脂肪肝

肝臓には、体のエネルギー源となる栄養素を脂肪に変換して溜め込む働きがあります。 その脂肪がエネルギーとして使われずに、肝臓の細胞に過剰に溜まった状態が脂肪肝です。 脂肪肝は、成人男性の30%以上にあるといわれ、生活習慣病などが原因で起こります。 脂肪肝は、よくお酒を飲む人に多く、放っておくと肝硬変などに進行するといわれていましたが、 近年、お酒を飲まない人の脂肪肝でも、同様に進行する可能性のあることがわかりました。 肝臓の状態は、肝硬変になるまで自覚症状のないまま悪化するため、きちんと治療しましょう。 また、脂肪肝は、食事や運動などによって改善することができます。


■脂肪肝とは?

肝臓に脂肪が過剰に蓄積されている状態

「肝臓」には、「食物から摂った栄養素を体内で利用できる形に変える」「胆汁を作る」「老廃物などを解毒する」などの働きがあります。 病気で肝細胞の一部が障害を受けても、肝臓には十分な予備力があるため、なかなか症状が現れません。 そのため、肝臓は”沈黙の臓器”と呼ばれています。 肝臓は、食事で摂ったエネルギーを中性脂肪に替えて溜める働きがあり、脂肪を蓄えやすい臓器ですが、 肝細胞に脂肪が過剰に蓄積すると「脂肪肝」という病気になります。 肝細胞の5%以上に脂肪が溜まっていると脂肪肝と診断されます。男性の3人に1人、女性の5人に1人は脂肪肝があるという報告もあります。 脂肪肝をそのままにしていると、肝臓が次第に線維化して硬くなっていき、およそ10年で約2割が「肝硬変」に進むと考えられています。 肝硬変に進むと「肝臓癌」を発症しやすくなります。 また、脂肪肝が進むと、肝臓の中に溜められなくなった ブドウ糖が血液中に増えて、血管を傷つけ、 動脈硬化を進行させます。 脂肪肝のある人は、「心筋梗塞」「脳卒中」「腎臓病」などの発症リスクが、脂肪肝のない人の約2倍にもなるのです。


■脂肪肝の原因

脂肪肝の主な原因に「食べ過ぎ」「運動不足」があります。 ご飯やパンなどの炭水化物(糖質)が多い食品を摂ると、肝臓は、炭水化物が分解してできたブドウ糖をグリコーゲンに加工して、肝臓の中に溜めます。 このグリコーゲンは、しばらく使われていないと脂肪に変わり、そのまま肝臓内に溜まります。 そのため、食べ過ぎや運動不足によってグリコーゲンが余ってしまうと、やがて脂肪肝に繋がるのです。 「お酒の飲み過ぎ」も脂肪肝の原因になります。 お酒を多く飲むと、肝臓はアルコールの処理を優先するため、食べ物から摂ったブドウ糖の加工が後回しになり、脂肪として溜め込まれてしまうのです。 「肥満」も、脂肪肝の大きな原因です。 特に問題となるのが、胃や腸など内臓の周りに脂肪が溜まる「内臓脂肪型肥満」で、 お腹周りだけでなく、肝臓にも脂肪が溜まりやすくなります。内臓脂肪型肥満は中年男性に多いため、脂肪肝も中年男性に多くみられます。 ただし、女性の場合も、閉経後は内臓脂肪が増えやすくなるため、注意が必要です。 また、内臓脂肪は多くても皮下脂肪が少ないために、体型的には痩せて見える、いわば”隠れ内臓脂肪型”の場合も、脂肪肝がある可能性が考えられます。 そのほか、「脂質異常症」「糖尿病」「高血圧」などの生活習慣病がある人も、脂肪肝になりやすいことがわかっています。


●脂肪肝になりやすい人

お酒をよく飲む人や食事量の多い人は注意

脂肪肝は「生活習慣病」の一つで、食事などの生活習慣が原因で起こるといわれています。 特に、次の4つの項目に当てはまる人は脂肪肝になりやすいので注意が必要です。

▼お酒を毎日3合以上飲む
アルコールは肝臓で分解されるため、飲酒量が多いほど肝臓に負担がかかります。 また、アルコールが分解されると、肝臓で中性脂肪の合成が活発になり脂肪が蓄積されます。 脂肪肝になった後も多量の飲酒が続くと、肝臓への負担が重くなりすぎて、やがて脂肪肝炎、肝硬変へと進行します。

▼脂の多い料理や甘いものが好き
食事量が多いと、脂肪肝になりやすくなります。特に、脂っこい食事が多いと、肝臓に脂肪が溜まりやすくなります。 過剰な糖分も、肝臓に取り込まれて脂肪に変わり、肝臓に蓄えられます。 また、不規則な食生活も脂肪肝を招きやすくなります。

