骨盤臓器脱

膣から臓器が外に出て、股に何か挟まったような違和感があるのが骨盤臓器脱。 若い世代にも見られますが、特に50歳代以降の女性で増加します。 軽症なのに深刻に考えすぎたり、重症でも恥ずかしさなどから我慢してしまう人も少なくありません。 初期の場合では、自分でできる対処法があります。


■骨盤臓器脱ってどんな病気

骨盤臓器脱とは、膀胱や子宮、直腸といった骨盤の中の臓器が、本来の位置より下に下がり、膣から外に出てくる病気です。


骨盤臓器脱の種類


◆骨盤臓器脱の原因

膀胱、子宮、直腸などの臓器は、骨盤底という、骨盤の底の筋肉や靱帯などが支えています。 骨盤臓器脱は、その骨盤底が緩み、臓器を支えきれなくなることで起こります。 骨盤底が緩む原因には、複数の要因が関係しています。

▼妊娠・出産
妊娠中は胎児の重みで負担がかかるうえ、出産時には胎児の頭の通過で、骨盤底の筋肉などが傷つきます。

▼加齢
加齢とともに骨盤底の臓器を支える力は低下していきます。

▼肥満・便秘・重いものを持つ動作
いずれも骨盤底に余計な重みがかかります。

▼呼吸器の病気
喘息などの慢性的な咳は骨盤底に大きな負担をかけます。

また、「腹圧性尿失禁」も、骨盤底の緩みが原因の1つで起こるため、骨盤臓器脱と合併することがあります。


●骨盤臓器脱の進行

初期には、臓器は膣口ぎりぎりのところにとどまっています。 股の間に何かが下がるような下垂感や、重いものを持ち上げた時に違和感があり、入浴時に、あるいはトイレで、 股の間に”ピンポン玉のようなもの”に触れて気付く人が多くいます。 症状が強まるのは、夕方疲れた時、長時間歩いた後、立ち仕事をしているときなどです。 進行すると、朝起きた時から現れ、排尿障害や排便障害が起こります。 さらに進行すると、常に臓器が外に出た状態になり、下着に擦れて出血も伴います。


●骨盤臓器脱の症状

▼初期の場合
・お風呂でしゃがんでかけ湯をしたり、体を洗ったりするとき、トイレで排尿・排便をして拭くときなどに、股の間に何かが触れる。
・重いものを持ったり、力んだりしたとき、長時間歩いたときなどに、股の間に何かが下がってくるような違和感がある。

▼進行した場合
・股の間に何かが挟まった感じが続き、歩きにくく外出が億劫になる
・股から下がってきたものを、指で押しても戻りにくい
・下着に擦れて出血する
・蓋をしたように尿が出にくい
・尿が近くなる
・便を出そうとすると、何かが下がって出しにくい

●受診のタイミング

膣口に臓器が少し触れたり、膣の中で膨らんだ感じがする程度ならば、通常は受診を急がなくてもよいでしょう。 一方で、どうしても気になる、指で押しても戻りにくい、歩きにくい、排尿・排便障害があるなどの場合は、早めに受診してください。 受診する診療科は、産婦人科や泌尿器科です。骨盤臓器脱や尿漏れなどを専門的に診る女性泌尿器科やウロギネ外来などを設けている医療機関もあります。 受診時には、医師に「何か下がる感じがする」としっかり伝えることが大切です。 診察時に臓器が膣から出ていなくても、患者さんに咳払いやお腹にに力を入れてもらうことで、 医師は骨盤臓器脱があるかどうかを確認できます。子宮癌検診の際に、相談してみるのもよいでしょう。


■自分でできる対処法

初期症状が軽い場合は、症状の改善と悪化予防のための対処法があります。

▼生活の工夫
骨盤底に負担をかけないようにします。「重いものを持たない」「便秘で力まない」「体重を増やさない」の「3ない」を心掛けましょう。

▼指で押し戻す
排尿・排便の前や座る前に膣から出た臓器を指で押し戻します。 臓器が出ているのをそのままにしていると、血流が悪くなって症状が悪化します。 爪で傷つけないように、指でやさしく押し戻してください。服の上からで構いません。

▼骨盤底筋トレーニング
骨盤底の筋肉を鍛えることで、症状を改善し、悪化を予防します。腹圧性尿失禁を合併している人にも役立ちます。 2~3ヵ月続けると、効果を実感できるようになります。 トイレの後、入浴時、寝る前など、生活の中に組み入れてトレーニングすることが、長く続けるコツです。 なかなか効果が現れない場合や、正しくできているか不安がある場合は、医療機関を受診してください。

