■ピロリ菌の除菌治療とは?



●除菌治療の対象となるのは?

▼除菌治療の適用範囲
ピロリ菌の除菌治療については、現在、前述した①~⑤の場合に健康保険が適用されます。 最初に胃・十二指腸潰瘍に対する効果が明らかにされ、日本でも2000年からピロリ菌の検査と除菌治療に健康保険が適用される ようになりました。その後、09年に日本ヘリコバクター学会が全てのピロリ菌感染症に対する除菌治療を推奨したのを受けて、 10年から胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少紫斑病、早期胃癌に対する内視鏡治療後の患者さんにも適用が認められました。 そして今年(2013年)、胃炎にも適用が拡大されました。ピロリ菌に感染している人はまず胃炎が起こり、そこからさまざまな 病気が派生します。胃炎への適用拡大は、すべてのピロリ感染症が除菌治療の対象になったことを意味しています。

▼どのような胃炎の場合に、ピロリ除菌を検討するのか?
健康保険の適用に関しては、内視鏡で胃炎を確認することが条件になっています。 そののち、ピロリ菌に感染しているかどうかを検査し、感染があればピロリ菌感染胃炎という病名のもとに除菌治療をする という流れです。この順に行えば、検査も含めて健康保険が適用されます。

▼なぜ内視鏡検査が必要なのか?
胃炎という言葉は広い意味で用いられ、患者さんが訴える胃炎は、胃が重い・痛むといった症状に基づいたものです。 こうしたいわゆる胃炎症状があるからといって、やみくもに除菌治療をするのではないということです。 また、内視鏡検査をすることによって、早期胃癌をチェックするのも、大きなねらいになっています。


●ピロリ菌の除菌によってどのくらいの効果があるか?

▼胃潰瘍の再発は予防できるか?
胃・十二指腸潰瘍の患者さんの80~90%にピロリ菌がおり、これが主な原因であることがわかっています。 潰瘍はプロトンポンプ阻害薬やH2ブロッカーなどの胃酸分泌を抑える薬を飲めば治るのですが、 何もしなければ、1年以内に70~80%の人で再発します。H2ブロッカーなどで維持療法をすると約25%になりますが、 ピロリ菌除菌を行うとそれが2~3%に抑えられます。

▼胃MALTリンパ腫では?
胃の粘膜にあるリンパ組織から発生する悪性腫瘍で、約70%がピロリ菌感染から起こると考えられています。 ピロリ菌の除菌によって、胃MALTリンパ腫の60~80%は縮小したり治癒(寛解)するため、治療の第一選択となっています。

▼特発性血小板減少性紫斑病では?
原因不明で、血小板が減って出血症状が起こる病気ですが、ピロリ菌に感染している人では、除菌により半数以上で 血小板が増加することがわかっています。

▼早期胃癌の内視鏡治療後では?
癌を取り除いた後の予防的な治療ですが、一度胃癌になった人をピロリ菌の除菌をしなかった群で見た研究では、 3年間での新たな胃癌の発生が除菌した群で1/3になりました。除菌すれば胃癌になりにくくなるのは明らかです。

▼慢性胃炎が治る?
胃粘膜の炎症は大抵治まります。ただ、胃が重い・痛いといった症候性胃炎では、症状がよくなるのは1/5ほどの人で、 その他の4/5の人は、ピロリ菌以外の要因が大きいと考えられます。

▼どういう場合にピロリ菌の除菌が有効?
除菌薬を使えない場合などを除き、ピロリ菌に感染している胃炎の人には、すべてに除菌が勧められます。 胃潰瘍や胃癌も胃炎の段階を経て起こります。ピロリ菌感染胃炎の除菌治療は、最大の危険因子を取り除くことになるのです。


●ピロリ菌がいるかどうかはどうすればわかる?

ピロリ菌の有無を調べる検査には、内視鏡によって採取した組織を用いる方法と、内視鏡を用いずに感染を調べる方法があります。 内視鏡を用いる方法には、採取した組織を検査薬の色の変化で見る「迅速ウレアーゼ試験」、顕微鏡で調べる 「組織鏡倹法」、培養して調べる「培養法」があります。内視鏡を用いない方法には、検査用の尿素を飲んで 吐きだした息を調べる「尿素呼気試験」、血液や尿でピロリ菌に対する抗体の有無を調べる「抗体検査」、 便に出たピロリ菌の成分を調べる「便中抗原検査」があります。

▼どういう場合にどの検査を受けるのか?
内視鏡で胃炎を確認する検査を行うなら、その際に組織を採って迅速ウレアーゼ試験を行うことが多いでしょう。 内視鏡を用いない場合は、尿素呼気試験か抗体検査がよく行われます。ピロリ菌がいることは、通常、 一つの検査を受ければわかりますが、いないことを確認するために、必要に応じて2つの検査を行うこともあります。


●除菌治療を行えない人、注意する人もいる?

▼除菌薬を使えない人もいるのか?
ペニシリン系の抗生物質を使うので、ペニシリンアレルギーのある人には使えません。 また、肝臓や腎臓の病気がある人は、病気を悪化させたり、薬の副作用が強く出たりする恐れがあるので使いにくいです。

▼高齢でも除菌治療は受けたほうがよい?
何歳まで除菌治療をした方がよいという年齢では決められません。 胃癌のリスクが1/3に減るのは、高齢者にもメリットがあるでしょう。 また、高齢者は薬による胃潰瘍が多く、ピロリ菌がいると潰瘍が起こりやすいので、痛み止めの非ステロイド性抗炎症薬や、 血栓予防のための低用量アスピリンを長期に飲む治療をする人などは、さきに除菌をしておくと潰瘍の予防につながります。


●ピロリ菌除菌治療はどこで受けられる?

▼内視鏡検査を行っていない医療機関でも、ピロリ菌感染の除菌治療は受けられるのか?
ピロリ菌の検査や除菌治療は行えます。かかりつけの医療機関で内視鏡検査ができない場合には、検査だけを他で受ける こともできます。健康診断などの内視鏡検査で胃炎が見つかった人は、その結果を持参すれば、内視鏡検査を省いて ピロリ菌の除菌を受けることもできます。ただし、半年あるいは1年以内くらいの最近の検査であることが求められます。

▼除菌治療を行った人の中に、治療後の除菌判定を受けていない人、初回の除菌(一次除菌)に失敗したままの人も 少なくないといわれるが、こういう人はどうすればいいのか?
まず現在、ピロリ菌がいるかどうかを検査で確かめ、除菌に失敗しているようなら、再度除菌(二次除菌)を行うことが できます。以前に自費で一次除菌を受けた人も、二次除菌には健康保険が適用されます。