ピロリ菌感染胃炎の予防

中高年の8割が感染しているといわれるピロリ菌(ヘリコバクターピロリ)は、 胃炎胃潰瘍胃癌を招く細菌として今大問題になっています。 胃の粘膜の表面に起こる炎症を胃炎といいますが、 慢性的に炎症を生じる胃炎のほとんどはピロリ菌の感染が原因で起こるピロリ菌感染胃炎です。 ピロリ菌感染胃炎が進行すると、胃癌を発症する危険性がが高くなります。 ピロリ菌に感染している場合は、 除菌することが重要です。


■ピロリ菌感染胃炎とは

胃の粘膜の表面に起こる炎症を胃炎といいます。食べ過ぎや飲み過ぎなどによる急性胃炎とは異なり、 慢性的に炎症を生じる胃炎のほとんどはピロリ菌(ヘリコバクターピロリ)の感染が原因で起こるピロリ菌感染胃炎です。 ピロリ菌は、免疫の働きがまだ十分に発達していない幼少期に感染しやすく、口から入って胃の粘膜に住み着きます。 感染すると、ピロリ菌が出す毒素によって胃の粘膜が損傷を受け、感染して数週間から数か月間でほぼ100%の人がピロリ菌感染胃炎を発症します。 しかし、ピロリ菌感染胃炎が起こっても、ほとんどの場合、自覚症状はありません。

▼胃の粘膜の変化
ピロリ菌感染胃炎を発症すると、胃酸を分泌する細胞が破壊されていきます。 個人差はありますが、胃の粘膜の損傷は数十年かかって徐々に進行するため、40~50歳代で、多くの場合、胃の粘膜が萎縮した状態になる 萎縮性胃炎が起こります。 とくに、ピロリ菌感染胃炎を発症しているところに、ストレスが続いたり、 塩分の多い食品を摂り過ぎたりすると、胃の粘膜の萎縮が速く進みやすいことがわかっています。 萎縮性胃炎が起こっても、ピロリ菌感染胃炎の場合と同様に、自覚症状がない場合がほとんどです。 萎縮性胃炎の状態が続き、胃酸がほとんど分泌されなくなると、胃酸から粘膜を守る必要がなくなるため、 胃の粘膜に似た組織に変異する腸上皮化生が起こることがあります。

▼胃癌の発症
萎縮性胃炎が起こると胃癌を発症する危険性が高くなります。 まれに、ピロリ菌感染胃炎から萎縮性胃炎を経ずに胃癌を発症する場合もあります。 また、ピロリ菌に感染している人は、喫煙していると、胃癌が起こりやすくなうとされています。 ピロリ菌感染者の男性に7人に1人、女性の14人に1人が胃癌を発症すると考えられています。

■ピロリ菌検査と除菌治療

▼ピロリ菌検査
胃癌を予防するためには、内科や消化器内科などでピロリ菌に感染しているかどうかを調べるピロリ菌検査を受けることが大切です。 内視鏡検査などで胃炎が確認された場合に行われるピロリ菌検査には、現在、6種類の検査法に健康保険が適用されています。 最も正確な検査法として推奨されているのは、試薬を服用したのち、吐く息を採取して調べる尿素呼吸器試験と、 便の中にピロリ菌が含まれているかどうかを調べる便中抗原検査です。 内視鏡で胃の組織を採取して調べる検査法には、迅速ウレアーゼ試験、鏡検法、培養法があります。 そのほか、血液検査や尿検査で調べる抗体測定があります。 ただし、一度でもピロリ菌の除菌治療を受けたことがある場合は、抗体測定では正確な結果が得られないことがあるので、 他の方法で検査を受けるようにしましょう。 腸上皮化生に進行すると、ピロリ菌が住めない状態になるため、ピロリ菌検査を受けても陰性となる場合があります。 過去に胃潰瘍や胃炎を発症した経験がある中高年の人がピロリ菌検査を受ける際には、腸上皮生が起こっていないかを確認することが重要です。

▼除菌治療
ピロリ菌検査で陽性の場合は、胃癌を予防するためにピロリ菌の除菌をすることが必要です。 男女ともに20~30歳代でピロリ菌の除菌をすると、 胃癌の発症をほぼ予防することができるという研究報告があります。 そのため、15歳くらいから30歳代までに除菌治療を受けることが勧められます。 除菌治療を受けた年齢が高くなるほど、胃癌の予防効果は低下していきますが、40歳を過ぎてからピロリ菌感染が分かった場合でも、 胃癌を発症する可能性を減らすために、速やかに除菌治療を受けましょう。 一方、幼いうちにピロリ菌の除菌治療を受けても、再感染する可能性があります。 また、除菌治療では、抗菌薬を服用するため、副作用に注意が必要です。