肝臓癌の治療

肝臓癌は、治療法の進歩により、治療後の生存率が上がってきており、早期に見付けられれば、根治が期待できます。 根治が難しい場合も、薬による治療の選択肢が増えています。 治療法の選択には、癌の大きさや数、癌の発生場所、肝障害度が考慮され、手術や肝動脈塞栓療法、焼灼療法、抗癌剤などによる治療などがあります。


■肝臓癌の治療

癌や肝臓の状態を総合的に判断して選択される

かつて「肝臓癌」は、手術を受けても、その後の患者さんの状態はあまり良くないと考えられていました。 しかし、現在では、肝臓癌の治療後の生存率は年々向上しています。治療後の生存率が向上した理由の1つは、検査技術の進歩です。 もう1つは、さまざまな治療法が考案され、それがどの状態に有効なのか検証されてきたことです。 その結果、病状に応じた治療が選択できるようになりました。 肝臓癌の治療法は、主に「肝切除」「焼灼療法(ラジオ波熱凝固療法)」「肝動脈塞栓療法」「抗癌剤(分子標的薬)による治療」「肝移植」があります。 癌の大きさや数、場所、肝機能の程度などから総合的に判断され、適切な治療法が選択されます。 肝臓癌の多くはC型やB型のウィルス性肝炎脂肪肝などが原因で発症するため、 これらの肝臓の病気がある人は、定期的に検査を受けることが大切です。肝臓癌は早期の段階で発見できれば、根治を目指すことが可能です。

◆治療選択の3つのポイント

肝臓癌の治療法を選択するにあたっては、「癌の大きさや数」「癌の発生場所」「肝障害度」の3つが考慮されます。 肝障害度とは、肝機能がどの程度保たれているかを表したものです。 肝臓癌の治療で重要な意味を持つのは、肝臓癌が「慢性肝炎」「肝硬変」を経て発生する病気であるためです。 これらによって既に障害された肝臓に癌ができるため、障害の程度によって、選択できる治療法が限られることがあります。

◆症状が肝障害度の目安になる

肝臓の主な働きは、「有害物質の解毒代謝」「たんぱく質とブドウ糖の合成、貯蔵」「胆汁の合成、分泌」の3つで、 これらの働きが低下すると症状が現れます。 有害物質を解毒、代謝する機能がが低下すると、「アンモニア」などの有害物質が体内に溜まり、 脳の機能低下が生じる「肝性脳症」が起こります。 たんぱく質を合成する機能が低下すると、血管内の水分を保持できなくなって、 「むくみ」や腹部に血液の成分やリンパ液が溜まる「腹水」などの症状が現れます。 胆汁を合成、分泌する機能が低下すると、ビリルビンという黄色い色素が血中に増え、皮膚や白目が黄色っぽくなる「黄疸」が現れます。 肝障害度は、これらの症状の程度が目安になります。 症状がない場合は「軽度」、症状が時々現れる場合は「中等度」、常に現れている場合は「重度」と判定されます。

●治療①軽度から中等度の場合

肝切除かラジオ波による治療が中心となる

▼肝切除
肝障害が軽度から中等度で、転移がなく癌の数が3個以内の人が対象になります。 肝臓を部分的に切除し、癌を取り除く治療法で、これが第一選択肢になります。 できるだけ肝臓の機能を温存するために、肝臓に栄養素を含む血液を運ぶ「門脈」という血管に沿って、 肝臓を8つのブロックに分け、ブロック単位で切除する「系統的肝切除」という方法が行われています。 肝障害がない場合は、たとえ肝臓の約2/3を切除したとしても肝機能に影響はなく、 肝臓は数ヶ月で再生します。肝障害度が軽度なら、残された肝機能に応じて1/2~1/10までの切除が可能です。 中等程度の場合は、切除できる範囲は1/10以下になります。肝切除では、医師が直接肝臓を見ながら切除するため、 最近は、癌の取り残しを防ぐため、「ICG」という色素を手術の数日前に注射する方法も行われています。 通常は、腹部を大きく切断する必要がありますが、一部の患者さんでは、「腹腔鏡」を使った、 体への負担が小さい手術も可能です。

▼焼灼療法(ラジオ波熱凝固療法)
肝障害が軽度から中等度、癌の数が3個以内、癌の大きさが直径3cm以上の人が対象になります。 癌の直径が3cm以下でも、癌が肝臓内の主要な血管や胆管から離れている場合は「焼灼療法」も選択肢に入ります。 電磁波の一種である「ラジオ波」を使い、熱で癌を凝固する治療法です。 超音波画像で癌の位置を確認しながら、体外から細い針を刺し、針の先端の電極からラジオ波を出して癌を凝固します。 ラジオ波熱凝固療法は、肝切除に比べて患者さんの体の負担が小さくなります。 局所麻酔で行われる治療で、入院期間も3~5日程度です。ただし、癌が残っていないかどうかを直接目で見て確認することはできません。

