慢性副鼻腔炎

好酸球性副鼻腔炎という、新しいタイプの副鼻腔炎が増えています。 生活の質を低下させないためにも、早目に耳鼻咽喉科を受診しましょう。

■副鼻腔炎とは?

鼻腔に起きた炎症が副鼻腔に及ぶ

鼻から息を吸ったり吐いたりするときに空気が通る道を、「鼻腔」といいます。 「副鼻腔」は、「自然口」という小さな穴で鼻腔とつながっている空洞で、頬、目と目の間、おでこの裏などの左右に4つずつ、合計8つあります。 ”鼻かぜ”などを引き金に、鼻腔に起きた炎症が副鼻腔に及んだものが、「副鼻腔炎」で、 これが3ヶ月以上続くと慢性副鼻腔炎と診断されます。


●2つのタイプ

慢性副鼻腔炎は、「好酸球性副鼻腔炎」「非好酸球性副鼻腔炎」の2つのタイプに分けることができます。 副鼻腔に膿が溜まる、いわゆる”蓄膿症”が非好酸球性副鼻腔炎の代表例です。 かつてはこのタイプが副鼻腔炎のほとんどを占めていましたが、1960年代以降、衛生環境の改善や、副鼻腔炎に効果の高い抗菌薬の普及などにより、 このタイプの副鼻腔炎は減少してきたと考えられています。 ところが最近は、これまでの抗菌薬では効果が見られない、新しいタイプの慢性副鼻腔炎が増えています。 これが好酸球性副鼻腔炎です。「好酸球」は白血球の一種で、アレルギー反応により体に炎症が起こると、血中や炎症部分に増加することが知られています。 好酸球性副鼻腔炎では、好酸球が血中、副鼻腔や気管支などの粘膜に増加します。


●好酸球性副鼻腔炎の特徴

ポリープが多発、嗅覚障害が早くから起こりやすい

◆主な原因

好酸球性副鼻腔炎と非好酸球性副鼻腔炎のどちらも、原因としてはウィルス、細菌、カビなどの感染が挙げられます。 好酸球性副鼻腔炎の場合は、そのほかにハウスダスト、ダニ、あるいはカビのアレルギーがあったり、 ウィルスと細菌の両者に感染するなどの複合的な原因によって、免疫が過敏な状態になると考えられています。 患者さんに喘息を併せ持つ人が多いのも、好酸球性副鼻腔炎の特徴といえます。

◆主な症状

どちらの副鼻腔炎でも、主な症状として「鼻水(鼻汁)、鼻詰まり、嗅覚障害」が挙げられます。 しかし、両者には次のような違いが見られます。
非好酸球性副鼻腔炎では、「緑色や黄色のドロドロした膿のような鼻水」ですが、 好酸球性副鼻腔炎では、「クリーム色でネバネバしたムチンという粘膜が主体の鼻水」です。 嗅覚障害は、非好酸球性副鼻腔炎では、症状が進行してから起こりますが、好酸球性副鼻腔炎では早い時期から起こりやすいのが特徴です。 鼻ポリープ(鼻茸)は、どちらの副鼻腔炎でも見られますが、好酸球性副鼻腔炎では、高い頻度でできることが知られています。 特に、早期から小さな鼻ポリープが鼻中の匂いを感じる部位にできやすいため、嗅覚障害が早い時期から起こりやすくなります。 また、好酸球性副鼻腔炎では、目と目の間にある副鼻腔に膿が溜まることが多いため、「目が疲れる、頭重感、頭痛」などの症状が起こりやすくなります。 その他、喘息以外にも、中耳炎や気管支炎などの病気を合併することもよくあります。 慢性副鼻腔炎を放っておくと、鼻詰まりが重くなって鼻呼吸ができなくなり、「集中力や睡眠の質が低下する」など、日常生活に悪影響を与えることになります。 また、嗅覚障害が進むと、食べ物の風味がわからなくなるほか、ガス漏れや食品の腐敗に気付かないなど、 嗅覚を通して命を守る防衛機能が脅かされることにもつながります。


