乳癌(がん)
『乳癌』は、乳房組織に発生する癌腫です。
日本人女性が発症する癌の中で最も多く、患者数は年々増加しています。
世界中でもよく見られる癌で、西側諸国では女性のおよそ10%が一生涯の間に乳癌にかかるといわれています。
それゆえ、早期発見と効果的な治療法を達成すべく膨大な労力が費やされています。
また乳癌女性患者のおおよそ20%がこの疾患で死亡するといわれています。
乳癌にかかるリスクは年齢と共に増加します。
九十歳の女性の場合、その年齢までに乳癌に罹患した人の比率は12.5%であり8人に1人は罹患していることになります。
これは女性の癌の中では胃癌を越え、現在1位です。
そして、乳癌は、今後も増えていくと考えられています。
男性も乳癌に罹患することがありますが、1000人に1人程度です。
一方で、乳癌は早期に発見して適切な治療を受ければ、治る可能性の高い癌です。
しかし、日本の乳癌検診の受診率は低く、50~69歳の乳癌検診の受診率を調べたデータによると、
日本の受診率は41%と、諸外国に比べてかなり低い数字です。
早く見つけるためには、月に1回のセルフチェックと定期的な検査が大切です。
乳癌の主な治療には、手術・放射線・薬があり、治療は、単独で、あるいは複数の治療法を組み合わせて行われます。
どの治療法を組み合わせるか、また、それらをどの順番で行うかは、癌のタイプや進行度によって異なります。
■乳癌とは?
早期発見し、適切な治療を受ければ治る可能性は高い
「乳癌」は、日本人の女性に最も多い癌です。 年齢別に見ると、30歳代後半から増え始め、40歳代後半から50歳代にピークを迎えています。 しかも、新たに乳癌を発症した患者さんは1980年と比べると、どの年代も大幅に増加しています。 乳癌増加の背景には、食生活の欧米化と、それに伴って肥満傾向が強まったこと、画像診断等が進歩し、 多くの早期癌を発見できるようになったことなどがあると考えられます。 早期に適切な治療を行えば、10年生存率は95%以上と、乳癌の治療成績は上がっています。
●乳癌の発症リスクが高い人
乳癌のおよそ7割は、女性ホルモンのエストロゲンが発症に関係しいます。 初潮が11歳以下、閉経が55歳以上、初産が30歳以上・もしくは出産していない人は、 一生涯の月経の数が多く、その分エストロゲンにさらされている期間が長いので、乳癌のリスクが高いといわれています。 飲酒、 喫煙、 肥満も乳癌の発症リスクを高めることがわかっています。
●乳癌ができる場所
乳房には、母乳を作る小葉というブドウの房のような形の組織と、小葉で作られた母乳を乳頭まで運ぶ乳管という管があります。 この小葉や乳管にできる悪性の腫瘍が癌です。乳癌の約90%は乳管にでき、5~10%は小葉にできます。
■乳癌の発症リスク
遺伝子を調べて、将来の乳癌のリスクを知る検査
乳癌の5~10%は遺伝性といわれていて、発症リスクを調べる遺伝学的検査(遺伝子検査)もあります。 遺伝学的検査では、血液を採取して、乳癌と卵巣癌の発症に関わるBRCA1とBRCA2という2つの遺伝子の変異を受け継いでいるかどうかを調べます。 ただし、遺伝子変異があっても、必ずしも癌を発症するというわけではありません。 遺伝学的検査は、遺伝性乳癌を発症する確率が高い人が対象となります。 遺伝学的検査の費用は20万円程度と高額なうえ、プライバシーにも関わるので、検査を検討する場合は、カウンセリングを受けることが勧められます。 遺伝子カウンセリングでは、遺伝学的検査を受けるかどうかを判断するのに役立つ情報が提供されます。 具体的には、遺伝性乳癌における遺伝のかかわりについて、医学的影響・心理学的影響・家族への影響を理解することや、 家族構成や病歴からリスクの評価を調べるほか、遺伝性乳癌についての知識などです。 遺伝学的検査で遺伝子変異が見つかった場合、乳癌を発症していない人であれば、25歳から定期的に乳癌と卵巣癌の検診を受けます。 乳癌検診は、年に1回、より詳細なMRI(磁気共鳴画像)検査を受けたほうがよいでしょう。 希望があれば、自己負担によって乳房や卵巣及び卵管の予防的切除を受けるという選択肢もあります。 遺伝子変異があり乳癌を発症している場合は、基本的には乳房切除術を検討します。 将来反対側の乳房にも癌が発生する可能性があるので、乳癌の検診を定期的に行いましょう。
■乳癌の再発
乳癌の再発の場合も早めに見付けて治療することが大切です。 乳癌が再発したときの治療法は進歩しており、選択肢も増えています。
癌が見つかり、手術や薬物療法などを受けた後、検査で癌細胞が見つからなくなると、治癒したことになります。 その後、再び癌ができることを再発といいます。再発の場合も、なるべく早い段階で見つけることが大切です。 乳癌の再発率は、全体の約20%と考えられています。ただし、癌の進行度によって大きな差があります。 早期に治療できた場合より、進行した癌の場合には再発の確率が高まるといわれています。 乳癌には、非浸潤癌と浸潤癌があります。再発は浸潤癌で多く起こります。 浸潤癌の場合、癌細胞が乳管の壁を破って外へ広がり体のどこかに潜んでいると考えられます。 最初の治療の際には、手術や薬物療法、放射線治療法などが行われますが、それでも死滅せずに残っていた癌細胞が何年か後に大きくなり、発見されることがります。 乳癌の再発には、次の2つのの種類があります。
- ▼局所再発
- 手術をした側の乳房や、その周囲の皮膚やリンパ節に、再び癌が発症することを局所再発といいます。 皮膚の赤みやしこりなどの症状で再発に気付くこともありますが、自覚症状が現れないこともあります。
- ▼遠隔転移
- 骨や肺、肝臓、脳など、乳房とは離れた別の場所に癌ができることを遠隔転移といいます。 自覚症状は、転移した場所によって異なります。骨では痛み、肺では咳や息切れ、肝臓ではおなかの張りや倦怠感、 脳では頭痛や吐き気、手足の麻痺などが現れることがあります。また、局所再発と同様に、自覚症状が現れないこともあります。 遠隔転移の場合、乳癌細胞がリンパ液や血液の流れに乗って、他の臓器などに流れ着いて増殖するため、その癌は”乳癌の性質を持っている”といえます。 したがって、例えば肺に遠隔転移した場合、肺癌としてではなく、乳癌として治療を進めていきます。