▼肥満があり、体をあまり動かさない
運動不足が続くと、使われなかったエネルギーが脂肪となり体内に蓄えられます。 肥満には、お腹に脂肪がたまる「内臓脂肪型肥満」と、皮膚の下に脂肪がたまる「皮下脂肪型肥満」とがあります。 このうち、内臓脂肪型肥満の人の方が脂肪肝になりやすいといわれています。

▼「糖尿病」や「脂質異常症」がある
糖尿病や脂質異常症(高脂血症)の多くは、食べ過ぎや肥満などが原因で起こります。 したがって、これらの病気がある人は、脂肪肝を合併していることが多くなります。 特に、糖尿病のある人は、脂肪肝の進行が早いので注意が必要です。

■”危険な脂肪肝”を見極める

脂肪肝は、ほとんどの場合、自覚症状がないので、早期発見のためには健康診断などの検査を受けることが欠かせません。 肝臓の線維化が進んでいることが分かった場合は、より精密な画像検査を受けることになります。 その結果、線維化がさらに進んでいることが分かった場合には、体の外側から肝臓に針を刺して組織の一部を採り、顕微鏡で調べる「肝生検」が必要になります。 肝生検を行うのは、脂肪肝が「危険なタイプ」かどうかを見極めるためです。 脂肪肝は大きく、お酒の飲み過ぎが原因の「アルコール性脂肪肝」とお酒の飲み過ぎが原因ではない「非アルコール性脂肪肝」に分けられ、 非アルコール性脂肪肝は、さらに、「単純性脂肪肝(NAFL)」と 食べ過ぎなどによる肥満が原因の「脂肪肝炎(NASH)」に分けられます。 単純性脂肪肝(NAFL)は、肝臓に脂肪が溜まっているだけで、それほど危険ではありません。 一方、脂肪肝炎(NASH)では、肝臓内の脂肪の蓄積に加えて、慢性的な炎症が起こっており、危険なタイプといえます。 NASHは、肝硬変に進行しやすく、一般に10~25年、早ければ数年で肝硬変に進行します。 そのため、NASHがあるとわかった場合は、早急に対策に取り組む必要があります。

▼アルコール性脂肪肝
お酒の飲みすぎが原因で起こります。 肝臓は、アルコールの解毒や栄養素の加工・貯蔵など様々な働きをしています。 お酒を多く飲むとアルコールの解毒が優先され、処理しきれなかった中性脂肪が肝細胞に溜まっていきます。 お酒と腸内細菌の関係も注目されています。バリア機能に関わる腸内細菌の環境をアルコールが破壊します。 本来は肝臓に届くはずのない細菌(毒素)が届いてしまい、肝臓に障害を引き起こすと考えられています。 アルコール性脂肪肝を改善するには、お酒をやめることです。お酒をたくさん飲む人は、節酒を心がけましょう。 一気にはやめられなくても、まずは1日にビールなら中瓶1本程度、ワインならグラス1杯程度に抑えることを目標にしましょう。

▼非アルコール性脂肪肝
お酒を習慣的に飲まない人に起こる脂肪肝で、食べ過ぎや肥満などの生活習慣が原因で起こります。 食べ過ぎで脂質やエネルギーを過剰に摂取すると処理が追いつかず、肝臓に中性脂肪が溜まるのです。 非アルコール性脂肪肝には、単純性脂肪肝(NAFL)脂肪肝炎(NASH)があり、 約80%は単純性脂肪肝で、約20%がNASHと考えられています。 これまで、お酒が原因の脂肪肝に関しては、肝臓に炎症が起こる「脂肪肝炎」や、肝臓が線維化して硬くなり正常に働かなくなる「肝硬変」、 そして「肝癌」にまで進行することがわかっていました。 一方、これまで肥満が原因の脂肪肝は、肝硬変などには進行しないと考えられていました。 しかし近年、このタイプでも、お酒が原因のタイプと同様に、肝硬変などに進行する可能性のあることがわかってきました。 肥満が原因のタイプのうち、約1割が脂肪肝炎へと進み、その後約5~10年で約1割に肝癌が発生するという報告もあります。 単純性脂肪肝は、40~50年かけてゆっくり肝硬変に進み、肝臓に慢性肝炎のある脂肪肝であるNASHは、 20~25年と単純性脂肪肝の2倍の速さで肝硬変に進行します。さらに、肝硬変から肝癌へと進行する場合があります。 日本人は欧米人に比べて、軽度の肥満でも体に影響があることがわかっています。 近年、肥満が増えており、お酒が原因の脂肪肝はあまり増えていませんが、肥満が原因の脂肪肝は増え続けています。 非アルコール性脂肪肝は、男性に多いのが特徴です。 男性は30歳代から、女性は更年期を迎える50歳以降になると増え、60歳でピークになるとされます。 また、 「肥満」「メタボリックシンドローム」「脂質異常症」「糖尿病」「高血圧」などがあると発症しやすくなります。