◆検査

副鼻腔炎の検査では、問診、画像検査、内視鏡検査、血液検査、嗅覚検査などが行われます。

▼問診
いつから、どんな症状が起こったかを詳しく聞きます。

▼画像検査
副鼻腔炎のタイプを知るために「エックス線検査」「CT(コンピュータ断層撮影)」などの画像検査が行われます。

▼内視鏡検査
鼻腔内に内視鏡を挿入し、鼻ポリープの有無などを調べます。

▼血液検査
ハウスダストやカビに対するアレルギーの有無を調べます。 好酸球性副鼻腔炎かどうかを確定するため、白血球中の好酸球が過剰に増えていないかどうかを調べます。

▼嗅覚検査
「基準嗅覚検査」「静脈性嗅覚検査」などが行われます。 基準嗅覚検査では、バラの花、納豆など異なる5種類の匂いを吸わせた試験紙を順番に嗅ぎます。 静脈性嗅覚検査は、ニンニク臭のあるビタミン剤を静脈に注射するもので、その臭いは血管や肺を経由し吐く息に現れます。 吐く息に含まれる臭いを感知するまでの時間と、持続時間を調べます。 嗅覚が低下しても、本人がなかなか気付かないことがよくあります。 もし自分の嗅覚が低下しているのではないかと感じたら、「においアンケート」でチェックしてみるのもよいでしょう。

鼻水や鼻詰まりがなかなか治らなかったり、嗅覚障害が疑われたりする場合は、耳鼻咽喉科を受診してください。


■慢性副鼻腔炎のタイプ

好酸球性副鼻腔炎が増え、タイプに合った治療が必要になった

「慢性副鼻腔炎」には、2つのタイプがあります。この10年ほどで増えてきた新しいタイプは、 白血球の一種である「好酸球」が増えるため、「好酸球性副鼻腔炎」といい、今まで”蓄膿症”と呼ばれていた 従来のタイプを「非好酸球性副鼻腔炎」といいます。 どちらも基本的な治療法は同じですが、好酸球性副鼻腔炎の場合、非好酸球性副鼻腔炎に対して使う薬の効果があまりないことが わかってきました。非好酸球性副鼻腔炎と好酸球副鼻腔炎の割合は10対1ぐらいで、好酸球性副鼻腔炎が増えてきたといっても、 全体では非好酸球性副鼻腔炎の患者さんが大多数です。そのため、当初、詳しい検査などを行わず、好酸球性副鼻腔炎の診断が つかないことも少なくありません。慢性副鼻腔炎の治療を受けている患者さんで、数か月たっても改善が見られない場合には、 好酸球性副鼻腔炎を疑って、さらに詳しい検査を行うことが必要です。


●検査と診断

非好酸球性副鼻腔炎の場合、これまで「問診」と「内視鏡検査」で鼻の中に「鼻ポリープ(鼻茸」があるかどうか、 膿が出ているかどうかなどを調べることにより、診断を行っていました。 好酸球性副鼻腔炎の場合には、さらに「CT(コンピュータ断層撮影)検査」で副鼻腔の状態を見たり、 「血液検査」で血液中の好酸球の量を調べたりします。また、早期から匂いを感じにくくなるのもこのタイプの特徴なので、 必要に応じて嗅覚の検査も行います。


■慢性副鼻腔炎の治療

局所療法と薬物療法を組み合わせるのが中心

非好酸球性副鼻腔炎、好酸球性副鼻腔炎のいずれも、治療の柱は、「局所療法」「薬物療法」「手術」です。 主に、局所療法と薬物療法を組み合わせて行われ、十分な効果が得られない場合には、手術が検討されます。

●局所療法

鼻腔や副鼻腔にたまった膿や鼻水、あるいはムチンという非常に粘り気の強い粘液が主体の鼻水を、生理食塩水を使って洗浄します。 次に、抗菌薬を霧状にして局所に直接噴霧する「ネブライザー治療」を行います。


