更年期障害

更年期とは、個人差はありますが、月経が終わる閉経(平均50歳)を挟む45~55歳くらいで、妊娠可能な成熟期から妊娠が可能でなくなる老年期へと移り変わる、 心身共に不安定な時期です。加齢によって卵巣機能が衰え、徐々に女性ホルモンの分泌が少なくなり、月経周期は乱れ、月経不順が生じ、 やがて月経周期は長く、月経量は少なく、月経持続日数も短くなります。 閉経によって卵巣からのホルモン分泌が止まるので、周期的に分泌される女性ホルモンの影響を受けてきた女性の体にはいろいろな変調がみられます。 さらに、この時期特有の心理的要因や社会的要因も加わって、体にさまざまな不調を来たすだけでなく、気持ちが落ち込んだり、やる気が出なくなることもあります。 この変調による不快な症状を更年期障害といいます。
症状は、さまざまなものが挙げられます。ただし、更年期障害の症状は、本人だけが感じる違和感で、これといって体には異常がみられないことから、 また、やたらにあちこちが不快などと訴えが多いことから不定愁訴といいます。 症状の程度は個人差があり、強く出る人もいれば、ほとんど気付かないままに閉経を迎え、老年期に移行する人もいます。


■更年期障害とは?

女性は、40~50歳代になると卵巣の機能が衰え始め、やがて閉経を迎えます。 「更年期」とは、卵巣の機能が低下して、女性ホルモンの分泌が急激に減少していく時期のことです。 日本人女性の場合、平均的にはだいたい50歳前後で閉経するため、その前後5年づつ、45~55歳の10年間が更年期とされます。 しかし、閉経の時期には個人差があり、更年期が始まる時期も人によって異なります。 一般的に更年期には、心身にさまざまな症状が起こりますが、現れる症状の種類や程度は人によって異なります。 更年期症状がほとんど現れない人もいますし、症状があっても、問題なく生活できる人もいます。 多少の症状があっても、それが気にならないようなら、特に受診の必要はありません。 非常に軽くて気にならない人もいますが、その一方で、「今まで通りに仕事ができない」「朝起きるのが辛い」「家から一歩も出られない」など、 日常生活に支障を来す人がいます。複数の症状や重い症状によって、辛い思いをしている人も少なくありません。


■更年期障害の女性特有の煩わしい症状

体の不調や気持ちの落ち込みなどで生活に支障が生じることも

▼生殖器の変化と障害
卵巣・子宮・膣・外陰などの萎縮、膣や外陰の乾燥や痒み、性交痛

▼泌尿器系障害
頻尿、残尿、排尿痛尿失禁

▼血管運動神経障害
心悸亢進、冷え性、ほてり、紅潮、のぼせ、動悸、頻脈、遅脈(立ち上がりの遅い脈)

▼運動器系障害
肩こり腰痛関節痛、 背部痛、腓骨筋痛(下腿の痛み)、筋肉痛、坐骨痛

▼感覚系障害
痺れ感、感覚鈍麻、蟻走感(むずむずする)、知覚過敏

▼皮膚分泌系障害
発汗亢進、口内乾燥、唾液分泌増加

▼消化器系障害
食欲不振、吐き気、腹痛、 便秘、 下痢、嘔吐

▼精神神経系障害
めまい頭痛・頭重不眠不安感、 焦燥感、イライラ、憂鬱感、記憶力減退、判断力低下、集中力・思考力の低下、やる気が出ない

▼その他
疲労感、骨粗鬆症脂質異常肥満

更年期に典型的な症状が「のぼせ、ほてり、発汗」です。 気温に関係なく、冷房の効いている部屋でも急に顔や上半身が熱くなったり、火照って汗をかいたり、ひどい汗をかいたりします。 身体症状が強く現れ、日常生活に支障が生じる場合もあります。
また、精神症状が強く現れ、以前はできていた家事や仕事ができなくなり、「QOL(生活の質)」が著しく低下することも多いといえます。 この時期に、家に閉じこもりがちになる、人との付き合いを避けるなど、 それまでに培ってきた人間関係に支障を来たし、更年期以降の生活に影響が出ることもあります。 また、更年期に関連して骨粗鬆症や動脈硬化なども起こりがちになってくるので、これらにも注意が必要です。 更年期症状のために、少しでも辛いと感じたり、日常生活に支障が生じている場合は、 更年期外来や女性外来、更年期に詳しい婦人科などを受診して相談することが大切です。