●軽度から中等度の場合

▼肝動脈塞栓療法
肝障害度が軽度から中等度で、癌の数が4個以上、または2~3個で癌の大きさが直径3cmを超える人が対象となります。 太腿の付け根から血管内にカテーテルを挿入し、肝動脈まで送り込みます。 そして、癌とその周囲に血液を送っている動脈に抗癌剤を注入してから、ゼラチン粒子で血管を塞ぎます。 抗癌剤の効果と、癌の栄養となる血液を送れなくする”兵糧攻め”の効果を期待した治療法です。 進行した癌の場合でも肝臓癌の場合でも治療が可能ですが、一度の治療だけで癌を死滅させるのは困難なため、 繰り返し行う必要があります。

▼分子標的薬による治療
肝障害度が軽度から中等度で、癌の数が4個以上の人が対象となります。 分子標的薬は、根治が難しい場合の治療の中心になります。 また、癌が肝臓以外の臓器に転移している場合も分子標的薬による治療が行われます。 使われるのは「ソラフェニブ」という分子標的薬で、癌細胞の増殖を抑える作用と、癌に栄養を供給する新しい血管ができるのを妨げる作用で、 肝臓癌の進行を抑えます。これらの作用によって、病状が安定した状態を保つことができます。 副作用として、手足の皮膚に発疹や腫れ、痛みなどが出る「手足症候群」「高血圧」「下痢」などが現れることがあります。

●重度の場合

肝移植は、肝障害度が重度で、癌の数が3個以下、癌の大きさが直径3cm以内、65歳以下の人が対象となります。 癌が1個の場合は直径5cm以内まで可能です。 日本では、患者さんの肝臓をすべて摘出し、臓器を提供するドナーから健康な肝臓の一部を移植する「生体肝移植」が主流です。 肝移植が難しい場合は、薬物療法で症状を和らげ、患者さんの生活の質を向上を目指す「緩和ケア」が行われます。


肝臓癌の5つの治療法


■薬物療法

近年、大きく進歩している分子標的薬での治療

現在(2020年5月)、肝臓癌に使える分子標的薬は、レンバチニブ、ソラフェニブ、レゴラフェニブ、ラムシルマブの4種類です。 種類が増えると1つの薬で効果が見られなかった場合も、薬を変更して治療を続けられる可能性が高くなります。 現在は四次治療まで行えるようになり、癌の増殖を長期に抑え続けることも可能になりました。 最初に行われる一次治療には、効果が現れる確率の高いレンバチニブとソラフェニブのどちらかが使われます。 最近は、レンバチニブが使われることが多くなっています。二次治療からは、医師が効果や副作用を診て使う薬を判断します。

◆副作用への対処

レンバチニブの主な副作用は、血圧上昇、腎障害によるたんぱく尿、甲状腺機能の低下です。 ソラフェニブやレゴラフェニブには、手足に痛みなどが現れる手足症候群や下痢などの副作用があります。 ラムシルマブでは、血圧上昇、むくみ、たんぱく尿などが現れることがあります。 高血圧、たんぱく尿、甲状腺の病気などがもともとある場合は、レンバチニブを使用すると悪化する恐れがあるため、 一次治療にソラフェニブが使われることがあります。 副作用で血圧上昇がみられた場合は、降圧薬で血圧をコントロールします。 たんぱく尿や甲状腺機能の異常は、症状を自覚しづらいため、検査で定期的に調べることが重要です。 手足症候群が現れた場合は、保湿クリームで皮膚を保護したり、軟らかい靴を履くなど、痛みを軽減するための対策をとります。 分子標的薬による治療は、医師と相談しながら、長く継続していくことが大切です。


■肝機能を保つ生活を送ろう

肝機能が低下すると、肝臓癌の転移や再発が起こりやすくなります。また、肝機能が低下しすぎると、治療の選択肢が限られてしまいます。 肝機能を保つためには、日常生活を見直し、食事と運動によって筋肉量を維持することが重要です。 併せて、禁酒と禁煙に取り組むことが欠かせません。

▼食事のポイント
栄養のバランスを意識し、たんぱく質を摂ります。肉や魚に多く含まれますが、薬の副作用などで食欲が低下しているときは、 乳製品や卵、納豆、豆腐なども活用してください。 食事は1日4~5回に分けて摂りましょう。一度にたくさん食べると、肝臓で処理しきれなかった老廃物が体内に溜まり、 「肝性脳症」を引き起こす場合があります。 肝性脳症では、意識障害が起こったり、重篤な場合は昏睡状態に陥ることもあります。 この場合、たんぱく質を摂ると症状が悪化するため、控えます。

▼運動のポイント
ウォーキングを、できれば毎日行いましょう。 歩幅を広くし、腕を大きく振って全身を使って歩きます。 筋力トレーニングは、自分で行いやすい運動を週1回は行います。 安全のため、どのような運動を行うかについては、必ず医師に相談してください。