大人の虫歯に要注意

・残せた歯が増えたために、高齢者の虫歯が年々増えている。
・虫歯は、治療済みの歯にも起きるので、注意が必要。
・予防のためには、「プラークコントロール」と「歯科定期検診」が大切。


■虫歯の原因

加齢による口腔内の変化で虫歯が起きる

『虫歯』は、歯周病と並ぶ、歯の2大疾患の1つです。虫歯は年齢を問わず発症しますが虫歯を持つ人の割合を調べた調査 (治療済みの歯を含む)で、平成11年、17年、23年を比較すると、各年齢層における特徴に変化が見られます。 5~19歳の若い人では、虫歯を持つ割合が減っています。一方、働き盛りの35~54歳の人は、100%近くが治療済みの歯を含め、 虫歯を持っており、その割合はそれほど変化がありません。それに比べ、55歳以降、特に65歳以降の高齢者では、 虫歯を持つ人が年々増えていることがわかります。 これは、以前は高齢になると、歯を失うことが多かったために、虫歯の数も少なかったのに対し、最近では歯の喪失数が 減っているために、相対的に虫歯数が増えているという事実の反映でもあります。 その一方、残せた歯が虫歯になったり、治療済みの歯に虫歯が再発(2次う蝕)したりして、虫歯を持つ人が増加していると 考えられます。高齢者の虫歯は、「かぶせ物などの境目」と「露出した歯の根元」に起きやすいのが特徴です。


●かぶせ物などの境目に注目

歯には、噛む力が毎日繰り返し強く加わります。虫歯治療によるかぶせ物や詰め物は、噛む力が繰り返し加わると、 かぶせ物などと歯を密着するセメントが劣化により割れたりして、歯との間にわずかな隙間ができます。 その隙間に、細菌の塊である「プラーク(歯垢)」が付着して、虫歯の原因となる虫歯菌が侵入し、 かぶせ物や詰め物の内側で虫歯が進行します。かぶせ物や詰め物にはさまざまなタイプや材質がありますが、 いずれの場合にも注意が必要です。 かぶせ物や詰め物が施されていると、表面はきれいに見えるので、内側の変化に気付きにくいといえます。 また、歯を処置する際に神経を取っていると、虫歯が進行しても痛みを感じないため、異常に気付くのが遅れがちです。 こうした状況のために、治療済みの歯の虫歯は、気付いたときには、かなり深くまで進行しているケースが多く見られます。 大人の虫歯の場合、新たに起こるものより、むしろ治療済みの歯に起こるものに注意が必要です。 虫歯に早く気付くためには、歯科定期検診を受けることが大切です。歯科ではエックス線撮影や、先端が鋭利な「探針」 という器具で隙間を探ったりして、虫歯を早期発見することができます。


●露出した歯の根元に発症

何らかの原因で虫歯が下がり、歯の根元が露出すると、そこに虫歯菌が付着して、虫歯が起こります。 このような虫歯を「根面う蝕」と呼び、高齢者に多く見られます。 露出した歯根が虫歯になりやすいのは、次の理由によります。歯の表面は、硬くて虫歯になりにくい「エナメル質」 で覆われており、虫歯菌から守られています。一方、歯根を構成する「セメント質」「象牙質」は柔らかく、 歯根は通常、歯肉で守られていますが、露出すると虫歯になりやすい性質があるからです。 露出した歯根は歯の神経との距離が近いため、比較的早い段階で神経に損傷を与える場合があります。 歯肉が下がる主な原因としては、「加齢」「歯周病によって炎症が起こり、歯槽骨が破壊される」「強いブラッシング」 などが挙げられます。特に強いブラッシングでは、歯肉が削れて、むき出しになった歯根が欠け落ちる「くさび状欠損」 を起こし、その部位に虫歯が起きることがあります。


●唾液の減少による影響

高齢になると唾液の分泌量が減少し、口腔内の自浄作用が減って、虫歯菌が棲みつきやすくなることも、虫歯を起こしやすい 原因の1つです。唾液が減少する理由としては、加齢により唾液腺の機能が低下することのほかに、薬を飲む必要が増えることがあり、 例えば、降圧薬や入眠剤で唾液の分泌が抑制されることがあります。また、糖尿病で多尿になり、水分不足で口腔内が渇いたり、 唾液腺や涙腺などに障害が起こる「シェーグレン症候群」などの病気でも、唾液が減少することがあります。


■虫歯の治療と予防

プラークコントロールで虫歯菌を寄せ付けない


●治療

初期の根面齲蝕の場合には、歯根面を滑らかにしてフッ素を塗布し、再石灰化と虫歯の予防を図ります。 虫歯が進行している場合には、虫歯の部分を取り去り、歯と詰め物を密着させるための「接着処理」、 詰め物の合成樹脂などを「充填」、合成樹脂を固める「光照射」という流れで治療を行います。


●予防

大人の虫歯を防ぐためには、「プラークコントロール」が重要です。毎日、正しいブラッシングを行いましょう。 根面齲蝕やくさび状欠損を起こさないように、強く磨きすぎず、優しく丁寧に磨くことが大切です。 特にかぶせ物や詰め物の境目、歯肉が下がった部分にはブラシがきちんと当たるように確認してください。
また、歯科での定期的な検診も大切です。プラークコントロールがきちんとできているかどうかのチェックを受けた後に、 専門的な歯のクリーニング「PMCT」を受けるようにします。
介護を受けている人で、介護者が口腔ケアをする場合、食べ物のかすを取ることはできても、プラークを取切れないケースが 多く見られます。介護者によるプラークコントロールが難しい場合には、歯科医師や歯科衛生士などが自宅や病院、 介護施設などを訪れる「訪問歯科診療」を利用するとよいでしょう。
歯と口の中の環境は年齢と共に変化します。年齢を重ねるにつれて起きやすい大人の虫歯があることを知り、 気を抜かずに適切なケアを行って、虫歯を防いでください。