アトピー性皮膚炎
『アトピー性皮膚炎』は、皮膚炎を起こしやすい体質を持っている人に、 ダニやほこり、ストレスなどの悪化要素が加わることで発症します。 アトピー性皮膚炎は、皮膚に強い痒みを伴う湿疹ができ、”良くなったり、悪くなったり”を繰り返す慢性疾患です。 子供に多く見られ、思春期を過ぎると軽快する傾向があります。 大人の患者さんも少なくありませんが、そのほとんどは、子供のころに発症し、症状が続いているか、一度治まったものが再発したものです。 アトピー性皮膚炎は、医師の指導に基づく「治療」と、自分で行う「セルフケア」を同時に行うことで、日常生活に差支えのない状態を維持することができます。
■主な症状
「アトピー性皮膚炎」の症状は多様で個人差がありますが、強い痒み伴う、赤くブツブツとした湿疹ができるのが主な症状です。 急性期の湿疹では赤く腫れ、盛り上がりのある丘疹ができたり、ジクジクしたり、皮が剥けてかさぶたになったりします。 湿疹が長く続くと、皮膚が厚くごわごわになる苔癬化が起きたり、硬いしこりができたりします。多くの患者さんが強い痒みに悩まされます。 湿疹ができる部位にも個人差がありますが、顔、耳や首回り、脇の下、肘の内側や外側、太腿の付け根、膝の表側や裏側などに多く見られます。 症状の現れやすい部位は、年代によって異なります。乳児では主に顔や首、頭に湿疹が現れ、ひどくなると胸、背中、手足に広がります。 子供は、首の周り、肘関節の内側、膝関節の裏側などに多くみられます。 成人では、顔、首、背中など、主に上半身に現れ、症状が重くなる傾向があります。 いずれの場合も湿疹は体の左右対称に現れます。 アトピー性皮膚炎は、乳児では2ヵ月以上、その他の年代では6ヵ月以上、症状が続きます。
●皮膚の状態
皮膚は、細菌などの外敵が体内に入って来ないように守ると同時に、体の内側から水分が蒸発しないように守る機能(バリア機能)を担っています。 皮膚の外側には表皮があり、その下に真皮があります。バリア機能を担っているのは表皮の最も外側にある角層です。 アトピー性皮膚炎の皮膚では、細胞と細胞の間を埋めている角質細胞間脂質(セラミド)や、水分を捉えて放さない天然保湿因子が減少し、 バリア機能が低下しています。すると、外側からの刺激やアレルゲンが侵入しやすくなるとともに、体の内側から水分が蒸発しやすくなります。 アレルゲンが皮膚から侵入すると、体の外へ追い出そうとする 免疫細胞と結び付き、ヒスタミンという物質が作り出されるために炎症が起こります。 さらに痒みを感じる知覚神経が表皮まで伸びて、痒みを感じやすくなります。 そこで掻いてしまうと、バリアの状態がいっそう悪化して、痒みの悪循環に陥りやすくなります。
●大人のアトピー性皮膚炎
以前は成長によって次第に治っていく人も多かったのですが、最近では大人になっても快方に向かわず、悪化したり、慢性化してしまっている人も増えています。 大人のアトピー性皮膚炎は、長い間、湿疹がこじれて治りにくかったうえに、ステロイドの塗り薬の不十分な使用などが重なって起こっています。
■病気の仕組みと悪化因子
アトピー性皮膚炎は多因子性の疾患です。「皮膚炎体質」という皮膚炎を起こしやすい体質的な素因を持った人に、 ダニやほこり、ストレスなどの「悪化させる要素」が加わることで起こります。 皮膚炎体質には、「アレルギー体質」と「ドライスキン」の2つがあります。 発症のきっかけは、1つの因子によるものではなく、アトピー素因や皮膚のバリア機能低下などの体質的な素因と、 アレルギー症状を引き起こす物質(アレルゲン)や皮膚への刺激などの環境的な要因がいくつか絡み合って、 アトピー性皮膚炎の症状が現れると考えられます。そのため、悪化因子も患者さんごとに異なります。 発症や悪化に影響する因子には、食事、ダニ、ほこり、ペットの毛やフケ、洗剤や化粧品、大気汚染、細菌などの環境アレルゲンの関与などがあります。 また、皮膚を”掻く”ことによる刺激や汗なども悪化の要因となるほか、ストレスが悪化の要因になることがわかっています。 他に気候も影響するといわれており、夏に悪化する人もいれば、冬に悪化する人もいます
●アレルギー体質
「アレルギー体質」とは、本人または家族が アレルギーになりやすい体質であるか、 または、ダニや花粉などの異物が体内に入ったときに、体の中でアレルギー反応のもとになる免疫物質 「IgE抗体」という物質を作りやすい体質であるというアトピー素因を背景に発症する体質のことです。 アレルギー体質が関係する病気は他にも、 「喘息」 「アレルギー性鼻炎」 「食物アレルギー」などがあります。 アレルギー体質で、皮膚に症状が出やすい人はアトピー性皮膚炎となり、気管支に症状が出やすい人は喘息になることがあります。 なお、乳幼児期では、アトピー性皮膚炎と食物アレルギーが同じものと思われがちなのですが、これらは別の病気です。 ただ、食物アレルギーが、アトピー性皮膚炎と同じ時期に現れることが多いために、混同されやすいのです。 食物アレルギーは成長するに従ってほとんどが完治します。 食物アレルギーであれば医師の指導の下、原因となる食物を除いた食事を摂る必要があります。 しかし、アトピー性皮膚炎の原因が食物ではないかと心配して、むやみに食事制限することは子供の成長に悪影響を及ぼすことがあるので、避けてください。
●ドライスキン