●薬物療法

薬物療法では、副鼻腔炎のタイプによって薬を使い分けます。

▼非好酸球性副鼻腔炎の薬
主に、「マクロライド系抗菌薬」を使います。炎症や鼻水を抑えることを目的に使用するので、 通常、感染症に使われる量の約半量にして、3~6ヵ月間使い続けます。それによって、鼻水の量を減らしたり、 鼻水を排出しやすくしたりします。また、局所の免疫の働きを高める効果も期待できます。 鼻水をサラサラにして排出しやすくする「粘液溶解薬」を使うこともあります。 治療中に細菌感染を起こして、炎症が悪化した場合などには、抗菌薬の「ペニシリン」を使うこともあります。

▼好酸球性副鼻腔炎の薬
好酸球の働きを抑制するために、「ロイコトリエン受容体拮抗薬」「ステロイド薬」を使います。 ステロイド薬は主に点鼻薬として使いますが、副鼻腔内部の腫れが強い場合は、経口薬として用いられることもあります。 また、非好酸球性副鼻腔炎と同様に、粘液溶解薬やペニシリンが使われることがあります。 市販の点鼻薬の使用では、処方や用量を守って一時的に使う分には問題ありませんが、 長く使い続けると逆に鼻詰まりを悪化させ、「点鼻薬性鼻炎」を起こす恐れがあるので、使用が長引かないように注意します。

●慢性副鼻腔炎の手術

どちらの副鼻腔炎も、局所療法や薬物療法で効果が得られない場合には、手術が検討されます。 ただし、手術を先に行うこともあります。例えば、鼻ポリープが大きくなったり、数が増えたりして鼻腔を塞いだりした場合には、 局所療法が行いにくくなったり、点鼻薬の効果が期待できないなど、治療に困難が生じることがあります。 そのような場合には、先に手術を行います。特に、好酸球性副鼻腔炎は鼻ポリープが多発しやすいので、先に手術を行うケースが 多いのが特徴です。かつては、歯茎を切り、そこから副鼻腔へメスを入れて鼻ポリープを切除していました。 現在では内視鏡手術が主流で、痛みや出血が少なく、患者さんの負担が軽減されています。 また、最近では、「ナビゲーションシステム」という手法が登場し、手術がより安全に、より的確に行えるようになりました。 これは、手術前に撮影した副鼻腔のCT画像をモニターに映し出して、現在の手術地点をその上に表示するというものです。 医師はその画像と、内視鏡の拡大画像の2つを見ながら手術を行います。 手術時間は、重症度にもよりますが、左右の手術を行った場合で通常2~3時間、入院は、約1週間です。


■慢性副鼻腔炎の日常生活の注意

再発を予防するために、日頃から花の洗浄などを行う

好酸球性副鼻腔炎には、手術をしても再発しやすいという特徴があります。 再発を防ぐためには、ロイコトリエン受容体拮抗薬などを使い、好酸球の働きを抑制し続ける必要があります。 症状が改善しても、自己判断で薬をやめずに、医師の指示に従ってください。 また、好酸球性副鼻腔炎の患者さんは、喘息をはじめ、各種のアレルギーを併せ持つことが多いので、 それらの治療もきちんと行うことが大切です。


●日常生活における注意

日頃から、自分で行える再発予防法があります。

▼風邪に注意する
風邪をひくと、再発したり、症状が悪化したりする可能性が高くなります。 なるべく風邪をひかないように努め、もし、風邪をひいたら、早く医療機関を受診して、こじらせないように注意してください

▼鼻水をためない
鼻水には好酸球や細菌が含まれています。鼻水が鼻中にたまると細菌が繁殖し、副鼻腔炎が悪化する恐れがあるので、 できるだけ長時間の洗浄を毎日行い、鼻の中を常に清潔に保つことが大切です。 鼻の洗浄は、風邪の予防にも役立つので、毎日欠かさず行うことが勧められます。

▼部屋を清潔に保つ
好酸球性副鼻腔炎には、ほこりやカビなどによるアレルギーも関与していると考えられるため、部屋をこまめに掃除し、 身の回りのほこりやカビなどを取り除くことが大切です。

▼温度と湿度に留意する
副鼻腔炎の予防のためには、一般に、部屋の温度は20~25℃、湿度は50%ぐらいがベストといわれています。 1年を通して、この温度と湿度を保つように努めてください。