脊柱管狭窄症に『プレガバリン』

腰部脊柱管狭窄症の治療薬として、これまでは消炎鎮痛薬やプロスタグランジン製剤(血管拡張薬)が一般に用いられてきました。 近年、こうした薬に加えて利用されるようになったのが、『プレガバリン』です。 先に述べてしまうと、プレガバリンは神経障害性疼痛を抑える薬です。そもそも、私たちが感じる痛みは、3種に大別できます。 1つは、神経障害性疼痛で、神経が障害されて起こる痛み。もう一つは、侵害受容性疼痛で、打撲や切り傷などのように、 刺激による炎症で生じる痛み。最後は、神経障害性疼痛と侵害受容性疼痛が混在する混合性疼痛です。 このうち、神経障害性疼痛が発生する仕組みを説明しましょう。

通常、神経が刺激されると、その情報が電気信号として脳に伝わります。例えば、手をぶつけたとき痛いと感じるのは、 手の神経の末端部が刺激されたことでその電気信号が脳に伝わり、痛みを感じているわけです。 しかし、何らかの原因で神経が損傷している場合は少し変わります。その損傷した神経の中で異常な放電(異所性放電) が起こってしまい、神経細胞が興奮状態に陥って過敏になり、本来は痛いと感じるはずのない刺激まで、痛みと感じてしまう結果、 みの刺激が何倍にも増幅されるのです。これを掘り下げていうと大変難しくなるので割愛しますが、 プレガバリンは神経が損草しているときに神経細胞に流入するカルシウムを抑制する作用があり、 そのために神経細胞の異常興奮状態が抑えれ、鎮痛作用を発揮する、と考えられています。 プレガバリンは、もともと帯状疱疹後神経痛(帯状疱疹が消えた後に残る神経痛)の治療薬として広まりました


■神経が障害されて起こる痛みに効く

鎮痛薬や血管拡張薬では改善が難しい人でも、プレガバリンを飲んだら改善率は51%。

●鎮痛薬などとの併用が勧められる

プレガバリンが神経障害性疼痛の治療薬として保険適用されたのが、2010年のことです。 脊柱管狭窄症の症状は、炎症が関係する侵害性受容性疼痛である一方で、 狭窄した部位が神経を刺激するので神経障害性疼痛でもあり、 いわゆる混合性疼痛と考えられます。脊柱管狭窄症の場合、基本的には消炎鎮痛薬や血管拡張薬で、 炎症を鎮めたり血流を促したりする薬が処方されます。しかし、そうした薬で改善が見られない場合は、神経障害性疼痛の関与を考え、 プレガバリンの併用が考慮されます。プレガバリンの処方については、明らかな統一見解がなく、医師によるところが大きいといえます。


●11段階の評価法では改善率が67%

あるクリニックの医師が、実際にプレガバリンが「腰痛」に対して、どの程度効いているのか調査しました。 腰痛は、さまざまな原因で起こっていて、神経障害性疼痛や混合性疼痛の患者さんもいると考えられます。 そこで、侵害受容性疼痛に効く消炎鎮痛薬や血管拡張薬などの薬も服用してもらったものの治療効果が十分に得られなかった 68人にこれまで飲んでいた薬に加え、プレガバリンを服用してもらいました。 プレガバリンは、最初、25mgを1日2回服用してもらい、患者さんの症状に応じて1日150mgを目安として増減しました。 そしてプレガバリンの投与開始時とその8週間後に「NRS」「JOA BPEQ」で評価しました。 NRSは痛みの強さを調べた評価尺度。痛みなしの0点から、強い痛みの10点の間の11段階で自己採点してもらいます。 JOA、EPDQは日本整形外科学会腰痛質問票。0~100点で表され、点数が高いほど良好な状態を示します。

この試験において、諸事情で調査が継続できなかった人を除いた45人の評価をすることにしました。 このうち、脊柱管狭窄症の人は27人いて、その他は腰椎椎間板ヘルニアや非特異性腰痛(明らかな診断がつかない腰痛) の人でした。そうして試験開始時と終了時を比較してみるとNRSでは30人(67%)で改善が見られ、平均値も6.7点から4.9点への 低下が認められました。JOA BOEQの疼痛に関する項目では、平均値が35点から57点になっていて、そのうち点数が20点以上 高くなった人が23人(51%)いました。 つまり、プレガバリンは脊柱管狭窄症を含めた各種の腰痛の改善に役立つ薬であることが示唆されたのです。 ちなみに、この試験は、腰から下の足の痛みや痺れを対象にしたものではありません。 とはいえ、患者さんたちの様子を見ると脚の痛みや痺れもよくなっている印象があります。

プレガバリンにはめまいやふらつきなどの副作用が稀にあり、高齢者や腎機能が低下した人では内服量を減らすなどの 調節が必要が必要なこともあります。主治医に、薬の処方について相談するといいでしょう。