アトピー性皮膚炎の薬物療法

アトピー性皮膚炎の薬物療法』では皮膚をよい状態に保つ「スキンケア」が重要です。 それとともに、炎症を抑える薬や、かゆみを抑える薬による治療が行われます。 アトピー性皮膚炎の薬については、「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン」のなかで、基本的な使い方が定められています。 アトピー性皮膚炎の薬物療法は、外用薬で炎症を抑えるのが基本で、使用方法や使用量を正しく理解して続けていくことが大切です。 また、かゆみ止めを内服することもあります。

薬物療法の中心となるのが「ステロイド外用薬」です。 ステロイド外用薬は、その強さによって1〜5群までのランクがあり、患者さんごとに適切な強さの薬が使われます。 炎症の部位によっては、「タクロリムス軟膏」も用いられます。 浸出液が出ているような場合には亜鉛華軟膏が併用されたり、かゆみが強い場合に、内服薬として抗ヒスタミン薬か 抗ヒスタミン作用のある抗アレルギー薬が処方されることがあります。

これらの薬で十分な効果が得られない場合に、免疫抑制薬のシクロスポリン内服薬などを用いた治療が行われることがあります。 ステロイド外用薬を塗り続けると、”皮膚が黒くなる””皮膚が厚くなる””毒素が体に蓄積していく”などのうわさを耳にした人もいるかもしれません。 これらはすべて誤りですが、誤った先入観からステロイド外用薬を忌避しようとする患者さんが少なくありません。 医学的根拠のない民間療法などに頼って重症化させてしまう患者さんが、今も後を絶たない状況が続いています。 しかし実際は、ステロイド外用薬を適切に用いていれば、それだけで重篤な副作用が起きることはありません。 誤った使い方をして皮膚に問題が生じないようにするためにも、薬は、用法と容量を守り、正しく使うことが大切です。


■ステロイド外用薬

アトピー性皮膚炎の薬物治療の基本となる外用薬

「ステロイド」とは、もともと腎臓の上にある「副腎」という器官で作られる、ホルモンの一種です。 これを人工的に合成したのがステロイド薬で、炎症を抑える効果があります。1952年から使用されており、長い歴史を持つ薬です。 ステロイド外用薬は、リンパ球でサイトカインが作られるのを抑制することによって炎症を抑えるもので、皮膚の炎症を抑制する薬剤として、 アトピー性皮膚炎での治療では、最も有効な薬剤です。 さまざまな症状や条件で使いやすいように、効き目と副作用の強いものから弱いものまで5つのランクに分けられ、 患者さんの年齢や炎症が起きている部位、その重症度などを考慮して、適切な強さのものが処方されます。 部位を考慮するのは、薬の吸収率が部位によって大きく異なるためです。 顔や首など皮膚が薄いところは吸収率が高く、手や足などの皮膚が厚い部位では低くなります。 また、乳幼児は吸収率が高く、お年寄りも皮膚が薄くなっているので薬がよく吸収されます。 そのため、どちらも弱めの薬を使用します。 副作用を心配して、弱い薬を少しだけ塗るという使い方をすると、症状を抑えることができません。 医師が選択した薬を指示通りの分量で正しく塗る必要があります。


●ステロイド外用薬の正しい使用方法

「ステロイド外用薬」の効果を引き出すためには、必要となる量をきちんと塗る必要があります。 薬の量が少なすぎでは十分な効果は期待できません。適量のわかりやすい目安があります。 軟膏の薬を大人の人差し指の先から第一関節の線まで出すと、薬の量はおよそ0.5gです。 この量で大人の手のひら2個分の面積に塗ることができると覚えておきましょう。 医療機関で処方される軟膏は通常1本5gなので、手のひら20個分程度の面積に塗ることができます。 また、ローションタイプのものは、1円玉程度の大きさで、手のひら2個分を目安にしましょう。 通常、塗り始めて2〜3日で赤みやかゆみは治まります。 ただし、そこで使用をやめず、皮膚を指でつまんで硬い部位が柔らかくなるまで、10日〜2週間くらい続けて使用します。 途中で中止したりすると、かえって症状を悪化させてしまうこともあるので注意が必要です。