◆更年期障害に関連する病気や症状

更年期に関連して、次のような病気や症状が起こりやすくなるので、注意が必要です。

骨粗鬆症
女性ホルモンには、骨を強くする働きがあります。 閉経後は、女性ホルモンの分泌低下に伴い、急激に骨量が減り、骨粗鬆症になりやすくなります。

動脈硬化脂質異常症
女性ホルモンには、血中のコレステロール値を低く抑える働きがあります。 閉経後は、血中コレステロール値が高くなり、脂質異常症や動脈硬化が起こりやすくなります。

▼老人性膣炎・性交時の痛み
女性ホルモンの分泌が低下すると、膣の粘膜が萎縮したり乾燥しやすくなり(老人性膣炎)「ヒリヒリ感、性交時の痛み」などが起こりやすくなります。

頻尿・尿失禁
加齢や女性ホルモンの分泌低下に伴い、膀胱などを支える筋肉(骨盤底筋)が緩んだり、 膀胱の粘膜が萎縮したりして、頻尿や 尿失禁が起こりやすくなります。

記憶・認知機能低下
女性ホルモンには、脳細胞を保護したり、脳血流を維持する働きがあります。 女性ホルモンの分泌が低下すると、記憶や認知機能、体のバランスをとる働きなどが影響を受けると考えられています。

●更年期障害の症状の原因

ホルモンバランスの乱れが自律神経の働きにも影響する

更年期障害は、卵巣機能の低下による女性ホルモンの分泌の減少と消失、社会的要因、心理的要因などが複雑に絡み合って起こります。 女性ホルモン分泌の減少と消失は、内性器や外性器の萎縮を生じさせますが、同時に下垂体からのゴナドトロピンの分泌を促します。 これが視床下部を刺激するため、その近くにある自律神経に影響を与えて自律神経の失調を招くのです。 更年期障害の主症状である血管運動神経障害や運動器系障害、感覚系障害、精神系障害は、まさしく自律神経の変調が原因です。 しかも、更年期に当たる年代は、子供の独立、親の介護、夫の定年などが重なって家庭環境は変化し、 健康や来るべき老後にも不安が生じ、夫婦間には不協和音が鳴り響いて、 心理的にも空の巣症候群などといわれるような追い詰められた気分を味わう時期に当たります。 こうした社会的、心理的要因はホルモンの変調、自律神経失調にさらに拍車をかけます。

◆女性ホルモンの分泌低下

更年期症状が起きる主な原因は、女性ホルモンの分泌量の減少と”ゆらぎ”です。 女性ホルモンには、「エストロゲン(卵胞ホルモン)」と「プロゲステロン(黄体ホルモン)」があります。 これらの女性ホルモンの最大の役割は「月経・妊娠・出産のコントロール」ですが、 「骨や血管を丈夫にする」「血中のコレステロールを調節する」「記憶力・集中力を保つ」「肌や髪の潤いや張りを保つ」 「気持ちを明るくし、精神を安定させる」など、全身に対しさまざまな働きで女性の体と心の健康を支えています。
ホルモン分泌の中枢は、脳の「視床下部」にあります。 視床下部から「下垂体」へ、下垂体から「卵巣」へと刺激が伝わって、女性ホルモンが分泌されます。 更年期になり、女性ホルモンの分泌が低下すると、分泌を高めようとして、視床下部の働きがさらに活発になり、下垂体を刺激します。 下垂体はより多くの性刺激ホルモンを分泌して、卵巣を刺激します。 ところが、卵巣が反応せず、女性ホルモンが分泌されないので、視床下部の過活動の状態が続きます。 視床下部には自律神経の中枢もあるため、その影響から自律神経失調症が起こると考えられます。 また、その影響は脳の感情などに関係する部位(大脳縁辺系)にも及び、精神症状が起こると考えられます。

エストロゲンの特徴は、分泌量が”波”のように増減することです。 思春期から老年期の一生にわたる大きな波と、月経周期ごとに現れる小さな波があります。 エストロゲンの分泌量が、大きく”ゆらぎ”ながら減っていく時期が、更年期です。 卵巣の機能は50歳前後で失われていきます。卵巣の働きが低下してくると、エストロゲンの分泌量にばらつきが出てきます。 脳は「エストロゲンをもっと出して」と指令を送りますが、卵巣はうまく応えることができません。 このような分泌量の”ゆらぎ”に脳が付いていけなくなると、自律神経のバランスが崩れてしまいます。 すると、ほてりや発汗、イライラ、憂鬱などの自律神経失調症が現れてくるのです。 ”ゆらぎ”始めのサインとしてわかりやすいのが、月経不順です。 早い人では30歳代の後半から、「月経周期が乱れてきた」「経血の量が多くなった・少なくなった」「1回の月経が長くなった」などの変化がみられます。

