大人の癲癇(てんかん)治療

脳に異常な電気活動が発生し、さまざまな症状が現れる病気

『癲癇(てんかん)』は、癲癇発作を繰り返し起こす病気です。 癲癇発作は、脳に本来来ない異常な電気活動が発生し、それが広がることで起こります。 日本の癲癇の患者数は約100万人といわれ、1年間におよそ6万人が新たに発症しています。 しかし、癲癇は不治の病ではありません。70~80%の患者さんは、適切な治療で改善できます。


●全般癲癇と部分癲癇

癲癇は、全般癲癇部分癲癇の2つのタイプに分けられます。 全般癲癇は、発作が脳全体で同時に広く起こるため、意識を失ったり、痙攣を起こして倒れたりします。 部分癲癇の場合は、発作が脳の一部で始まり広がっていくので、発作の起きた場所によって症状が異なります。


●脳の外傷や病気が原因となることも

癲癇は脳の外傷や骨髄炎、脳炎、脳卒中、脳腫瘍などが原因で起こることもありますが、原因不明のケースも少なくありません。


■癲癇の検査と診断

専門医療機関で、時間をかけた問診と検査を受ける

癲癇のタイプによって薬の使い方が変わってきます。 そのため、癲癇が疑われる場合は、まず専門の医療機関を受診して、正確な診断と治療方針を決めることが大切です。 診断には、次のような問診と検査が行われます。

▼問診
大切なのが時間をかけた問診で、医師は症状、既往歴、家族歴などを質問します。 診察中に発作が起こるのはまれで、患者さんも発作について覚えていないことが多いので、 患者さんは発作を目撃した家族、同僚などから発作時の様子を聞いて医師に伝えます。 携帯電話などで発作時の様子を動画撮影したものを持参すると、重要な情報になります。

▼脳波検査
脳の電気活動を調べます。癲癇の場合は、発作が起きていないときも、異常な波形が記録されることがあります。

▼画像検査
MRI(磁気共鳴画像)検査などが行われます。脳に癲癇の原因となるものがないかどうかを調べます。

専門の医療機関で診断と治療方針を決めた後は、かかりつけの医師の下で治療を続けるといいでしょう。


■癲癇の治療①

癲癇のタイプに合った薬を規則的に飲み続ける

癲癇の治療法には、抗癲癇薬手術がありますが、患者さんの70%以上は、薬で発作のない状態にコントロールすることができます。


●癲癇のタイプで効く薬は違う

薬物療法の中心となる抗癲癇薬は、発作のタイプを始め、副作用や患者さんの条件を考慮して選択されます。 新たに発症した癲癇では、通常、1種類の抗癲癇薬で治療を開始します。 焦点発作の場合、以前のガイドラインでは、最初に使う薬(第一選択薬)とされていたのはカルバマゼピンという薬だけでした。 しかし近年、相次いで新しい抗癲癇薬が登場し、その効果が確かめられてきました。 新しいガイドラインでは、第一選択薬として、カルバマゼピン、ラモトリギン、レベチラセタム、次いでゾニサミド、トピラマートの計5種類が推奨されています。 発作を抑える効果はいずれもほぼ同等とされています。
抗癲癇薬は、癲癇のタイプによって効き方が異なることがあるので、タイプに応じて使い分けます。 例えば、ラモキトリギンは、全般癲癇の様々な症状の中の欠伸発作には有効ですが、ミオクローニ発作に使うと悪化する場合があります。 また、カルバマゼピンは、部分癲癇の第1選択薬として使われますが、全般癲癇に対しては効果がなかったり、 場合によっては悪化したりすることがあります。
副作用のためにカルバマゼピンを使いにくかった人は、治療を始めやすくなりました。 ガイドラインで同等に推奨されたことで、医師も新しい薬を選択しやすくなるでしょう。 副作用の心配が少ない薬が増えたことで、発作が再発するリスクが高い場合には、発症後、より早期に薬物療法を検討するようになっています。 特に高齢者は最初の発作の後の再発率が高いため、すぐに薬を使い始めることが増えています。 ただし、どの患者さんにも新しい薬が合うとは限りません。例えば、レベチラセタムは一般には副作用の少ない薬とされていますが、 なかには、イライラしやすくなるなど、カルバマゼピンでは起こりにくい副作用のために使いにくい患者さんもいます。 また、薬価は、新しい薬のほうがカルバマゼピンより高くなります。


●飲み忘れは発作の誘因になる

抗癲癇薬の副作用は、薬によって異なりますが、眠気、ふらつき、気分の変化、集中できない、食欲不振などがあります。 副作用が現れた場合は、自己判断で薬を調節しないで、必ず医師に相談してください。 薬を不規則に飲んだり、飲み忘れたりすると、再発の原因になるので、必ず規則的に服薬します。 癲癇は、発作のない期間が長く続くほど、次の発作が起きにくくなります。 脳波検査の結果や生活状況にもよりますが、発作のない状態が数年以上続けば、ゆっくり薬の量を減らしていき、やがて中止することも可能です。


■癲癇の治療②

発作の原因となる脳の一部分を手術で切除する

薬で発作をコントロールすることができない場合は手術を検討します。 発作の源である脳の一部を切除したり、発作の広がりを遮断することで、発作をなくしたり、軽減できます。 特に、発作の源を取り除く手術を受けた場合は、薬でコントロールできなかった患者さんの50~80%で、発作が起こらなくなるといわれています。 しかし、日本では、手術の適応である患者さんの5分の1程度しか受けておらず、手術についての認識がまだ不十分なのが現状です。 脳の一部分を切り取ると聞くと不安になるかもしれませんが、経験の蓄積と技術の進歩によってリスクはとても低くなりました。 現在は、切除によって脳の働きに影響が出ないかを事前に検査してから手術を行うので、後遺症を回避できるようになっています。 薬を飲み続けても発作が治まらない場合は、手術を検討しましょう。


■発作の誘因を避ける

正しい理解と適切な治療で発作をコントロールする

過労、睡眠不足、アルコールなどは、発作のきっかけになります。特に、睡眠不足は、全般癲癇に影響することが知られているので、 上手に睡眠をとる工夫を心がけましょう。 また、運転に支障を来す発作が2年間ないなど、一定の条件を満たせば、癲癇のある人も自動車免許を取得できます。 患者さんは自分の病気をよく知り、どうしたら発作をコントロールできるかを理解して、医師と相談しながら癲癇と向き合っていくことが大切です。 家族を含む周囲の人は患者さんを理解し、しっかりサポートしてあげてください。 なお、同じ薬を1年以上続けても改善しない場合は、医師と相談して薬を替えたり、専門医にセカンドオピニオンを求めてもよいでしょう。 癲癇の専門医や専門医療機関は、日本癲癇学会癲癇診察ネットワークのホームページから見つけることができます。