アトピー素因がなくても発症することがあります。 皮膚の表面は「角層」で覆われています。さらに、角層の表面は「皮脂腺」から分泌された皮脂で覆われ、体内の水分が失われるのを防いでいます。 角層の細胞間は「角質細胞間物質(セラミド)」という物質で満たされ、水分はここに保持されています。 それと同時に、角層は、さまざまな刺激から体を守る役目(バリア機能)を果たしています。 しかし、もともと皮脂の分泌量が少なく、セラミドも不足していると、皮膚は著しく乾燥した状態になります。 これが「ドライスキン」です。ドライスキンでは、角層が剥がれ落ちたり、細胞間に隙間ができたりして、バリア機能が低下しています。 すると、外からのさまざまな刺激を受け、アレルギーの原因となる物質を侵入させてしまいます。 こうしたことが、アトピー性皮膚炎を発症しやすい状況を作っているのです。
●アトピー性皮膚炎を悪化させる要素
アトピー性皮膚炎の方に最も多く見られる悪化要素には、「ストレス」があります。
成人の方に多く、受験や就職などのストレスで、再発したり悪化したりすることがあります。
さらに、乾燥や手で掻くことも症状を悪化させる要素です。皮膚は乾燥するとそれだけで痒みを生じます。
痒いとつい掻いてしまいますが、掻くと皮膚は傷つき、皮膚のバリア機能はさらに低下します。
そして、ちょっとした刺激で湿疹ができやすくなり、さらなる痒みを引き起こすという悪循環が起こってしまうのです。
そのほか、汗をかいたままにしておくことも、症状を悪化させることになります。
また、「とびひ」などの皮膚の感染症を合併しやすくなります。
乳幼児期では食物アレルギーの合併が悪化要素となる人もいます。
ダニやほこりが悪化要素となることもあります。掃除や部屋の換気など、生活の中で悪化要素を減らす工夫をすることも治療に役立ちます。
■アトピー性皮膚炎の経過
- ▼乳幼児発症・短期間治癒
- 最も多いタイプです。乳幼児期(早い人で生後2ヶ月ころ)に症状が現れ、1歳~1歳半ころまでに自然に治ります。 ただし、再発することもあります。
- ▼乳幼児発症・ゆっくり治癒
- 乳幼児期に発症して、ゆっくりと症状が治まっていきます。 なかには、成人まで続く人もいます。長引けば長引くほど症状は重くなります。
- ▼いったん治癒・思春期以降再発
- このタイプの人の数は多く、短期間で治癒しても、5年程度で再発することがよくあります。
- ▼5歳児以降発症
- アトピー性皮膚炎患者の8割は5歳までに症状が現れますが、5歳以降に発症する場合もあります。 ただし、40歳以降に発症するのはごく稀です。
いずれのタイプも一進一退を繰り返すのが特徴です。乳児期では、短期間で症状が治まることも多いので、スキンケアを中心とした治療で対処します。 それ以外の年代で発症、あるいは再発した場合は、症状が悪化することがあるので、薬物療法を積極的に行い、症状をコントロールしていきます。
■アトピー性皮膚炎の治療
アトピー性皮膚炎の繰り返す症状をコントロールする
アトピー性皮膚炎の治療は、まず診断を受け、症状と重症度を把握するところから始まります。
治療では、「悪化要素」を見付けて、除去するための対策をとることと、
日頃の「スキンケア」で皮膚の乾燥を防ぎ、皮膚のバリア機能を正常に保つこと、
そして、炎症を抑えるための「薬物療法」が行われます。
アトピー性皮膚炎を起こしやすい体質そのものを変えるのは難しいのが現状です。
そのため、アトピー性皮膚炎は、よくなったり、悪くなったりを繰り返します。
しかし、適切な治療によって、生活に支障がない程度にまで症状を改善することができます。
これらのことをよく理解して、病気と根気よく付き合いながら、症状をコントロールするコツを身につけることが大切です。
【関連項目】:『アトピー性皮膚炎の治療』
■日常生活の注意
アトピー性皮膚炎には、基本的に皮膚のトラブルが起こりやすいという体質があります。 今ある病変部分が快方に向かっても、また新たな病変ができていきますので、常に悪化しないように皮膚の状態をコントロールすることが必要です。 日常生活では皮膚を清潔にし、乾燥させないように保湿を心がけてください。 シャンプーや石鹸も刺激の少ないものを選びましょう。 保湿剤は主治医の指示のもと選びましょう。
■アトピーとストレス
アトピー性皮膚炎を引き起こす要因の一つにストレスがあります。 アトピー性皮膚炎の患者さんには病気そのものも大きなストレスです。 まず、外見から見てすぐわかる症状、いつ治るかわからない不安、そして痒さなどの不快感。どれもストレスとなります。 アトピー性皮膚炎のストレスからくる鬱病もあるほどです。 ストレスはかゆみを引き起こし、症状を悪化させる要因でもあります。 ストレスは脳を通じて自律神経に伝わり、かゆみを増幅させることがわかっています。 そして掻けば掻くほどかゆみは増します。 最近、大人になってもアトピー性皮膚炎が軽くならないのは、不適切な治療などの他に、ストレスも隠れた要因ではないかといわれています。 まずは休養を取る、日常のストレスを溜めない、リラックスするなど、一つ一つの ストレスを取り除いたり、 スポーツなど気分を切り替える習慣を作るのもよいでしょう。 子供がアトピー性皮膚炎の場合、日々の環境を見直しましょう。 逆に積極的な心のケアによってアトピー性皮膚炎が快方に向かうこともあります。 皮膚の病気とはいえ、精神科の治療を取り入れることも行われています。