●ステロイド外用薬の副作用

ステロイド外用薬は、リンパ球以外の健康な細胞にも作用するため、使い方によっては副作用が現れることがありますが、重篤な副作用は心配ありません。 長期間使い続けると、皮膚の萎縮(皮膚が薄くなる)、毛細血管拡張、酒さ様皮膚炎、多毛などが起こりえます。 これらは特に顔面に起こりやすいため、顔面に使用するときは、弱いランクのものを短期間、医師が観察しながら使用します。 薬の使用中に異変が起きた場合は、速やかに医師に連絡しましょう。 継続的な使用を急に中止すると、症状が悪化する場合があるため、見た目がよくなったからといって自己判断で使用を中断せず、 医師の指導の下で徐々に減らしていくことが大切です。 副作用は、薬を塗った部分にだけ現れ、程度の軽いものがほとんどです。 治療が終了すれば、約50%の人は半年で副作用が治まります。


■タクロリムス外用薬(軟膏)

「タクロリムス外用薬(軟膏)」は、体の免疫反応が過度に高まっている状態を正常に整える働きがあり、 ステロイド外用薬と同じように皮膚の炎症を抑える働きがあります。 この薬が登場するまで、成人のアトピー性皮膚炎では、薬物療法(ステロイド外用薬)でも症状をコントロールできない患者さんが19%いましたが、 「タクロリムス外用薬(軟膏)」の登場で約6%に減少しました。
タクロリムス外用薬は、ステロイド外用薬とは作用の仕組みが異なり、リンパ球にのみ働きかける抗炎症薬です。 ステロイド外用薬の3群(ストロング)と同程度の効果が期待できます。長期間使用しても皮膚の副作用がほとんどないのが特徴です。 そのため、顔や首など皮膚が薄く、ステロイド外用薬の吸収率が高い部位に最適です。 副作用の心配がないというメリットから、症状の再燃を抑えることを目的に、週に2〜3回間欠塗布する寛解維持療法にも向いています。 ただし塗り初めのころに、ヒリヒリする感じや熱感を感じる場合がありますが、数日のうちに症状の改善と共に消失していきます。


●タクロリムス外用薬の使用量と注意点

日本で定められている成人の1日の使用量は、10g以内です。小児では、年齢や体重に応じて異なります。 使用する量の目安は、ステロイド外用薬と同じです。大人の人差し指の先から第一関節の線までの量(0.5g)で、大人の手のひら2個分の面積に塗ることができます。 タクロリムス外用薬(軟膏)は、にきびや傷ができている部位、皮膚がジクジクしている部位などへの使用は控えます。 口や鼻の中などの粘膜にも使用できません。 また、次のようなケースではタクロリムス外用薬(軟膏)は適応とはなりません。 皮膚のバリアが欠損している潰瘍面、掻き壊しによる損傷部位、魚鱗癖様紅皮症、皮膚感染症を合併している部位、重い腎臓病、 高度の高カリウム血症のある人、紫外線照射療法を受けている部位、妊娠中の人や授乳中の人、2歳未満の乳幼児などです。


■シクロスポリン内服薬

外用薬で十分な効果が得られないときは、シクロスポリン内服薬を服用します。 治療期間は患者さんごとに異なります。初回の治療で様子を見てから休薬期間を設け、通常は8週間、最長で12週間服用します。


■かゆみを抑える薬

かゆみ止めの薬として、内服薬の「抗ヒスタミン薬」「抗アレルギー薬」が用いられます。 これらは、かゆみを和らげることで、掻くことによる症状の悪化を抑えることができます。
副作用は少し眠くなる程度ですが、眠くなりにくいものも使われています。 痒くて眠れないほどの症状の人には、眠気を生じたほうが望ましいこともあるので、 担当医とよく相談して適したものを処方してもらいましょう。