糖質制限

重要なエネルギー源として、毎日の食事に欠かすことができない糖質。 摂り過ぎは問題ですが、過度の糖質制限にも注意が必要です。


■糖質とは?

炭水化物、タンパク質、脂質は三大栄養素と呼ばれています。 このうち炭水化物は、食物繊維と、 分解・吸収されてエネルギー源となる糖質とに分けられます。 この糖質には、2つの種類があります。1つは、ご飯、パン、麺類、芋類に多く含まれるデンプンのように、多くのブドウ糖が結合しているタイプの糖質です。 もう1つは、砂糖、ブドウ糖、果糖のような形の糖質です。

◆ブドウ糖に分解されて全身へ

炭水化物を食べると、糖質は分解されて ブドウ糖の形になり、小腸で吸収されます。 吸収されたブドウ糖は肝臓に送られ、一部はグリコーゲンの形で蓄えられ、蓄えられなかった分が血液に乗って全身に送られます。 この血液中のブドウ糖を「血糖」といいます。 ブドウ糖は、脳や筋肉でエネルギー源として使われたり、グリコーゲンとして筋肉に蓄えられたり、中性脂肪として脂肪組織に蓄えられたりします。 タンパク質や脂質もエネルギー源となりますが、糖質は人間の体にとって、最も活用しやすい栄養素です。


糖質が取り込まれる仕組み


■摂り過ぎると肥満、食後高血糖に

このように、糖質は欠かすことのできない重要な栄養素ですが、摂り過ぎると次のようなことが起こります。

◆中性脂肪が蓄積して「肥満」へ

肥満とは、消費するエネルギー量よりも摂取するエネルギー量が多い場合に、 余ったエネルギーが脂肪として体に過剰に蓄積してしまった状態のことです。 食事で糖質を摂ると、膵臓から血糖値を下げるインスリンというホルモンが分泌されます。 このインスリンの働きにより、血液中のブドウ糖は肝臓や筋肉に取り込まれ、グリコーゲンの形で蓄積されます。 また、インスリンの指令によって、血液中のブドウ糖は脂肪組織にも取り込まれます。 この時、ブドウ糖は中性脂肪の形で蓄えられるため、糖質を摂り過ぎると、体脂肪が増えてしまうのです。

◆急激に血糖値が上がる「食後高血糖」

食後は誰でも一時的に血糖値が上がります。しかし、人によってはこの上がり方が急激で、空腹時の血糖値は正常なのに、 食後だけ血糖値が異常に高くなってしまうことがあります。これを「食後高血糖」といいます。 血糖値が急激に上昇すると、血管はダメージを受けます。 こうして動脈硬化が進むと、 心筋梗塞脳梗塞などの危険性が高くなります。 食後高血糖を防ぐには、食後の血糖値が急激に上がらないようにしなければなりません。 下記に挙げたような点に注意しましょう。 砂糖などは、食後すぐに分解・吸収されるので、血糖値の急上昇を招きやすく、摂り過ぎには注意が必要です。


血糖値を急に上げないコツ


■糖質制限

私たちが生きていくためのエネルギーを生成するエンジンは2種類あります。 1つは解糖エンジン、もう1つはミトコンドリアエンジンです。 解糖エンジンは砂糖だけでなく、ご飯やパン、麺類など、体内で糖に変わる炭水化物(糖質)も含まれます。 解糖エンジンは瞬発力のある動きをしたり、皮膚や粘膜、筋肉などの材料を作り出します。 一方、ミトコンドリアエンジンは、酸素を燃やしてエネルギーを作り出します。 このエンジンは持続力に優れています。心臓や脳の神経細胞は持続して働き続けなければならないので、 ミトコンドリアエンジンからエネルギーが供給されます。
2種類のエンジンは同時に働いていますが、メインとサブに分かれています。 若い頃は解糖エンジンがメインで働きますが、50歳前後になると、ミトコンドリアエンジンがメインに入れ替わります。 50歳というのは生殖年齢が終わるころです。鮭が卵を産んだら死ぬように、生物は子孫を残す能力失うと、死を迎えます。 生殖年齢が終わってから、数十年も生き続けるのは人間だけです。 ミトコンドリアは長時間継続してエネルギーを作り出す持続力があるので、効率的にエネルギーを作り出せます。

50歳からは、体のメインエンジンが、解糖エンジンからミトコンドリアエンジンに切り替わるので、必要以上の糖質は摂る必要がありません。 50歳を過ぎても糖質を多く摂っていると、解糖エンジンも活発に働いてしまうので、ミトコンドリアエンジンの働きが悪くなります。 酸素を燃料とするミトコンドリアエンジンが支障を来すと、 取り込んだ大量の酸素から活性酸素が作り出されます。 この活性酸素が老化を加速させるのです。 また、余った糖質が、たんぱく質とくっつく「糖化」という現象が起こり、糖化もまた老化を促進させる大きな原因の1つです。

