卵巣癌

早期発見が難しく、進行しやすい「卵巣癌」。年々増えている卵巣に発症する癌です。 日頃から気を付けたい自覚症状や、近年進歩している治療法について説明します。


■症状と特徴

卵巣は子宮の脇にある親指の頭くらいの器官で、女性ホルモンを分泌しています。卵巣癌はこの卵巣に発生する悪性腫瘍です。 初期にはほとんど症状がありません。そのうえ、卵巣は体内の奥まったところにある器官なので発見が難しく、進行した状態で見付かることがあります。 癌が進行すれば、腹部膨満感、下腹部痛、圧迫感があり、下腹部に硬いものを触れることから気が付きます。 卵巣の茎がねじれたり、破裂したりして、激痛から発見されることもあります。腹水、不正性器出血も発見の目安になります。 卵巣癌には、上皮性腫瘍の悪性群のほか、良性と悪性の中間にある境界悪性群も含まれます。 年々増加しており、年齢的には50歳前後に最も多くみられ、ついで80歳ころになるとまた増えてきます。

●卵巣癌は早期発見が難しい

「卵巣」は子宮の左右に1つずつある、親指くらいの大きさの臓器です。 エストロゲンとプロゲステロンという、2つの女性ホルモンを分泌しています。 また、閉経までの間、周期的に卵子を放出するという働きもあります(排卵)。 卵巣から放出された卵子は、「卵管采」から取り込まれて、「卵管」を通って子宮に送られます。 この卵巣に発生する癌を卵巣癌といいます。 卵巣癌が発生するメカニズムははっきりと解明されていませんが、「卵巣に発生するもの」や「卵管采から発生し卵巣に及ぶもの」、 そして「卵巣チョコレート嚢胞から発生するもの」があると考えられています。
卵巣癌は40歳代から急激に増えます。癌が発生しても症状がほとんどないうえに、お腹の中に広がりやすいのが特徴です。 残念ながら、現在(2020年)のところ、有効な検診や早期発見の方法は確立されておらず、早期発見の難しい癌だといえます。

卵巣癌が発生する部位


■原因

原因ははっきりとしていません。一般に、卵巣機能不全や子宮内膜症、不妊症、乳癌にかかったことがある人や、 月経異常がある人、出産経験がない人に卵巣癌が多いといわれます。 なお、BRCA1、BRCA2などの癌抑制遺伝子の変異が家族性の卵巣癌に関係しているとされ、家族に卵巣癌の経験者がいるときは症状がなくても、 年に1度は検査を受け、早期発見に努める必要があります。 問診、腹水を調べるほか、腫瘍の大きさを調べる内診や直腸診、画像診断、腫瘍マーカーなどから診断します。 病気は癌が卵巣内にとどまっているⅠ期から、腹腔を超えて転移しているⅣ期までの4期に分かれます。

●自分のリスクと自覚症状に注意

卵巣癌を発症しやすい要因としては、主に次の4つが挙げられます。

▼妊娠・出産がない
排卵時には卵巣から卵子が飛び出し、卵巣が傷つきます。 そのたびに卵巣は損傷と修復を繰り返していますが、その過程で、癌が発生することがあります。 妊娠・出産がない人は生涯の排卵回数が多くなるため、卵巣癌発症のリスクが高くなると考えられます。

▼40歳以上
排卵の回数が増えるほど、リスクが高くなります。

▼卵巣チョコレート嚢胞がある
卵巣に子宮内膜症が増殖する「卵巣チョコレート嚢胞」がある人は、卵巣癌が発生する可能性が約1%あるとされているので、 定期通院の際には、経膣超音波検査で、卵巣の状態もチェックしてもらうとよいでしょう。 嚢胞が大きい場合は、癌化を防ぐために、卵巣を摘出する手術の検討が勧められます。

▼血縁者に卵巣癌や乳癌歴がある
卵巣癌の約1割には遺伝的要因が関与しているとされ、血縁者に卵巣癌や乳癌を発症したことのある人がいる場合は、リスクが高いといわれています。 原因として「BRCA」という遺伝子の変異が指摘されており、両親どちらかに変異がある場合、子供に50%の確率で変異が受け継がれます。 ただ、変異があっても、必ず卵巣癌を発症するわけではありません。

