薬物療法

『パーキンソン病の薬物療法』で基本となるのは、ドーパミン不足を補う『L-ドパ製剤』と『ドーパミンアゴニスト』という薬の2種類です。 これらで症状をうまくコントロールできない場合には、必要に応じて、そのほかの薬が補助的に用いられます。

■代表的な薬と使い方

パーキンソン病の治療の中心となるのは、次の2種類の薬です。

●L−ドパ(レボトバ)製剤

『L−ドパ』は、脳に入ると酵素の働きでドーパミンに変わり、不足しているドーパミンを補います。 治療効果が高く、速効性に優れているのが特徴です。 パーキンソン病の運動障害はドーパミン不足から起きているので、それを補充するL−ドパは最も効果が高く、早く効きます。 半面、作用の持続時間が短く、血中濃度が急速に変化します。 薬としては、L−ドパ単独のレボトバと、レボトバにドパ脱炭酸酵素阻害薬を配合した合剤があります。 L−ドパは消化管や血液中でドパ脱炭酸酵素によって分解されますが、合剤ではその酵素の働きを抑えて、 効率的にL−ドパを脳へ送り込めます。一般に合剤が使われることが多く、通常、1日3回程度飲みます。
副作用として、飲み始めの時期には吐き気や食欲不振が起こりやすいですが、たいていは薬に慣れるとともに気にならなくなります。 一方、長く使っていると、薬が効き過ぎた時に体が勝手に動いてしまうジスキネジア(不随意運動)や、 6〜7年と長期間服用していると薬の効果が早く切れるようになって症状が現れる「ウェアリングオフ」などがあります。 どちらも若年の患者さんに起こりやすい傾向があります。 よく効く薬なので、症状が重い人や早く症状を改善したい人に適しています。 また、高齢の患者さんの場合、「ドーパミンアゴニスト」を使うと副作用が出やすいので、L−ドパのみを使うことも多いのです。

◆経腸用液

2016年8月にレボトバとドパ脱炭酸酵素阻害薬を配合した経腸用液が登場し、注入ポンプから直接、腸に薬を送り込む治療が行えるようになりました。 通常の薬物療法では、十分にコントロールできないウェアリングオフの改善を目的に行われます。


●ドーパミンアゴニスト

『ドーパミンアゴニスト』は、脳内でドーパミンを受け取る受容体に結合することで、ドーパミンに代わって神経伝達の働きを補います。 L−ドパ製剤の長期使用に伴う問題を克服しようと開発された薬で、L−ドパより作用時間が長く、 長期間飲み続けてもウェアリングオフやジスキネジアなどが起こりにくいことがわかっています。 ただし、L−ドパ製剤より効果は弱く、効くまでに時間がかかりますが、ゆっくり効くので、一日中穏やかで安定した効果を得られます。 副作用の「幻覚」「眠気」「吐き気」「便秘」などはL−ドパ製剤より多くあり、高齢者に起こりやすいと言えます。 L−ドパに比べると効果がやや弱いので、初期にはドーパミンアゴニストで治療を開始することが多いですが、通常、数年後にはL−ドパを併用します。
ドーパミンアゴニストには現在(2017年7月)8種類の薬があり、麦角系非麦角系に大きく分けられます。 効果はほぼ同等とされていますが、副作用が異なります。 古くから使われている麦角系の薬では、長く飲み続けると心臓弁膜症が起こりやすくなるという報告があります。 一方、近年主に使われている非麦角系の薬では、眠気やむくみが現れやすく、突然眠り込む発作(突発的睡眠)が起こることもあります。 そのほか、両方に共通するものに、幻覚や妄想、賭け事などに夢中になる、性欲や食欲の亢進などがあります。
1日3回使用する内服薬のほか、1日1回の服薬で済む徐放剤や、1日1回張り替えるパッチ(貼付薬)もあります。 貼付薬は、胃の蠕動運動が低下して飲み薬が吸収されにくくなった人などには特に有用でしょう。 また、薬の効き目が切れて動けなくなるオフ症状を改善する治療として、自己注射が可能なアポモルヒネという注射薬もあります。 効果は注射後10〜20分で現れ、1時間ほどで消失します。副作用では眠気に注意が必要です。

