎症の起きている「神経根(神経の根元部分)」に、直接薬を注射します。

■椎間板ヘルニアの治療 ②手術

神経への圧迫を取るために、椎間板の一部を取り除く

「保存療法では十分な効果を得られない」「症状が強くてつらい」「症状を早くとりたい」 といった場合は、手術が検討されます。 また、神経の障害により排尿障害や排便障害が起こると、後遺症となって残る場合があるので、 緊急に手術を行なう必要があります。 手術の方法には次の2つがあります。

▼経皮的髄核摘出術
背中側の皮膚を4mm程度切開して手術器具を椎間板に挿入し、髄核の一部を取り除きます。 局所麻酔で行なわれ、傷も小さいので、取り除くのが1ヶ所ならば手術時間は30分程度で、 手術後すぐに歩くことができる場合もあり、入院も手術後1日~1週間程度で済みます。 髄核の量が減って神経への圧迫が減り、痛みが軽減します。 対象は膨隆・突出型と脱出型など髄核が靭帯を突き破っていないタイプのみです。

▼後方椎間板切除術
背中側から切開して、飛び出した髄核を切除する手術で、どのタイプの椎間板ヘルニアにも行なえます。 「直視下手術」「顕微鏡下手術」「内視鏡下手術」の3つに大別されますが、 最もよく行なわれているのは、直視下手術です。 全身麻酔をして、背中側の皮膚を12~13cm程切開してから、実際に患部を見ながら行ないます。 一般に、手術時間は1時間程度で、入院期間は2~3週間です。 顕微鏡下手術は、直視下手術と同様に背中側を切開し、患部を顕微鏡で観察しながら行ないます。 内視鏡下手術は、最近行なわれるようになった新しい手術です。背中側を1.6cm程切開して、 脊柱の隙間から内視鏡と手術器具を入れて行なうもので、内視鏡のカメラが映し出す映像を モニターで見ながら行ないます。手術時間は約1~2時間で、全身麻酔をして行なわれますが、 傷が比較的小さくて済むうえ、手術後の痛みが少なく、手術の翌日には自分で歩いてトイレに行くことができる人もいます。 一般に、入院は3~4日です。 内視鏡下手術は、高い技術を要するため、日本整形外科学会が認定する脊椎内視鏡下手術の 技術認定医は全国に30~40人程度(2007年)と、受けることができる医療機関がまだ少ないのが現状です。 ただし、患者への体の負担も少ないため、今後広まっていくと考えられます。


●その他

【股関節との関係】
股関節が硬いと脚が開かず踏ん張れないので、その分骨盤で曲げようとして姿勢が悪くなり腰痛へと繋がります。 対処法としては、股関節のストレッチなどをして股関節を柔らかくしておけば、腰への負担が減り、腰痛が緩和します。

【ギックリ腰】
ギックリ腰になるのは体幹の筋力、特に「腹筋や背筋が弱い」ことが原因と考えられます。 筋肉には「力を入れる筋肉」と「姿勢を長く保持する筋肉」があります。 筋肉は二重構造になっており、瞬発的な動きを行うのが通称「白筋」、 姿勢を保つために使われるのが通称「赤筋(インナーマッスル)とがあり」 赤筋は瞬発的な運動では鍛えづらく、「有酸素運動」や「ウォーキング」などが効果的です。 赤筋を鍛え姿勢を安定させれば、腰への負担が減り、腰痛が緩和します