脂肪肝は生活習慣病の1つに挙げられており、成人の男性で脂肪肝のある人の割合は、30%を超えています。 脂肪肝は、自覚症状がほとんどありません。しかし、放っておくと、肝臓が線維化していき、 「慢性肝炎」「肝硬変」「肝臓癌」へと進行していくことがあります。 また、脂肪肝は「動脈硬化」を招くため、 「心筋梗塞」「脳卒中」を起こしやすくなることがわかっています。


■脂肪肝を調べる検査

一般的なのは血液検査。早期発見には超音波検査が有効

脂肪肝はほとんど自覚症状がないため、気付きにくいのが問題です。 そこで、強い肥満のある人や脂肪肝になりやすい人の項目に当てはまる人は、一度消化器科などの専門医を受診しましょう。 受診すると、まず肥満度や腹囲がチェックされ、「問診」で医師から飲酒の習慣などについて聞かれます。 糖尿病や高血圧などの状態も確かめます。脂肪肝が疑われたら、次のような検査を行います。

▼血液検査
脂肪肝の検査で、最初に行われるのが血液検査です。 肝細胞がどれくらい破壊されているかを示す「GOT(AST)」「GPT(ALT)」「γ-GTP」の値などを調べます。 基準範囲を超える項目がある場合は、肝臓の病気が疑われます。 ただし、脂肪肝の初期は数値が出にくく、なかには脂肪肝が進行していても数値が高くない人もいます。

▼超音波検査
おなかに超音波を当てて調べる超音波検査を行い、肝臓が白く写る場合は、脂肪肝と診断されます。 最も広く行われている方法で、血液検査では発見できない初期の脂肪肝も発見できます。 ただし、脂肪肝と脂肪肝炎の区別がつかないことがあります。 脂肪肝と診断されたら、線維化の状態や癌の有無などを調べるために、さらに詳しい検査を行う必要があります。

▼肝生検
「肝生検」が行われることもあります。 肝生検は、肝臓に針を刺し、肝臓の組織を採取して顕微鏡で観察する検査で、脂肪肝炎の有無などを調べることができます。 ただし、体への負担が大きく、1~2日の入院が必要です。

▼MRエラストグラフィーや超音波エラストグラフィー
最近では、患者さんに負担をかけずに肝臓の状態を調べられるMRエラストグラフィーや超音波エラストグラフィーが注目されています。

▼CT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像)
これらの検査で肝硬変や肝臓癌が疑われた場合は、CT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像)などの画像検査が行われます。

■脂肪肝の治療

食事療法と運動療法が効果的。続けることで改善する

脂肪肝は生活習慣と関わりが深いので、タイプに関わらず、肝硬変に進むのを抑えるためには、生活習慣を見直して改善することが大切です。 食べ過ぎ・運動不足・肥満が原因の場合は、バランスのよい食事を摂り、適度な運動を行うことが基本となります。 脂肪肝のある人が同じ生活を続けていると、気付かないうちに肝臓の状態が悪化していきます。 次の点に注意して、生活習慣を改善しましょう。

▼節酒
お酒の飲み過ぎが原因の場合は、お酒をやめるのが原則ですが、難しい場合は、「まずは週2日の”休肝日”を設ける」などで少しずつ飲酒量を減らしたり、 必要に応じて、飲酒欲求抑制薬を使うこともあります。肥満が原因の人も、お酒は適量にしましょう。

▼食事療法
肥満がある場合は、1ヵ月に2~3kg減らすことを目標に、無理のないペースで減量を行うと、肝臓の脂肪が減りやすくなります。 また、NASHがある場合、体重が7%以上減ると、肝臓の炎症が治まると考えられています。 食べ過ぎに注意し、脂質や糖分の多い食べ物を控えます。たんぱく質、ミネラル、ビタミンなどの栄養をバランスよく摂りましょう。

▼運動療法
運動は、無理なく続けられることが重要です。 ウォーキング自転車漕ぎなどの有酸素運動を1日20~30分行うことが勧められます。 時間が取れない場合も”通勤時に1駅手前で下車して歩く””エレベーターをできるだけ使わない”など、日常生活の中に運動を取り入れるとよいでしょう。 また、最近、筋力トレーニング(筋トレ) にも脂肪肝を改善する効果があることがわかってきました。 筋肉には、アンモニアの分解やブドウ糖の貯蔵など、 肝臓と同じ働きもあります。筋トレで筋肉量を増やすことで肝臓の機能の一部が筋肉で補われるため、肝臓が脂肪の処理を行えるようになるのです。

こうした生活習慣は、脂肪肝の予防にも役立ちます。また、お酒を飲む場合は適量を守りましょう。 日本酒なら1日1合が適量で、1週間に2日は休肝日を設けます。脂肪肝の改善には、これらを1~3ヶ月以上続けることが大切です。


生活習慣改善のポイント