骨盤底筋トレーニング

骨盤底筋トレーニング


■骨盤臓器脱の治療・手術

進行した骨盤臓器脱では、装具を着用することで日常生活への支障を軽減する方法や、手術で根本的に治療する方法があります。


●装具による治療

骨盤臓器脱が進行すると、不快感が続いたり、日常生活への支障が大きくなります。 これらの症状を軽減する方法として、リング・ベッサリーやサポート下着などを使用する保存療法があります。

◆リング・ベッサリー

主に、手術を受けたくない人や高齢で手術が難しい人に適しています。 安全性の高い医療用シリコンでできた輪状のリング・ベッサリーを膣の中に挿入し、 下がっている膀胱や子宮などを支えることで、症状を軽減し、悪化を防ぎます。 最初に医療機関で、患者さんの膣口の開く大きさと膣内の広さ・深さ・肛門の筋肉の強さなどから、リング・ベッサリーのサイズや形状を決めます。 医療機関で定期的に挿入・交換する方法と、毎日自分で着脱する方法(自己脱着)があります。 自己脱着は、朝挿入し、就寝前に外します。長期継続使用と比べて膣壁への負担が少なく、望ましいとされています。 医療機関で指導を受け、数回、練習をすれば、自分で着脱できるようになるでしょう。 自己脱着の場合もも定期的な受診が必要です。

◆サポート下着

伸縮性のある特殊な素材でできていて、下着の上に着用すると、下垂感や違和感などの自覚症状が改善し「骨盤底が支えられている」という安定感があります。 サポート下着は単独で使用するだけでなく、リング・ベッサリーの脱落を予防するために併用する場合もあります。 ただし、健康保険が適用されるのはリング・ベッサリーのみで、サポート下着などは自費での購入になります。

◆その他の対策

生理用や尿漏れ用のパッドを当ててガードルなどで抑える方法、専用のクッションで抑える方法などがあります。


●手術を検討する場合は?

一般に、膣から臓器が3cm以上出ている場合は、手術が検討されます。 この段階になると、保存療法などでの改善は難しく、日常生活への支障が一層大きくなり、膀胱炎を繰り返したり、 腎臓の機能が低下したりする危険性もあるためです。 手術の方法は、主に次に3つがあります。

◆NTR手術(従来型手術)

▼方法
子宮を摘出し、前後の膣壁を縫い縮めることで膣壁を補強します。

▼長所
人口材料を膣内に入れないため、それによる合併症の心配がありません。

▼短所
再発率が10~30%と多いとされていますが、それを補う工夫もされています。

◆TVM手術(経膣メッシュ手術)

▼方法
基本的に子宮は摘出せず、膣から、膣壁と膀胱の間にメッシュを挿入し、膀胱や子宮などを支える骨盤底を補強します。

▼長所
お腹を切らず、手術時間が短いので、体への負担が少なくて済みます。 高齢者や他に疾患がある人にも適しています。再発率も少ないとされています。

▼短所
日本の報告では頻度が少ないものの、性交痛やメッシュによる合併症の可能性があります。

◆LSC手術(腹腔鏡下仙骨膣固定術)

▼方法
お腹に孔を数ヵ所開けて腹腔鏡と手術器具を入れ、メッシュで臓器を吊り上げるようにして仙骨に留め、補強する手術です。 通常は子宮体部(子宮の上半分)を摘出します。

▼長所
膣を切開しないので、性交痛が少なく、再発が少ないことです。傷痕も小さく、あまり目立ちません。

▼短所
手術時間が長い傾向があります。高度の肥満、緑内障、脳血管疾患、直腸癌がある人には勧められません。

●治療を選択するときは

治療は、初期の場合は骨盤底筋トレーニングなどの運動療法を中心に、進行した場合は装具による保存療法や手術を考えます。 年齢や症状によって、治療の選択は変わってきます。まずは自分の症状を理解して、どんな方法が自分に合っているのか、医師とよく相談してください。


骨盤臓器脱は、女性にはよくある病気です。症状や治療法を知り改善に繋げましょう。 基本的には命に関わる病気ではありませんが、中高年の女性の生活の質に大きな影響を与えます。 超高齢社会の中で生き生きと生活していくためにも前向きに対処しましょう。


装具の使い方