女性ホルモンは”ゆらぎ”ながら減少する

◆ストレスや性格の影響

その人の置かれた環境や性格なども、症状の現れ方に影響を与えています。 女性ホルモンの分泌低下に、環境から生じるストレスや、個人の性格などの要因が加わることで、更年期の症状が起こると考えられています。

ストレス
更年期は、多くの女性にとって環境が大きく変化する時期に当たります。 例えば、「親の介護」「夫婦の問題」「子供の独立」「経済的な問題」「職場での昇進や異動」など、環境の変化も多々あります。 このような「環境のストレス」も、更年期症状の要因の一つとされています。

▼性格
一般に、「几帳面、真面目で完璧主義」「頑張り屋で責任感が強い」などの性格の人は、ストレスの影響を受けやすく、 更年期の症状が出やすいといわれています。

●更年期障害の症状の検査

検査では血中のエストロゲン濃度などを調べる

更年期の症状を疑って受診した場合は、次のような問診や検査が行われます。

▼問診
どんな症状か、いつごろから現れているかなどを聞きます。

▼エストロゲンなどの測定
血液を採取し、エストロゲンや性刺激ホルモンの影響を調べます。

▼他の病気についての検査
他の病気が原因で、更年期のような症状が起こっている場合もあります。 必要に応じて子宮や卵巣、心臓、甲状腺、肝臓などの検査が行われ、他の病気の有無を調べます。

検査の結果、血中のエストロゲン濃度が低く、加えて性刺激ホルモンの濃度が高く、 他の病気がないことが確認された場合に、更年期障害であると診断されます。


■治療

不定愁訴の内容によって、治療方法も異なってきます。 治療方法には、「ホルモン補充療法」「薬物療法」「カウンセリングなどの心理療法」があります。

【関連項目】:『更年期障害の治療』


■日々のセルフケアで”ゆらぎ”を小さくする

更年期を乗り切るために、次の3つのことを覚えておいてください。
まず、「体や心の不調はあなたのせいではなく、更年期のせい」だということです。 2つ目は、「更年期には必ず終わりが来る」ということです。 そして3つ目は、「正しい知識を持って、適切に対処すれば、更年期をうまく乗り切れる」ということです。 セルフケアとしては、規則正しい生活を送るとともに、「栄養バランスのとれた食事」「適度な運動」「質の良い睡眠」を心掛けましょう。 それが、エストロゲンの分泌量の”ゆらぎ”を抑え、自律神経のバランスを整えることに繋がります。 また、ストレスが溜まっていると症状を悪化させます。これまで「100%頑張らなければ」と考えていたことも、 「70%で良し」と考えるようにし、できるだけストレスを溜めないようにしましょう。 「楽しい」「心地よい」と思える、自分のための時間を持つことが、とても大切です。

◆理想を実現するための準備期間

年齢的なステージの変化に対しては、加齢に抗う「アンチエイジング」ではなく、素敵に年を重ねる「ウェルエイジング」を目指すと楽になるでしょう。 例えば、よりよく年を重ねた理想のシニア女性像を考えてみてはどうでしょうか。 いくつになっても「趣味を持って、穏やかな日常を楽しんでいる」「若い人と楽しく会話ができる」など、 自分がなりたい将来の姿を具体的にイメージしてみましょう。 更年期は、その理想像を実現するための心と体を整える準備期間です。 人生のアクセルを緩め、時に寄り道もしながら、進めばよいのです。

◆”ゆらぎ”が治まれば、症状も落ち着く”

エストロゲンの分泌量の”ゆらぎ”が治まって、完全に閉経すれば、更年期症状は落ち着きます。 その一方で、骨粗鬆症脂質異常症動脈硬化などを発症しやすくなるため、注意が必要になります。

◆婦人科のかかりつけ医を持とう

更年期障害は誰にでも起こることですが、それで日常生活に差し障りが生じ、治療が必要となる人は2~3割といわれます。 更年期症状が辛いときは、婦人科を受診しましょう。40歳を過ぎると、子宮体癌や 卵巣癌などのリスクも高くなります。うつ病や甲状腺の病気、 関節リウマチなど、症状が更年期障害と間違われやすい病気もあります。 不正性器出血があったときに、更年期の月経不順、更年期の機能性出血などと安易に考えて、 発見を遅らせることがないよう、必ず受診して、重篤な病気ではないことを確かめておきましょう。 そこで、日本女性医学学会専門医をかかりつけ医として持つことが勧められます。 専門医の一覧で閲覧できます。