◆見逃されやすい自覚症状

卵巣癌が進行すると、下腹部の張り、圧迫感、痛み、しこりなどが現れます。 下腹部の張りを中年太りなどと考え、見逃しがちですが、「食後でなくても、お腹が出ている」「圧迫感があってトイレに行きたくなるが、尿は出ない」 「風船のようにお腹が膨らんできた」などの場合は注意が必要です。 卵巣癌以外の病気の可能性もあるので、婦人科を受診してください。


■治療

病期によって治療は異なります。基本は手術です。卵巣癌が見付かった時点で、単純子宮全摘術や、両側付属器切除術、骨盤リンパ節郭清、 傍大動脈リンパ節郭清を行います。その後、抗癌剤で化学療法を加えます。 あるいは進行癌で手術がためらわれる場合には、術前に化学療法を行い、腫瘍が小さくなったところで手術をすることもあります。

●手術と抗癌剤治療を組み合わせて癌を取り除く

◆手術

両側の卵巣と卵管、子宮、大網(胃と大腸の間にある膜)の一部を摘出する手術が基本です。 癌が卵巣の片側だけにあるように見えても、目に見えない癌が転移していることが多いので、両側の卵巣と卵管を摘出します。 ごく早期で、癌の「組織型」によっては、片側の卵巣を残すことができるケースもありますが、再発リスクは高くなります。 担当医と十分に相談する必要があります。 癌が進行している場合は、前述の臓器に加えて、腸の一部やリンパ節なども切除します。 腸を切除した場合は、一時的に人工肛門が必要になることもあります。

卵巣癌の手術

◆抗癌剤治療

ほとんどの場合、手術後には抗癌剤治療が行われます。手術で取り切れなかった癌細胞を、抗癌剤で焼失させるのが目的です。 かなり進行した卵巣癌でも、組織型によっては抗癌剤がよく効きます。 そのため、先に抗癌剤で癌を小さくしてから、手術を行うこともあります。 抗癌剤治療は、複数の抗癌剤を組み合わせるのが基本で、「カルボプラチン」に、「パクリタキセル」または「ドセタキセル」を併用します。

◆抗癌剤以外の薬を使う場合も

最近では、新しい薬も登場しています。その1つが「分子標的薬」です。 癌細胞の中の特定の分子に狙いを定めて攻撃したり、増殖を抑えたりするもので、「ベバシズマブ」や「オラパリブ」などがあります。 副作用として、血圧が上昇したり、血栓ができたりすることがあります。 ごくまれですが、腸に小さな孔が開くことがあります。 また、「免疫チェックポイント阻害薬」という、免疫細胞に働きかけて癌細胞を攻撃させる薬も登場しています。 「ペムプロリズマブ」という薬で、ごく一部の卵巣癌に使用できる場合があります。
このように、いろいろな薬が登場しており、1つの薬で効果が得られなくても、他の薬を試してみることが可能です。 より効果の高い治療法の開発に向けて、さまざまな工夫がされており、さらなる進歩が期待されています。

<<再発した場合の治療>>

卵巣癌は比較的しやすいですが、再発した時期によって治療に使われる抗癌剤がことなります。 6ヶ月以内に再発した場合は、最初に使っていたものとは違う抗癌剤、 具体的には「リボソーム化ドキソルビシン」「ノギテカン」「ゲムシタビン」などを使って治療が行われます。 6ヶ月以上経ってから再発した場合は、最初に使ったものと同じ抗癌剤で治療が行われます。


■その他

●遺伝性の癌に心当たりがある場合は・・・

全国の癌診療連携拠点病院や大学病院などで、「遺伝カウンセリング外来」や「家族性腫瘍外来」の設置が進んでいます。 気になることがあれば、それらの外来で相談してみてください。 必要だと判断された場合には、血液検査による遺伝子検査が行われます。 検査で遺伝子の変異が見つかった場合、「卵巣癌になるかもしれない」という不安を抱えながら毎日を過ごすことになります。 予防的に卵巣と卵管を摘出するという選択も有効ではありますが、 卵巣がなくなることで、更年期症状や骨粗鬆症が起こりやすくなります。 遺伝子検査を受けるかどうかも含め、まずは前述のような専門的な医療機関でよく相談することが大切です。