慢性腰痛
【脳機能の不具合による腰痛】

痛みが3か月以上続く慢性腰痛。 心配して安静にするより、体を動かす方が痛みの改善にはよいということがわかっています。


■脳に原因がある腰痛?

腰痛というと、重いものを持ったり、姿勢が悪いことなどによって起こる腰の組織の炎症や、背筋の血行不良などによる腰自体の不具合と考えられがちです。 しかし、腰痛に対する不安や恐怖がもたらす脳機能の不具合が原因となって、痛みが長く続いていることがあります。 本来脳には、痛みを和らげる機能が備わっています。代表的なものが、痛みを感じにくくする物質を分泌させる仕組みです。 通常、”腰が痛い”という信号が神経を介して脳に伝わると、脳内でドパミンという物質が放出されます。 すると、脳内でオピオイドやセロトニンなどが分泌され、痛みや気分が和らぎます。 しかし、腰痛や腰を動かすことに対する不安や恐怖などのストレスがあると、これらの分泌量が減少し、痛みが強く感じられるようになります。 そのため、画像検査で「異常がある」と言われたことが、腰痛が長引く原因となることもあります。 検査の結果を聞いただけで、患者さんが不安や恐怖などのストレスを感じてしまうことがあるのです。

画像上の「異常」が腰痛に直接関係するケースは、実際には多くは多くありません。 149人の働く男性を対象に行ったMRI検査の結果を調べたところ、腰痛との関連は乏しく、 また、腰痛を経験したことのある人の47%のMRI検査の結果には、異常が見られなかったという研究結果もあります。 一定の年齢になれば、多くの人に何らかの腰の異常は見つかるものです。 それは白髪やしわができるのと同じで自然なことだと受け止め、画像検査の結果に振り回されないことも大切です。 また、「上司と言い争う」「介護のストレス」「家庭内のトラブル」などで、イライラや悲しみなどが募り、自律神経のバランスが乱れると、 腰痛が悪化することも少なくありません。


●不具合がどこにあるかで症状の現れ方が異なる

▼腰に不具合がある場合
下記に当てはまる場合は、長時間座ったり、前かがみの姿勢を続けることなどによる腰の組織の炎症や血行不良など、 腰自体の不具合が原因で腰痛が起こっている可能性があります。
●痛みと姿勢・動作の関係性に一貫性がある。
●痛くない姿勢がある。

▼脳機能に不具合がある場合
下記に当てはまる場合は、何らかの原因で脳機能に不具合が生じたことで、腰痛が起こっている可能性があります。
●痛みと姿勢・動作との関係性がはっきりしていない。
●仕事などでストレスを感じているときや、憂鬱な時に痛む。
●腰だけでなく、体のあちこちが傷む。

■恐怖回避思考に注意

脳機能の不具合によって起こる慢性腰痛は、心理的要因により、痛みの悪循環に陥りやすい傾向があります。 例えば、つらい腰痛を経験すると、もう経験したくないというトラウマ(心の傷)が生じることがあります。 さらに、画像検査での異常など、不安になる情報が引き金となって、心配のあまり安静にしてしまいがちです。 これを恐怖回避思考といいます。 恐怖回避思考に陥り、過度に安静にしていると、体や脳機能にさらなる不具合が起こります。 例えば、その不具合の一つとして、痛みに過敏になる物質が発生することが挙げられます。 そのため、安静にすることで再び腰痛が起こるという、悪循環を招いてしまうのです。 下のチェック表で、自分の腰痛に心理的要因が関係しているかどうかを調べてみましょう。

  • ①こんな状態で体を活発に動かすには、かなりの慎重さが必要だ。
  • ②心配事が心に浮かぶことが多かった。
  • ③私の腰痛は重症で、決して良くならないと思う。
  • ④以前は楽しめたことが、最近は楽しめない。

上記①~④の項目で「はい」は1点、「いいえ」は0点とします。

  • ⑤全体的に考えて、ここ2週間の間に腰痛をどの程度煩わしく思いましたか?

⑤の項目では、「全然」「少し」「中程度」は0点、「とても」「極めて」は1点とします。

最近の2週間について、上記の項目に当てはまるかどうかをチェックし、各項目の点数を足して、 合計が4点以上の場合は、恐怖回避思考などの心理的要因が関係している可能性があります。


●痛みの悪循環を断ち切るには

一般にぎっくり腰が起こった直後の急性期は安静にした方がよいとされています。 しかし、ある程度動けるようになったら、積極的に体を動かす方が腰痛は早く良くなります。 これは慢性腰痛にも言えることです。 ぎっくり腰で受診した人のうち、できるだけ安静にした場合と、痛みを我慢できる範囲内で活動した場合で、 翌年のぎっくり腰の再発状況を比較した研究では、安静にした場合の方が、活動した場合より、ぎっくり腰が再発するリスクが3倍以上高く、 また、再発回数も多く、慢性腰痛にも繋がりやすいことがわかりました。 危険な腰痛でない場合、腰痛があっても積極的に体を動かすようにしましょう。


■マインドフルネスも効果的

人は”〇〇のことを考えないように”と言われても、かえって考えないようすべき物事にとらわれて、そのことばかり考えてしまうようになります。 この対処法の一つとして、マインドフルネスが挙げられます。 マインドフルネスとは、不安などにとらわれた”心ここにあらず”の状態から抜け出し、心を”今”に向けさせるものです。 慢性腰痛にある人は、腰痛に注意を向けすぎる傾向があります。 不安が強いと、前述したようにドパミンやセロトニンなどの痛みを和らげるのに必要な物質が放出されにくくなってしまいます。 マインドフルネスによって腰痛から注意をそらすことで、腰痛を改善する効果が期待できます。


■その他

▼全身運動で慢性の痛みを改善
ウォーキングなどの全身運動を、 自分が気持ちよくできる範囲で20分間続けることを週2回、1ヵ月間程度行うと、痛みが軽減することがわかっています。

▼脳機能の不具合は腰痛以外の不調も招く
脳機能の不具合が原因の場合、腰痛以外にも、 抑うつ気分睡眠障害めまい耳鳴り肩こり胃の不調便秘、 下痢、息苦しさ・動悸、などの不調を招くことがあり、検査をしても異常が見つからないことがあります。

▼危険な腰痛に注意
腰痛の中には、直ちに治療が必要な危険なタイプもあります。 横になっても腰がうずいたり、痛み止めを使っても腰痛が改善しない場合は、 「の転移」や「背骨の感染症」などの病気の可能性が考えられます。 また、高齢者で、布団から起き上がる際に背中や腰が痛むような場合は、 「骨粗鬆症に伴う骨折」の可能性があります。 いずれも、早目に医療機関を受診しましょう。