癌になる人の数は、50歳頃から急激に増加し、高齢になるほど罹患率が上がっていきます。 この原因は、ミトコンドリアエンジンがメインになったのに、解糖エンジンを動かし続ける食生活にあると考えられます。 また、ミトコンドリアエンジンが37℃ぐらいの温度でよく働くのに対し、解糖エンジンは35℃ぐらいの低体温かつ低酸素の環境でよく作動します。 さらに解糖エンジンは糖質を燃料としますから、高糖質、低体温、低酸素の3拍子が揃うと、癌細胞が活発化するのです。 したがって、50歳からの癌予防は、まず糖質を控え、解糖エンジンの働きを抑えることです。

◆ミトコンドリアは効率的にエネルギーを作り出せる

若く活動的な時は、瞬発力に対応できる解糖エンジンがよく働きます。 したがって、ご飯やパン、イモ類などの糖質が豊富な食べ物をきちんと食べる必要があります。 最近、糖質制限ダイエットがブームですが、若い人がやると全体のエネルギー量が減り、活力を保てなくなります。 一方、50歳以上からメインエンジンになるミトコンドリアは、人体に60兆個あるといわれる細胞の中にある小さな器官です。 1つの細胞の中には、数個から数千個のミトコンドリアが存在します。 ミトコンドリアは体内に酸素を取り入れて、エネルギーを作り出します。 長時間継続してエネルギーを作り出す持続力があるので、ミトコンドリアエンジンは、解糖エンジンより効率的にエネルギーを生み出せるのです。 生殖年齢を終えた50歳以降は、若者のように糖質を必要としません。 逆に酸素をしっかり取り入れて、ミトコンドリアエンジンを動かす必要があります。 ちなみに、ミトコンドリアエンジンは、37℃くらいでよく働くので、50歳以上の人は体を冷やさないようにして、 酸素をたくさん吸い込むような体の動かし方が勧められます。 高齢者に太極拳やヨガがよいといわれるのも、こうした体の仕組みを知れば納得できます。


■少なすぎても栄養不足などに

上記のような、食事で摂る糖質の総量を減らす「糖質制限」が、近年話題になっています。 糖質の摂取量を減らすと、血糖値が上がりにくくなると考えられます。また、体重が減ることも期待できます。 糖質制限で体重が減るのは、糖質の摂取を制限すると食事の全体量が減り、摂取エネルギー量が減ることが多いためです。 また、肝臓に蓄えられるグリコーゲンも減るため、それに代わるエネルギー源として、筋肉に蓄えられている中性脂肪が使われるようになります。 ただし、過度な糖質制限を行うと、次のようなことが起こることが懸念されています。

▼栄養不足
これまでご飯やパンを主食としてきた人が、糖質を減らそうとすると、毎日の献立を組み立てるのが難しくなってしまいます。 そのため、全体量が減ってしまい、栄養不足に陥ることがあります。 高齢者の場合は、筋肉量が減少し、身体機能が低下する「サルコペニア」という状態に陥ってしまうこともあります。
【サルコペニア】
サルコペニアとは、筋肉量が減ることに加えて筋力が低下し、身体機能が低下した状態です。 青信号で横断歩道を渡り切れない、雑巾を絞り切れない、何もないところで躓く、歩いていて人に追い越される、太腿が痩せた、 といった場合は、サルコペニアが疑われます。医療機関では、歩行速度や握力、筋肉量を測定して診断します。

▼低血糖
糖尿病があり、 薬による治療を行っている人では、食事で摂る糖質を減らし過ぎると、 血糖値が必要以上に下がってしまう低血糖が起こりやすくなります。 重症になると命に関わることもあるため、注意が必要です。

■糖質は「多過ぎず、少な過ぎず」

近年、糖質の摂取量は多過ぎても少な過ぎてもよくないことを示す研究結果が報告されました(下図参照)。 その研究では、摂取エネルギー量に占める糖質の割合が、低過ぎても、高過ぎても、死亡率が高くなっていました。 最も死亡率が低かったのは、摂取エネルギー量全体に対して、炭水化物が50~55%を占める食事を摂っている人たちでした。 なお、日本人の食事に関する調査では、平均で摂取エネルギー量の50~60%ほどを炭水化物から摂っていることがわかっています。 極端な考え方は避け、糖質について正しく理解し、適切な量を摂ることが大切です。


摂取エネルギー量全体に占める炭水化物の割合と死亡率の関係