▼注射薬
自分で注射をします。注射後10分程度で効果が現れるので、L−ドパの効果が切れるタイミングに合わせて使うと、 ウェアリングオフを防ぐことができます。素早く効く一方で、作用時間が1時間から1時間半と短いので、この薬だけで治療を行うことはできません。

▼貼付薬
1日1回貼るだけで、一日中、一定の効果が得られます。夜間に症状が出るのを抑えたい場合に便利です。 また、嚥下障害や肺炎があるときや、手術後で飲食が禁止されているときなど、内服薬を使えない場合にも適しています。

■その他の薬

●MAO-B阻害薬

脳内でドーパミンを分解する酵素の働きを抑えます。セレギリンという薬があり、以前は日本ではL−ドパ製剤との併用が必須でしたが、 最近、症状が軽いうちは単独でも使えるようになりました。早期には、まずこの薬を単独で使ってL−ドパ製剤の使用開始を遅らせたり、 L−ドパ製剤の増量を抑える補助薬として併用したりします。進行期には、主にウェアリングオフの改善に使用されます。
副作用で血圧が変動して起立性低血圧による立ち眩みが起こりやすいため、特に高齢者は慎重に使う必要があります。


●COMT阻害薬

COMTは体内で分解する酵素で、その働きを阻害するエンタカポンという薬があります。 血液中でL−ドパが分解されるのを抑えることで、より効率的に脳へ送り込むための薬で、ウェアリングオフの改善に用いられます。 必ずL−ドパ合剤との併用が必要で、最近では、あらかじめL−ドパ合剤とCOMT阻害薬が配合された合剤もあります。


●レボドパ賦活薬

もともとてんかんの治療に使われていたゾニサミドという薬が、より少量でパーキンソン病の治療にも使われています。 L−ドパ製剤と併用すると、その作用を高める効果があり、ウェアリングオフや震えに有効です。

◆ゾニサミド

L−ドパの作用を高めます。特に、震えやウェアリングオフの改善に有効です。ゾニサミドはドーパミン系の刺激作用のほかに、 アデノシン受容体拮抗薬のようにドーパミン系以外にも作用して(非ドーパミン系)パーキンソン病の症状をよくするので、 幻覚や不随意運動が出にくいという長所があります。L−ドパやドーパミンアゴニストの容量をこれ以上増やせない、 というときにも使うことができます。


●アデノシンA2A受容体拮抗薬

2013年に使われ始めた新しい作用のパーキンソン病治療薬です。 運動機能はドーパミンとアデノシンという反対の作用をする2つの神経伝達物質によって調整されていますが、 この薬は、そのうちのアデノシンを抑えることで、ドーパミン不足によって生じた不均衡を調整しようというものです。 イストラデフィリンという薬があり、L−ドパ製剤と併用して、ウェアリングオフの改善に用いられます。 ドーパミンを介さない作用のため、それまでの薬に追加する形で使うことがあります。


●抗コリン薬

ドーパミンが減ったことで相対的に高まってしまう神経伝達物質のアセチルコリンを抑えます。 古くからパーキンソン病の治療に使われてきた薬で、若くて比較的軽症の患者さんの初期治療によく使われていました。 現在(2017年7月)も、トリキシフェニジルなどが、主に震えの改善を目的に用いられています。


●ドーパミン遊離促進薬

インフルエンザの薬として開発されたアマンタジンという薬が、パーキンソン病に有効とされ、 特に手足などが勝手に動くジスキネジアを抑える効果があるといわれています。 この薬も、副作用で幻覚や妄想などが現れることがあります。


●ノルアドレナリン前駆物質

ノルアドレナリンはドーパミンから合成される神経伝達物質で、ドーパミンが減るとともに不足してきます。 この薬は、脳内でノルアドレナリンに変換されて、補充を図ります。 ドロキシドパという薬があり、歩きはじめの一歩が踏み出せないすくみ足や立ち眩みに用いられます。


●その他

パーキンソン病の進行を止めることを証明された薬はまだなく、今後、進行を抑制する薬の開発が期待されます。 また、患者さんの症状や年齢などに応じて、複数の薬を組み合わせて使うので、きちんと効果を得るには処方通りに服用することが大切です。 飲み薬の場合は、飲むタイミングをきちんと守ってください。