■乳癌のタイプ別薬物療法
ホルモン剤、分子標的治療薬、抗がん剤の3つがある
●ホルモン剤
閉経の前と後では、女性ホルモンが作られる体の部位が違うため、使うホルモン剤の種類が異なります。 閉経前は、女性ホルモンは主に卵巣で作られます。その指令を出すのは脳の視床下部で、 それを止めるのがLH-RHアゴニスト製剤(注射薬)で、2~5年間続けます。 閉経後は、卵巣機能が低下し、副腎から出る男性ホルモンが乳腺組織の中でエストロゲンに変換されます。 この仕組みを阻害して、エストロゲンを減らすのがアロマターゼ阻害薬(内服薬)で、これを5~10年間使います。 ホルモン剤には、乳癌細胞がエストロゲンと結び付くのを阻害する抗エストロゲン薬(内服薬)もあります。 抗エストロゲン薬(内服薬)は、がん細胞がエストロゲンを取り込めないようにする薬です。 閉経前と後どちらにも使える薬で、5~10年間服用します。 閉経後のルミナルタイプの人に手術前にホルモン剤を投与すると、がんが小さくなり、乳房温存術率が上昇することも報告されています。
●分子標的薬
HER2たんぱくでがん細胞が増えるタイプに使われるのが、分子標的薬の抗HER2薬です。 HER2たんぱくが指令を出さないようにさせ、がん細胞が増えるのを抑えます。 抗HER2薬の使用期間は1年間で、通常ホルモン剤や抗がん剤と併用します。
●抗がん剤(化学療法)
ルミナルB、ルミナルHRE2、HER2陽性、トリプルネガティブに使われるのが、抗がん剤です。 がん細胞を死滅させたり、増殖を抑える効果があります。通常は、数種類の抗がん剤を併用します。 抗がん剤の使用期間は薬によって異なりますが、通常3~6ヵ月程度です。
●副作用について
それぞれの薬には、副作用があります。ホルモン剤では、ほてり、のぼせなどの更年期障害に似た副作用や関節痛があり、
骨粗鬆症のリスクもわずかに上がります。分子標的治療薬では、発熱や悪寒、まれに心機能の低下がみられます。
抗がん剤は、正常な細胞も攻撃してしまうため、他の薬よりも副作用が強く出る傾向があり、
吐き気、脱毛、下痢、口内炎、白血球の減少などがみられます。
副作用がある場合、薬による治療は中止せず対症療法を行ったり、他の薬に切り替えることで、症状を和らげます。
抗がん剤による白血球の減少に対してはG-CSF(注射薬)という白血球を増やす薬が2014年から保険適用になりました。
また、頭部冷却装置という装置を、抗がん剤を投与する際に帽子のように着けることで、脱毛の症状を予防する方法も注目されています。
治療薬によって副作用を抑える薬は異なります。担当医に相談してください。
●新薬の開発
乳癌は、がんの中でも遺伝子研究が特に進んでおり、タイプごとの特徴に合わせた薬が次々と開発され、現在、30種類以上が健康保険の適用となっています。
中でも、特に注目されているのが、2013年9月に承認されたT・DM1です。
これは、トラスツマブという抗HER2薬にDMI(エムスタジン)という抗がん剤を組み合わせた新しいタイプの薬です。
DMIは、昔からある抗がん剤ですが、効果は高くても全身の副作用が強く、実際にはあまり使われていませんでした。
しかし、HER2たんぱくを狙い撃ちするトラスツマブを組み合わせると、DMIががん細胞だけに働き、副作用が少なく、高い治療効果を発揮します。
現在は、手術できない進行乳癌か、再発乳癌にしか適用がありませんが、効果が極めて高い点が注目されます。
このような分子標的薬と抗がん剤を結び付ける技術が盛んに研究され、T・DMI以外の組み合わせも研究が進んでいるため、
今後、新しいタイプの薬が開発されることも期待されます。